DMC-12普通化計画の全貌

 

今回、豊橋のDMC-Jでエンジン関係、排気系、ブレーキ系統などの大幅な見直しと修理を実施したので、前回までの補修箇所と併せて、その全貌と成果をまとめてみた。これだけの改修を施すには、それなりの出費が必要である。今回の修理/改良によって、必要な改修に一括して必要な資金を投入すれば、DMC-12はかなり信頼性の高い車に仕上がることが証明された。

 DMC-12のトラブルでお悩みの方には、場当たり的な小修理を繰り返すよりも、一括してチューニングし直す方法をおすすめする。一括チューン・アップのメリットは、補記類も含めた部品交換/調整が可能になるので、多くのマイナー・トラブルが一気に解消されることである。場当たり的な修理/調整の繰り返しは、最終的に大修理をしなくてはならいほど事態を悪化させることが多いので、結果的に高くつく。自動車はトータルにバランスがとれていて初めて正常に機能するから、長い目で見れば、一括した改修によって費用も修理期間も節約できる。

 

(1)エンジン・チューニング

40000マイルを超えた出所不明のエンジン(ほとんどのDMC-12は中古車であるから、どのような使い方をされていたか不明である)であるため、今回は全面的なチューンアップを施してもらった。

 ヘッド周りはカムシャフト/タペット/バルブ/バルブ・スプリング等の交換/調整の他、燃料系統のチューニングとして、フュエル・ディストリビュータの交換/調整も必要であった。

(2)排気系のグレードアップ

エンジン・チューニングだけでも、長年の酷使で低下した出力とトルクを回復できるが、ここは奮発してStage-Iマフラーの装着をお願いした。エギゾースト・マニホールドから全て交換になる。一見簡単そうな作業であるが、マニホールド固定用ボルトが曲者で、形状とサイズが異常(7mmφ)な上に、錆びて折れやすいため、よほど運のいい人でない限り「無事故」で脱着することは不可能である。ちなみに、このボルトが一本折れると、エンジンボディーに新たにタップを立ててねじ山から作り直すことになるので、エンジンの脱着が必要になるため、とてもDMC-HHPに書かれているような価格では作業できないと言われている。発注の際は、最高で、DMC−HのHPに記載されている工賃の2倍程度まで費用がかかることを覚悟すべきである。

(3)ブレーキ系統のチューンアップ

ブレーキ系統の信頼性の向上と、パフォーマンスの向上のために、ステンレス・メッシュ被覆のブレードホースに交換した。この際、古いブレーキ・オイルもしっかり交換。

(4)ステアリング系統のチューンアップ

ステアリング系統の増し締めと調整のほか、今回は「やつれかけてきたステアリングホイール」も新品と交換した。

(5)冷却系の見直し

前回のチューニングで、私の車の冷却系は(1)コアの厚いラジエターへの交換、(2)ファン・モーターとリレーの交換が行われており、十分なオーバーヒート対策がなされている。また、ウオーター・ポンプも新品に効果済みである。ちなみに、DMCグループ本社から供給されるウオーター・ポンプにはプーリーが付けてないので、専用工具と技術が必要なため、素人作業はおすすめできない。冷却系の見直しで、絶対にやっておかなければいけないことがある。それはファンフェイルリレーを廃棄してその周りの配線を強化しておくことと、ファン回路のブレーカーの交換(40A用に)である。高電流回路なので異常発熱がないように、接点は全てねじ止めまたは圧着しなくてはいけない。

(6)電気系統の見直し

各種リレーの交換はもとより、オルタネータの大容量化による電力不足の解消を行った。また既に(1)ヘッドライトのHID化、(2)リアランプ回路の見直し(導電性の粘着銅テープを使ってリア・コンビネーションランプ回路基板を作り直した)を終了している。リアコンビネーションランプは、この機会にLED化した。リレーではないのだが、DMC−12でよく起こる問題として、エアコンブロワーの高速回転により、ブロワーサーキットの温度ヒューズ(ブレーカー)がすぐ切れるという報告がある。これの解消には、容量の大きい(30A)のブレーカーへの交換が推奨されている。部品はDMC−Jで手に入る。ブレーカーには極性がないので、誰にでも簡単に取り換えられるが、発熱するものなので、配線はねじ止めまたは圧着しなくてはいけない。
 他にもヒューズボックスの交換などを行っている。詳しくは別の項を参照してほしい。。

