favorite tunes and albums*10
ついに、ぼくがもっとも愛するバンド、SUEDEの三年ぶりの新作が出た。 今までになく明るくて健康的な音になっていて、ちょっとビックリ。今までのスエードは、とても朝っぱらから聞ける音楽じゃなかったのに、タイトルからしてA New Morning。なんか裏がありそうで緊張しちゃったけど、これが本気だったのだ。 最初の二作は、ひとことで言えば頽廃的で、ヘロインなどなどドラッグなしではとても成り立たない世界だった。(90年代前半の来日のときには、彼らの演奏はボロボロだったし、特にただでさえ短かったライブの後半はバテバテで、誰が見ても不健康そのものだった。)それはそれでむちゃくちゃカッコよかったのだけれど、アルバム全体で見ると多少バラつきがあって、いつでも熱狂的に聞ける曲ばかりというわけではなかったし、やっぱりちょっとばかり辛そうな音楽だった。下手に受け入れたら死ぬしかないものと絡み合いながら、そいつを半分飲み込んでハイになりながら、もがいているかのようだった。刹那的な美しさに満ちているんだけれど、そこからは出られないという絶望と隣り合わせで、音楽自体に対する愛によって、かろうじて希望がつながれている状態だったように感じられる。 とにかく、新作があまりにも素晴らしく、素晴らしいんだけれど、今までのアルバムとのあいだのギャップが激しいので、つい一枚目から前作"Head Music"まで聞きなおしてしまった。そうすると、やっぱり、今までの作品では、実は作ってる方としてはどこかモヤモヤしたものが残っていたのではないかな、という気がしてきた。 "Head Music"の段階では、もう余裕の音づくりで、最初のころのような脆い感じはなくなっていたし、99年にベルリンで見たBrettは健康そのもので、なぜかクネクネしながらカッコつけてるマッチョな肉体労働者みたいで、パフォーマンスも最高だった。でも、まだなにかが足りなかった、というか、もっともっと彼らしく、彼自身に近づく余地があったということなんだな。 彼らは新作を出すたびに大胆にスタイルを変えるものだから、待っているほうは初めて聞くと必ず戸惑わされるのだけれど、いつも聞くうちに本質的な一貫性が浮かび上がってくる。そうやって曲やアルバムの完成度はどんどん上がってきていた。でも、決定的な仕方で殻を破ったのは今回が初めてのような気がする。おそらく、中心人物のヴォーカリスト、Brett Anderson の人生の局面が変わったのだ。危機を乗り越えて、スッキリしたのがひしひしと伝わってくる。エフェクターでいじっていないナチュラルなヴォーカル、真っ直ぐ届いてくる生ギターのディテイル・・・音は、これまでにない落ち着いた喜びの感覚を湛えている。でも、その感覚は重すぎず、軽すぎず、不自然な明るさや、彼岸的な飛躍とは無縁で、あくまでも現実の世界との、より直接的で素直な出会いを感じさせる、自然体の覚悟に裏付けられた、スカッとした爽やかさなのだ。 切なくて、はかない感じは変わらないし、ぼくらの生きるこの世の悲惨さに対するクリアな認識は揺らいでいないのだけれど、ここには愛があるのである。びっくりするほど、照れくさいほどロマンチックな曲も、そこには現実逃避的な甘さはなく、世界の悲しみを、自分にとって自然な範囲で、まずは受け入れようとする、静かな自信が反映されている。 面白いのは、何曲か、Aztec Camera = Roddy Frame を彷彿とさせる曲があることだ。歌詞のテーマのせいで考えすぎたのかもしれないけれど、When The Rain Fallsは、"Frestonia" (Aztec Camera)のRainy Seasonを思わせるし、ほかにも、"The North Star"(Roddy Frame)あたりを連想させるギターリフや、歌メロ、音色がいろいろとある。思いもよらず、お気に入りアーティストが似てきてしまった。あんまり賛同してもらえないかもしれないけど、ぼくは不思議がって喜んでいる。でも、歌詞はSuedeのほうが、シンプルな言葉でいきなりハート鷲づかみ的な鋭さがあって、カッコいい。Roddyの歌詞はやたら韻を踏んでいて、昔の詩みたいで、過度に文学的というか、インテリっぽいというか、やや作りすぎな印象があるので。もちろん、悪くないんですよ、こちらも。あえて比べれば、ということで。 "Astrogirl"という曲がまた最高。ちょっとDavid Bowieの"Space Oddity"みたいなムードなんだけど、凄く凄くいい。とんでもない。でもほかの曲も・・・。ギターバンドぶり炸裂の"Coming Up"も、もはや分類不能な進化形ポップスを作り出した"Head Music"も、新作が出たからって輝きが失せることはないんだけれど、今作はどうやら特別中の特別だったのだとしか思えない。 今まで、ぼくはSuedeについては、誰にでも薦められるとは思ってなかったんだけど(ま、それは事実なんであって、今でも現実は変わってないんだろうけど)、このアルバムに限っては、ありとあらゆる音楽ファンに是非とも推薦したい。生きる勇気が湧いてきちゃうのです。今聞いてわからない人も、きっとしばらくしたら、絶対わかるはず。抵抗できるわけないんだってば! この魅力には。 やっぱりハッピーなのが一番なんだよ。ただし、この世の現実から逃げずにね。そういうことだってできちゃうんだよ、音楽っていうのはさ。(26.Nov.02)
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