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1980年代前半、まだ大学にはいったばかりの頃だったと思う。夜中に
テレビをつけたら、赤い短いワンピースを着た小柄な女の子が、バンドをバックに
歌っているライブビデオを放送していた。ゴロゴロウワァっと喉を鳴らす感じの、
可憐でやんちゃで迫力のある、今まで聞いたこともない特徴的な声と歌いかただった。
見かけは東アジア人なのに、バックバンドは白人の男たちだし、ややなまりのある、でも日本人や中国人のなまりとは違う英語だった。ものすごく気に入ったぼくは、そのSugar Cubesという
アイスランド出身のバンドの "Birthday" なる曲のCDを次の日から探し始めたのだが、ようやく発見するのは数ヶ月後だった。いわゆるマキシ・シングルで、なぜかフランス版だった。もう一枚アルバムが並んでいたので、つい期待して買ってしまったが、当時のぼくのセンスではクズ同然の、いかにもインディーズという感じの暗くて退屈な駄作だった。でも、あのヴォーカリストだけは特別だった。のちにソロ活動を開始するBjorkである。
その後の彼女の音楽がそんなに好きかというとそうでもないのだが、出会いが印象的だと、いつまでも特別な存在みたいな気がするものだ。大物になったし、今でも文句なしにチャーミングだとは思うんだけれど、ぼくにとっては、あの深夜のテレビ画面で見た赤いワンピース姿の彼女の印象が、なんといっても鮮烈なのである。今でも、彼女の作品のなかでは、あの曲が一番好きかもしれない。
"Ben Folds Five" と "Green Day" という別段なんの親近性もなさそうなバンドがぼくのなかで隣りあっているのも、出会い方に理由がある。要は、"The Best Imitation Of Myself" と "Basket Case" が同じ頃流行ったということなのだが、ぼくにとってはもうちょっと共通する事情があるのだ。
ぼくは丁度自分の主催する劇団の公演体制に入っていて、連日の稽古のあと、深夜、渋谷の公園通りのドーナツ屋で一服する習慣だったのだが、そこでかかっているテープに両方の曲がはいっていて、アーチストもタイトルもわからないままだったのだけれど、この二曲が一番ぼくの好みだったので、聴くのを楽しみにしていたのだ。"Ben Folds"のほうは、ぼくの感覚では、クイーンとチープトリックを足して二で割ったみたいな、どっかビリー・ジョエルっぽくもあるような、という印象、 "Green Day"のほうは、特にどうってことない能のないロックだけど、なんかグッと胸に迫るものがあるなあ、という感じだったが、両者ともにポイントは高かった。
そのあと、どちらのCDも、別の機会に、たまたま店頭で目に付いて、それと知らずに買ったのである。で、家に帰って聴いてみると、例の曲がはいっているではないか! 一目ボレした女の子に偶然再会したみたいで嬉しかった。名前も知らなかったのに。
というわけだ。
OASIS との出会いも悪くなかった。
下北沢にある小劇場「スズナリ」に芝居を見にいったときのこと、ちょっと時間に余裕があったので、ぼくは例のごとく、すぐそばのディスク・ユニオンに暇を潰しに行った。するとそこで彼らのファースト・アルバムがかかっていたのである。当時はまだバンドサウンド復活全盛期ではなかったので、お、ひさびさにイギリスのバンドっぽいバンドじゃんか、と即座に反応し、買ってしまった。
そういう経緯があると、思い入れが違ってくるものだ。
買い物中毒の禁断症状が出ているようなとき、CD屋に平積みになってるやつを、なにも考えずに衝動買いするというのは、失敗が多いから、できれば避けたいものだが、それで成功した数少ない例が、Manic Street Preachers の "Everything must go" である。
それまでの Manics にはそれほど興味がなかったのだが、手にとってあの寂しそうなジャケットを眺めていたら、買わずにおられない気になった。衝動買いに変わりはないが、結果的には正解だった。(31.Aug.02)
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