不完全自殺マニュアル

 

 

薬を飲んで横たえた
いっぱい飲んだ




うとうとしてきて夢を見た
ベッドの傍に父と母
死にそうなのに
私死にそうなのに
なんだかのんびり話してる
「大丈夫だよね 病院に連れて行く?」
なんて話して保険証探して
のんびりしてる

 

 

 

 

目が覚めた?
なんだか熱い
夢の続きの景色と同じで
何で覚めたかわからない
そのうちまた
眠気が来るさと目を閉じる

 

 

 

 

とんでもない!
寝返りゴロゴロ
そのうち息が
空気が吸えない
吸おうと肩をいからせなければ
空気が吸えない
怠けていると窒息しそう
一生懸命息を吸う
おかしい おかしい
眠ってる筈なのに何故覚めた?
この苦しさは尋常じゃない
やっとほんとに覚めたの信じた

 

 

 

 

眠らなければ
眠らなければもう一度
眠ってる間に済んでる筈よ
そうなる筈よ
早く眠らなきゃ
このままもがいてただの窒息?
冗談じゃない!
眠らなければ
眠ってる間のことにしなければ!

 

 

 

 

 

苦しむのはイヤなんて
苦しむのを避けて済まそうなんて
甘い考え
死にはいつも もがきがつきもの
ああ そうだった甘かった
あの「本」は嘘つき








ドクン ドクンと胸を打ってる
早鐘ってこのことか
ああ 私
もがいて もがいて
ぶざまにもがいて
やっぱり死なずに胃洗浄なの?
苦しいって書いてあった
死ぬより
胃洗浄がイヤだって







ああ苦しい
ああ苦しい
息が 息が 心臓が
今止まる
すぐ止まる

 

 

 

 



Shady Borobudur in Indnesia
Photo by David

 

 

 

 

やめよう やめよう
やめた やめた 死ぬなんて
もどしてしまおう
吐きもどしてしまえばいい
お願い助けて
やっぱりやめる
死ぬなんてやめる

 

 

 

 

 

 

吐いても吐いても
全部出ない
指を突っ込んで
緑色の薬の跡
ダメだ ダメだ 止まらない
もう限界
お父さん お母さん
私をすぐに
すぐに助けて

 

 

 

 

 

 

母の平手打ち
でもやっぱりあの夢の通り
二人はもたもた
私は焦る
ああ このことだ
死ぬ前にこの未来を予知した
こうなったら後は決まった
苦しいみじめな胃洗浄






「来る前には電話してくださいね」なんて
看護婦の田舎訛り
バカバカしいインターンの医者
わからないの この苦しさが
本なんか開いて
解毒剤を調べて見ている暇はないのよ
「胃洗浄しないの?」と尋ねたら
「今考えてます」と答える
だんだん だんだん
ほんとにみじめ

 

 

 

 

 

 

やっと医者の決意の胃洗浄
あちらこちらに管を通され
私は何?
生き物なの?






サイズの合わない太いチューブが
喉に当たって
話をすれば声にならずにもどすだけ
命を落とす代価なんて
どんなことして払えるというの

 

 

 

 

 

 

身体の中から薬が消えて
頭の中だけぼんやりしてる
ぼんやり ぼんやり
やっと眠れる
やっと私は病人らしく
ぐったり ぐったり
横になってりゃ皆が来るけど

 

 

 

 

神の迎えは来なかった
マニュアル通りに来なかった

 

 

 

 



Borobudur in Indnesia
Photo by David

 

 

 


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