志摩子は学園の銀杏並木を、一人静かに歩いていた。
志摩子の三歩ほど前には、白薔薇様。志摩子のお姉さまである佐藤聖が、いつも通りサクサク歩いている。
(きっと、ここで私が立ち止まっても、お姉さまは振り返らずに行ってしまわれる。)
別に、それがイヤな訳ではない。立ち止まってほしいと求めるつもりもない。
本当に欲しいものは、ちゃんとくれる。
だから、満足。
たぶん、満足。
・・・でも、時々感じる言葉にできない感情。
(栞さんだったら・・・)
お姉さまに関するうわさ。うわさだけども、多分、ほぼ事実だろう『白薔薇様と栞さん』
お姉さまの一番大切だったひと。
・・・だった?いや、大切なひと。
(じゃあ、私は?)
志摩子はモヤモヤした気持ちを打ち消すように、勢い良く首を振った。
なんだか、無性にお姉さまの名前が呼びたくなった。
だけど、声には出さなかった。出せなかった。
あまりにも自分が情けない顔をしているのをお姉さまに見られたくなかったし、
なにより、そういう姉妹だから。
(お姉さま・・・)


聖は学園の銀杏並木を、一人静かに歩いていた。
聖の三歩ほど後ろには、白薔薇の蕾。聖の妹である藤堂志摩子が、いつも通り静やかに歩いている・・・のだろう。
(きっと、ここで私が立ち止まっても、志摩子は一人で先に行けるんだろうな。)
あの子は、それができる子だから。
一緒に立ち止まる必要はないってことをちゃんと分かっている子。
栞とは違った強さを持っている子。
(栞だったらどうするだろう?・・・まぁ、考えても意味のないことだけど。)
今、志摩子が愛しいと思う。
かわいい娘はみんな好きだ。甘くって、やーらかくって、おもしろくて。
でも、志摩子が愛おしい。
多分、志摩子もそれが分かっているはず・・・だ。
・・・時々、志摩子の強さ、優しさに甘えてしまっている自分を反省する。
(お姉さま失格かな、はは・・・)
情けない我が身を苦笑する。
(・・・今、振り返ったら、志摩子は私を見つめていてくれるだろうか?)
・・・・・・・・・!?
なんだか、志摩子が自分の名を呼んだ気がした。


「なに?」
 マリア様の像の前まで来たとき、聖が志摩子の方を振り返った。

「・・・な、何って、私は何も言ってませんわ。」
 いきなり振り返られた驚きを、志摩子は必死で抑えた。
「・・・そう。」
 聖の目には、いつも通りのきれいな顔がうつる。
「どうかしまして?」
「・・・いや、なんか呼ばれたような気がしたから。」


学園の銀杏並木を、二人はまた静かに歩きだす。
さっきまでより、ほんの少しだけ近づいて。

Fin


戻る