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よもやまdansk

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『イーダちゃんのお花』

〜あらすじ〜

物語は小さなイーダちゃんが大好きな学生さんにこう尋ねる場面から始まります.
「私のかわいそうなお花がすっかりしぼんでしまったの!昨日の夜はとてもきれいだったのに,今は花びらがしおれてしまっているわ!ねえ,どうして?」

すると学生さんはこう答えます.
「お花はみんなが寝静まって夜になると,毎晩のように舞踏会を開いて踊るんだ,イーダちゃんのお花がしぼんでしまったのは,昨日の夜に一晩中ダンスをして疲れてしまったからなのだよ」と.
するとそれをたまたま聞いていた気難しいお役人さんは「そんなばかばかしいでたらめなことを子どもに教えるなんて!」と怒って言うのでした.

けれども,イーダちゃんは学生さんのお話をとても面白いと思います.そして夜になると,学生さんから聞いたお話のことばかり考えてしまって,ちっとも眠くなりません.
すると隣の部屋からとても美しい音楽が聞こえてくるではありませんか.イーダちゃんは,きっとお花たちがみんなでダンスをしているに違いないと思い,覗いてみたくてたまらなくなりました.とうとう我慢できなくなって部屋の中を覗いてみると,そこには素晴らしい光景が広がっていました!お月様の光りが窓から差しこんで,まるで昼間のように明るいのです.そして,大きなユリの花がピアノを弾いていて,その美しい音楽にあわせて,色とりどりのお花が床の上でくるくると踊っているのです.それはそれは楽しそうな光景でした.

次の朝,イーダちゃんがお花を見てみると,それは前の日よりずっとしおれていました.あたかもダンスを踊りすぎて疲れてしまったのかのように―.
そこでイーダちゃんはお花が次の夏にもっと美しく咲けるように,従兄弟たちと一緒に,お庭にお花を埋めてお葬式をしたのでした.

〜解説〜

この『イーダちゃんのお花』は,前回の『えんどう豆の上に寝たお姫様』と同じ童話集に収められました.
前回の解説の中で,この童話集に収められた4編の童話のうち3編までが昔話の再話だったということはお話ししたと思いますが,その中で唯一アンデルセンの完全なる創作童話と言えるのが,この『イーダちゃんのお花』です.

イーダちゃんはアンデルセンの知人の娘がモデルになっており,学生さんはアンデルセン自身です.このお話はアンデルセンがその知人を訪ねた折に即席で創って,彼女に聞かせたそうです.
この童話がそれまでの童話や民話と異なる点は,王子様やお姫様,妖精などといった現実の世界には存在しないものが登場しないという点です.アンデルセンはごく一般的な登場人物とごく一般的な日常生活を素材にこの童話を書き上げました.こういった試みは当時ではまだ珍しいことでした.

さて,この童話集の評判はあまり良くはありませんでした.
少し前に出版された小説『即興詩人』が好評だっただけに,「『即興詩人』のような大人向けの小説は確かに素晴らしい.けれどもアンデルセンの童話は単に子どもを楽しませることだけを目的としており,子どもがこれを読んで道徳的に何かを向上するといったものではない」というような批判がなされました.
以前にも述べましたが,この当時にはまだ童話は文学のジャンルのひとつとしては認識されておらず,子ども向けの物語は教訓話が理想とされ,内容としてはモラルを説くような道徳性が要求されたのです.

『イーダちゃんのお花』には確かに,『人魚姫』や『マッチ売りの少女』のようなアンデルセンの名を不朽とした名作に見られるような,深い人生観は含まれていないかもしれません.
けれどひとつの日常的な出来事の一片から,このような非日常的で幻想的な物語を生み出したアンデルセンの作品が,子どもにとって何の精神的な向上にもならないと断言することはできないのではないでしょうか.反対に私は,子どもの創造力や感受性を豊かにすると思うのです.

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