(7)外装の見直し

既に、全ての外装ランプ部品(プラスチックレンズ)の交換、フロントとリアを除く全ての外装ランプのLED化を行っている。今回は、なんと、リア・ルーバーまで「ほとんど新品」のものを譲っていただいた。

(8)内装の見直し

私の車は、既に(1)ダッシュパネルの修理(張り替え)(2)ビナクルの修理(張り替え)のほか、(3)1DINインダッシュナビ/ステレオ(中古のジャンク品を修理して使用)への交換、(4)コンソールの化粧板(プラスチック)の交換とシフター付近のステンレス化、(5) メーター・クラスターのメトリック表示のものへの交換の他、(6)シートは豊橋のDMC-Jのご厚意で、純正の新しいシートに限りなく近いものを譲っていただき、装着してある。今回は雨漏りの補修のついでに、「雨漏りでダメになったフロアカーペットの交換」も行った。もちろん、フロアマットは新品でである。また、ETCの設置などでごちゃごちゃになったダッシュ下の配線も短く切りまとめて、きれいに配線し直した。ついでに、伸びきって切れてしまった後ろのカーゴネットも、純正品に交換した。壊れた楕円形純正スピーカーの替わりには、リアのファイア・ウオール手前の板上に、BOSEの箱形スピーカー(中古)をボルト止めしたが、能率の悪いスピーカーなので音量が小さくて役に立たない。いずれ、日本製の高能率スピーカー・ユニットに入れ替える予定である。

 ((9) ミッションコンピュータの交換と調整

     昨年、シフトスケジュールが怪しいミッションコンピュータを、DMC社が新たに開発したものに取り替えてもらった。ついでに、ミッションマウントなども新品に交換して頂いたので、シフトショックも激減し、乗っていて気分は最高である。非常にスムーズなシフトアップと、フルブレーキング時の適切なシフトダウンは、現在の車より感動的である。


以上の結果、かなり信頼性が高く、美しい車に仕上がった。あとは、ボディーの小さなへこみやフロントグリルの若干の変形、天井の内張(新しいものであるがフィット感が悪い)などが気になるので、こちらの修理は次回に持ち越しである。

 

改修による効果

 

(1)エンジン本体(補器類も含む) )からのノイズが激減し、排気音だけが強く聞こえるという状態になったので、エンジン自体の健全性が高くなっていることがわかった。

(2)エンジンのトルク感が増し、高速ランプ・ウエイでの合流、追い越し時のストレスがなくなった。全体的に、現代の平均的乗用車(2000ccクラス)の走りと快適性が得られた。これは、30年以上前に製造された自動車としては驚異的なことである。

(3)電気系統の信頼性が増し、特にリア・コンビネーション・ランプは接触不良がなくなって動作が確実になった。

(4)運転席とコクピット周りが快適になり、居住性が向上した。

(5)排気音は予想以上に大きくなっており、室内では音楽を聴く気がしなくなった。しかし、スポーツカーらしい排気音は官能的であり、出力向上のためのライト・チューンとして、マフラーの交換は是非皆様にお勧めしたい。


感想: やはりこの車は、購入価格が安いと、そのままではまともには走らない。この車の購入には、James Espey氏の著書(この本もDMC−Jで取り扱っている)にしたがって、できるだけ程度の良い個体を購入し、購入後直ちに豊橋のDMC−Jでチューン・アップしてもらうしかない。そのためには、やはり車両価格と修理費用を合わせて500万円程度の費用がかかると考えた方が良い。しかも、修理はすべて一括して行うことが必要である。 また、豊橋のDMC−J以外の工場に持ち込むことはおすすめできない。理由は機械式Kジェトロニック燃料噴射装置を備えたDMC−12の調整を安心して任せることのできるメカニックは、DMC−Jを除けば、日本にはほとんどいないからである。

今回の修理で、私の車もようやく普通に走るマシンになった。考えてみれば、500万円弱であこがれのDMC−12に「普通に」乗れるのである。昨今、目を背けたくなるようなデザインの国産車でさえ500万円を超えるものが沢山ある。10年後にそれらの車のほぼ全てがスクラップになってこの世から消えることを考えれば、DMC−12がこの価格で手に入るというのは奇跡でしかない。DMC−12はこれまで30年以上愛されて走り続けてきた。これからも未来永劫に渡ってその輝きと価値を維持し続けることを考えると、この価格は十分に納得できる。