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ドイツにはなにかと縁のあったぼくだが、ドイツのポップ・ミュージックと言えば、80年代以来、へヴィー・メタルとかテクノとかいうイメージが強くて、それ以前の伝説のバンドの話なんてピンと来ないし、日本にいながらにして出会うことができたのは、80年代的反戦平和ソング(?)「ロックバルーンは99」なるヒットを飛ばしたNENAくらいのものだった。 このNENAは、英米の同時代の大物と比べるとやや洗練度は低いものの、ポップセンスもあるし、サウンドにも個性があって、歌もうまいなかなかいいバンドだった。東京の店でも英米版あるいは国内版のレコードやCDが普通に手に入ったので、ぼくは一応フォロウしていた。 しかし、いくらなんでも、ドイツのポップスが、メタルとテクノとNENAだけのわけはない。ほかのバンドが聴いてみたい、好みのバンドを発見したい、とぼくは常々思っていたのである。(ちなみに、メタルとテクノは、残念なことに、ぼくがまったく興味をもてない数少ないジャンルだ。) ベルリンで暮らし始めると、早速ラジカセを買って毎日FM放送を流し、ときおりヒマになるとCD屋に出かけて試聴をした。 現在の状況は知らないが、当時のベルリンのCDショップは、店に並んでいる商品はすべて試聴可能で、購入時同様、棚から気になるCDを選んでカウンターに持って行くと、店員さんがパッケージを開けてプレイヤーでかけてくれた。大型店の試聴コーナーでは、客たちがズラリと並び、試聴用CDを山のように積み上げて、片っ端から聴きまくっている。ぼくは、何時間も試聴を続けるパワーはなかったので、調査にも限界はあったが、それでも無料であれこれ試すことはできた。 どうも、ラジオのオンエアでは全般的に英米ポップスが強いようで、ドイツ語で歌うバンドの曲は半分に満たない印象だったが、それでも、折に触れての探索のかいあって、帰国するころには、お気に入りのバンドを三っつほど発見することができた。 ひとつはBAPというバンドで、これは70年代からやっている大ベテラン。ケルンの土着バンドである。ケルン方言で歌っているので、ほかの地方の人間には聞いてもわからない部分がかなりあるらしく、アクの強いバンドだが、ギターサウンドをメインに、キーボードやホーンに女性コーラス、パーカッションなどもはいった賑やかで上手いバックに、渋いおっさんのメインヴォーカルが乗った、いわゆるイブシ銀系。ヒット曲もたくさんあるが、最近のアルバムでもきっちり進化していてカッコいい。とっても普通なんだけど、魂のある「ロック」をやっている。実力派ってやつですね。"Tonfilm"とか"Aff un zo"など新しめのアルバムがいい。 残り二つは、言ってみればオールタナティヴ系ロック。演奏はむちゃくちゃうまくて、音もきれい、だけどなぜかパンクみたいな暴力的破壊的雰囲気が漂っていて、そこに知的でクールでちょっと屈折した歌詞がのっている・・・。あえてまとめて紹介すると、そんな感じなのだが、この手のバンドを輩出しているのが、ドイツではハンブルクらしい。 ハンブルクと言えば、イギリスと定期航路で結ばれた港町で、かつてはビートルズも出稼ぎライブをやりにきたところだ。つまり、ブリティッシュ・ロックとドイツ語圏との地理的接点だったわけだ。そういう歴史的背景の影響力は意外と大きいのかもしれない。 Die Sterne は、オルガンとエレピが印象的な、どこかジャズっぽい演奏が特徴。ビシッとタイトなリズム隊の熱さと、音数の抑制が効いていて、ときに無機的な仕上がりが魅力。ヴォーカルは男性で、無愛想かつチャーミングな微妙な路線。アルバムにはたいてい、予定調和を破壊する理解不能な曲がはいっていて、反抗的な心意気を見せている。とりあえずオススメは、99年の "Wo ist hier" と2003年のライブ盤 "Live im Westwerk" 。 Blumfeld は、初期はかなり素人っぽく壊れてる感じだったようだが、99年の"Old Nobody"で一皮剥けた。驚くほどクリアな空気感のある、最高に美しいサウンドは、ほかにはないもの。ヴォーカルも上手いし、温かみのある声はバックによく合っている。2001年の "Testament der Angst" も同路線の快作。最近出た "Jenseits von Jedem" は、今までのサウンドに、ブルースっぽいような、ソウルっぽいような、アメリカン・テイストがちょっとだけ加わって、なんとも独特の雰囲気があって面白い。 紹介されたのはいいけど、どこで聞けばいいのよ? と思う方も多いでしょう。ぼくは、ドイツのアマゾンで買ってます。便利な時代になりました。でも、送料が高いので、CD1〜2枚だけの購入だと、すごく割高になってしまう。うーん、やっぱりドイツは遠いな。
(21.Dez.03) |