ハイペリオン・シリーズの分析


ダン・シモンズのハイペリオン・シリーズである.今さら説明の必要もない,超有名SFシリーズなのだが,私は今になって初めて読んだ.(-_-;)

そこで,この物語の分析をしてみようと考えた.底本にしたのは以下の5冊である.

まずは年表である.これがないと,時間的な感覚がつかみにくい.なお,この年表も,以下の議論も,すべて,上記5冊を読了していることを前提にしています.まだ読み切っていない人には,筋が分かってしまうので,お勧めしません.

ハイペリオン・シリーズの年表

さて,ハイペリオン・シリーズにはいろいろと謎がある.その謎はすべて明らかになっているようで,どうもはっきりしない所がある.自分なりにQAを考えてみた.

Q)シュライクはそもそもなにか?シュライクを造ったのは誰か?シュライクのもともとの目的は何か?「エンディミオン」以降でシュライクがアイネイアの守護神となるのはなぜか?
A)シュライクは遠い未来に造られた,生きている機械,有機機械である.シュライクを造ったのは,コアが未来に発展してできたUI(機械の神)である.
シュライクを造った目的は,人間のUI(知性,共感,虚空界の三位一体)を構成する一位格「共感」が過去に時を遡って逃亡したので,これを探索するためである.シュライクは苦痛の神として,情け容赦ない殺戮を行い,苦痛を放射させて「共感」を誘い出そうとする.また「苦痛の樹」(速贄の樹)は,シュライクの道具で,捕らえた人間にあたかも棘に刺し貫かれている感覚を与え,苦痛を放射させて,「共感」を誘い出そうというもの.
だが,このシュライクの目的は失敗した.「共感」は呼び出されなかった.ネメスが「エンディミオン」の中で,「シュライクは過去の任務に失敗した...いずれにしても,シュライクは失敗作であり,こんどの旅においてはたんなる脚注でしかない...」と評価している.
「エンディミオン」以降でシュライクは生まれ変わる.これは,ジョン・キーツの人格(「没落」のラストシーンで領事の宇宙船のAIに乗り移っている)が,シュライクを操っているからである.あるいはシュライク自身になっているのかもしれない.アイネイアはキーツの娘だから,シュライクが娘を守るのは当然である.

Q)時間の墓標は開いたか?開くとはどういうことか?時間の墓標のそれぞれの目的は何か?
A)時間の墓標は遠い未来に造られて,過去へ遡っている.時間の墓標が開くとは,物理的に開くわけではない.もう4世紀前に発見されて,調査されているのだから.開くというのは,墓標の一部を秘匿している時幕がはずれ落ち,構造物全体が局所時間流に同期することをいう.
まあ平たく言えば,隠れていた秘密の部屋や仕掛けが明らかになるということだ.時間の墓標はウエブの崩壊時とアイネイアの出現時に2回開いている.時間の墓標の種類と目的は以下のとおり.
スフィンクス:未来へのタイムマシン.アイネイアはこれを利用して2百数十年後の未来へ旅立つ.
翡翠碑(ジェード):目的不明
オベリスク:目的不明
クリスタル・モノリス:カッサード大佐を祀る霊廟.カッサード大佐は未来でシュライクと戦い,相打ちで倒れる.カッサードの人格の一部がシュライクに使われている.
巌窟廟(その1,2,3):三番目の巌窟廟は迷宮に通じている.ロールはこれを利用してアイネイア救出に向かう.
シュライクの宮殿:苦痛の樹(速贄の樹)の犠牲者が格納されている.

Q)7人の巡礼はどうやって選ばれたのか?
A)コアはすべての動きを数世紀前から予測していた.すなわち,シュライク巡礼の参加者の身分・氏名,領事が連邦を(そしてアウスターを)裏切り,時間の墓標を開く装置を作動させること.シュライクの災いの蔓延.戦争の帰結−連邦の終焉・ワールドウエブの崩壊・人類の終末.
マイナ・グラッドストーンはコアに7人の巡礼を人選させた.その内容は,もしシュライクが諾とすれば,予測される戦争の結果をくつがえせる願いを持つ者.その名をリストアップせよというもの
コアの予測が間違う可能性はない.あるとすれば,ハイペリオンしだい.7人の巡礼の人選はコアが行った.しかし,巡礼のもたらす効果は,だれも予測できていない.そこにグラッドストーンは賭けた.