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よもやまdansk

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『えんどう豆の上に寝たお姫様』

〜あらすじ〜

むかしむかし,“本当のお姫様”をお嫁さんに欲しいと心から願っている1人の王子様がいました.王子様は世界中を旅して“本当のお姫様”を探しましたが,どのお姫様もどこかしら本物のお姫様とは思えないところがあり,王子様はとても悲しくなってしまいました.

そんなある晩のこと.その夜はひどい嵐で,雷は鳴り,雨がざあざあと降っていました.その時,お城の門を叩く音が聞こえました.
お年寄りの王様が門を開けると,そこには1人のお姫様が立っていました.彼女はひどい雨のせいで全身ずぶぬれでしたが,自分こそが“本当のお姫様”だと言うのです.

そこでお年寄りのお妃様は寝室に行き,そのベッドの上に一粒のえんどう豆を置きました.そしてそのえんどう豆の上に20枚のお蒲団と,その上にさらに20枚のやわらかい羽根蒲団を重ねました.そのベッドでお姫様は眠ることになりました.

翌朝,寝心地を尋ねられたお姫様は「それはとてもひどいものでした!一晩中全く眠れませんでした.だって,お蒲団の中に何か固いものが入っていたのですもの!体中あちこちにあざができてしまいました!」と答えました.
そのお姫様の答えによって,このお姫様は本物のお姫様だということが分かりました.20枚の敷布団と羽根蒲団の下にあった,たった1粒のえんどう豆を感じることができるほど繊細な方はお姫様以外の何者でもない,ということになったのです.

こうして王子様は,この“本当のお姫様”をお妃に迎えました.そしてあのえんどう豆は今でもお城の博物館に保管されているのです.

〜解説〜

この『えんどう豆の上に寝たお姫様』は私が初めてデンマーク語で読んだ童話です.この童話はとても短い上に,アンデルセンの完全なる創作童話というよりも,昔話を題材としているということもあり,解釈などといった偉そうなコメントはできませんが,あえて皆さんにご紹介しました.

その理由は2つあります.

まず,この童話がアンデルセンのもっとも最初の童話集に収められたお話の1つであるということ.次に,古い民話から題材を借りて作られたお話であるということ,です.

皆さんはもちろんグリム童話を一度は読んだことがあると思いますが,アンデルセンがこの最初の童話集を出す前にはすでにグリム兄弟の昔話集が出版されていて,それが大変な話題となっていました.そのため,ヨーロッパ中で昔話の収集や再話が盛んに行われていました.アンデルセンもきっとそういった風潮を意識していたのでしょう.最初の童話集に収められた4編の童話のうち,3つまでが昔話の再話でした.この『えんどう豆に寝たお姫様』も例外ではありません.

さて,ここで皆さんに覚えておいていただきたいのは,日本では同じ「童話」と呼ばれてはいますが,アンデルセン童話とグリム童話とでは根本的に全く異なるということです.グリム童話が民衆によって語り継がれてきた民話や昔話をできるだけ忠実に再話したものであるのに対し,アンデルセン童話はあくまでオリジナルの創作なのです.もちろんアンデルセンも民話や童謡から様々な題材やモチーフを借用してはいますが,それは単なる再話ではなく,アンデルセンによって自由自在に創作された作品といえるでしょう.

この『えんどう豆に寝たお姫様』も単なる民話の再話という枠を抜け出した立派な創作童話と言えます.自らドアを開けて客人を招き入れるいやに親近感のある王様が登場するユニークさ,「本当のお姫様」が極端に繊細な女性であるという一点に的を絞り,短いながらも完成度の高い作品に仕上げているあたりにアンデルセンの非凡な才能が感じられます.

このようにアンデルセンの童話創作は昔話の再話という形で始まりました.しかし,次第にアンデルセンの豊かな想像力は膨らみ,それだけでは満足できなくなっていきます.次回はそのアンデルセン独自の童話創作への第一歩を,他の童話から探っていきたいと思います.

 

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