鹿沼市立川上澄生美術館

 大正から昭和初期にかけての創作版画運動は、多くの版画芸術家を生み出しました。その中でも詩的な発想を巧みな技術で表親し、異彩を放った川上澄生は、明治28年横浜で生まれ青山学院高等科を卒業後、大正10年宇都宮中学校の英語の教師として赴任しました。
英語教師のかたわら木版画の制作を続けていた川上澄生は、アンリ・ルソーを師として仰ぎ、自らも日曜画家に徹し、没後数十年を経過した現在もなお、ファンは増え続けています。
当館は、川上澄生の教え子でありコレクターでもある長谷川勝三郎氏(現名誉館長)の2000点にも及ぶコレクションの提供により、平成4年9月に開館しました。鹿沼の市街地、黒川のほとりに建つ明治の洋館風の建物は、川上澄生の作風を反映しています。内装は木のまち鹿沼にふさわしく随所に木が使用され、1階ホール正面には、鹿沼市在住のガラス工芸家である濱田能生氏によるステンドグラスが、やさしい光を運んでいます。
収蔵作品は木版画をはじめ、ガラス絵、革絵、焼き絵、木工玩具、陶器など多岐に渡り、川上澄生の画業の幅広さを物語っています。これらの作品は、年2回の企画展により紹介され、毎年初夏の風薫るシーズンには川上澄生の代表作「初夏の風」の特別展示を行います。この作品は川上澄生の代表作であり、恋慕の情を自作の詩に託し、絵と詩とを同一画面に融合させた多色刷の美しい木版画で、棟方志功が版画を志すきっかけとなった作品としても有名です。この作品を目あてに訪れる来館者も少なくありません。
「初夏の風」1926年(大正15)木版多色刷
第5回国画創作協会展に「月の出」と共に出展。この時、まだ無名であった棟方志功はこの作品を観て版画に開眼し、「星座の花嫁」を制作。
「初夏の風を観たときから私の版画は始まったのでした」と記しています。
パラソルを持ちボンネットを被った婦人を取り囲む風は、擬人化されて描かれており、平仮名のみで刻まれた自作の詩は、絵の中にリズミカルに融合しています。木版画の詩人川上澄生の幕開けとなった作品でもあります。