音楽的快楽の日々*17

ストーンズを聴こうぜ

人間、たまにはワイルドでご機嫌な気分にならないと、などとひとりごちながら、ときおりヘッドフォンのなか、ストーンズを鳴らして街を歩き、部屋へ帰ってはまたターンテーブルにレコードを乗せ、針を落とす。ある種の単純な開放感、暴力的な苛立ちを納得づくで昇華させてくれる陽気な反抗、くだらないストレスを蹴散らして、おれの人生はおれの人生だ、勝手にやらせてもらうぜ、という強気の勢いを取り戻す、それが大人のためのロックの効用、というわけで、たとえば今日はストーンズなのである。

ストーンズなる存在のイメージ全体からして魅力的なのだけれど、具体的にどの曲、どのアルバムを聞くか、ということになると、聞き手としてのこっちもちょっとづつ変化し続けているものだから、人生のフェーズに応じて変わって来ているようだ。ま、なにはともあれ、ぼくはぜひとも多くの人にストーンズを味わってほしいので、まずはこのへんからでどうでしょう、という提案をさせてもらうことにする。

で、いきなり本日のストーンズ・アルバム、ベスト3。

一位、"Let It Bleed"、二位、"Sticky Fingers"、三位、"Goats Head Soup"。

古いなあ。でも、やっぱりこうなっちゃう。じゃ、ここ20年のストーンズは無意味なのか、というと、そうでもなくて、それなりにいいのである。でも、ストーンズは意外とけなげで、時代の流行に合わせようと努力するほうなので、おおまかに言うと80年代は、音があまりにも80年代っぽい。時代のバブリーな明るさを反映して、いかにも大量生産の規格品という感じの機械的で薄っぺらな小奇麗さが、ストーンズの音にもやっぱり影を落としているので、彼らのカッコよさの真ん中あたりがちょっとわかりずらい感じがするのである。だからあんまり初心者には薦めたくないなあ、ということかな。でも、存外そういう音のほうが入りやすかったりもするのだろうか。70年代のまんまじゃしょうがないということで、一生懸命工夫してる時期、という印象もある。

"Steel Wheels"以降は、原点回帰である。90年代の音で、往年のロックンロールをやるというところで落ち着いている。ぼくとしてはそれで満足なので、このへんもまたよし。だけど、さすがにだんだん「おじいさんロック」化してくるので、ハラハラしたり、ドキドキしたりはさせてくれないな。往年のオーラへのノスタルジーを差し引くと、だいぶ寂しいことになってしまいそう。それにしたって信じられないくらいビシッと決めてくれるし、キャリアの長いプロならでは安定感っていうのはいいもんなんだけどね。あの年にしてこれか、と思うと、連中はやはり怪物。

というわけで、やっぱりぼくは70年代が一番好きなんだけれど、ライブ盤がまたいいのだ。絶対はずせないのが、"Love You Live"、まずはこれだ。アナログでは2枚組だったんだけど、CDではどうなってるんだろうなあ。とにかくカッコいい! スタジオ録音盤とは全然違うのである。そうか、そういうことだったんだ、って納得。スタジオ録音盤は、ライブでやる曲の見本に過ぎないんだなあ、ストーンズはやっぱりライブなんだな、ってことを改めて思い知らされる。まあ、聴いてみてくださいよ。プハーッて感じにリラックスして、腰を振ったりしてみてちょうだい!

ライブ盤と言えば、新しいところで、"Stripped" も面白い。これは例のMTV企画のアンプラグドシリーズ。アコースティックっぽいライヴなので、ブルースやバラードが渋い。よしあしは別として興味深いのは、なぜかスタジオ録音みたいなまとまりの良さで、全然ライヴっぽくないこと。おとなしすぎてストーンズらしくないんだけど、これはこれで入門編としては悪くないかも。 (25.Nov.02)


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