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最首 紫姫

 

あの人が私を見ている。

 

 学校のアイドル、全校生徒の憧れ、生徒会書記二年西野紗理(さり)、通称『綾千(あやち)のヒメ』。愛くるしい顔。人なつっこくて優しくて、誰にでもわけへだてなく接する素直な性格。誰もがみな、ヒメのそばに行きたい、その笑顔を自分のものだけにしたいと願う。

…それを、私は、自分だけのものにしてしまった。

 

 「(かおる)!やる気がないなら道場から出ていきな!」

あの人…紗理さんが去ったあとを、ぼんやりと眺めていたら、部長の声が飛んできた。矢をつがえ、かまえようとしたときに、紗理さんの視線に気がついて、去って行く後ろ姿をずっと目で追ってしまっていた。

「すいません!部長!」

「最近たるんでるんじゃない?その辺走って、頭冷やしておいで!」

「はい!」

返事をして弓道場を出て、裸足にスニーカーを履いて外に出る。

 走り出した体には秋の風が心地いい。

 頭を冷やすために、学校の周りのランニングコースを2〜3周…そう思ったけれど、ちょっと寄り道をすることにした。校舎を挟んで弓道場と正反対の位置にある第1特別棟、通称『お城』へ向かって走り出す。お城には生徒会室がある。今から走れば、お城の中に入る紗理さんの姿が見れるかもしれない。

 

 お城の前の渡り廊下が見えた。

 紗理さんは急いでいるらしく、小走りに渡り廊下を通っている。

「紗理さん…」

 声をかけようかとしたが、思いとどまる。私は部活中、紗理さんはこれから生徒会のお仕事。お互いに、やるべき事がある。

 がまんがまん…。姿を見れた、それだけで充分…

と、本来のランニングコースに戻ろうとした、その瞬間、突風が…

「きゃぁ〜っ」

  紗理さんの悲鳴に振り返ると、『綾千のヒメ』は必死に髪をおさえ、そのためにスカートを押さえられず、ひるがえるペチコートのレースから白い足をあらわにしていた。

 「…!」

思わず駆け寄りそうになる衝動をこらえる。幸い周囲に人はいない。

「まったく、紗理さんは…あぶなっかしいんだから。私がいないときにピンチにならないでくださいよ〜」

祈るようにつぶやいて、薫はもと来たの道を走って行った。

(「p.t.m.n.」に続く…?)