いつか、きっと・・・ |
文 / 森島 まりん 様 |
今日ももうすぐ1日が終わる。 女王としての日々に不満がある訳じゃない。 だけど、時々、ふっと寂しくなることがあるの。 特に、こんな見事な、茜色の空を見上げていると。 このまま完全に日が落ちて、夜の帳に包まれる頃には、星が煌いて、降り注ぐように見えるんだ・・・って思うと、1人で、それを見上げなきゃならないのが、たまらなく寂しいの。 一緒にいて欲しい男性(ヒト)とは、いつも一緒にいられる訳じゃないから。 いつも一緒にいたいって思うことが、我儘だってことはよく解ってる。 私はこの宇宙の女王で、彼は地の守護聖。普段はそれぞれに果たすべき執務があり、何より私は女王であるがゆえに、彼1人だけに心を向けてはいけないから。 それを承知で、私は女王になることを選んだのだし、彼もそれを許してくれた。 だけど。解っていても寂しさは襲ってくる。 彼と宇宙、どちらもを守ろうとする私を嘲笑うかのように。 でも、耐えていくしかない。これは、私が自分の意思で選んだことだから。 私が重い溜息をついて窓に背を向けると、そこには、穏やかな笑顔が。 「・・・・・どうして!?」 笑顔の主・地の守護聖であるルヴァは軽く肩を竦めて見せた。 「何度も声をかけたんですけどねぇ、全然気づいてなかったようですね。一体、何を見てらしたんですかー?」 ほんの少しだけ苦笑を混ぜた口調に、私は泣きたいような切なさに心が揺れて、じわっと滲む涙を止められずに精一杯の笑顔を作る。 「夕焼けを見てたの。今日も綺麗だなって、思って」 すると、ルヴァはちょっと不思議そうに首をかしげ、ゆっくりとした足取りで私に近づいてきた。 「・・・本当に、それだけ、ですか?」 「え?」 「ただ、夕焼けを見ていただけで、そんな表情(カオ)になることはないのでは?」 「えっ?」 そんな表情って、私は今、どんな表情をしているというのだろう。鏡がないから、自分で見ることは出来ない。笑ったつもりだったけど、上手く笑えてないのかな? 「・・・何か、辛いことでも、あったんですか?」 ルヴァはそう言って私の目線までかがみ、そっと指を頬に当ててきた。 ドキン、と心臓が跳ね上がり、私は初めて、涙が零れてしまっていたことに気づいた。 「や、やだ・・・私ったら」 「・・・辛いなら、話してくれませんか・・・?私には、聞くことしか出来ないかもしれませんけど、それでも、あなたのそんな表情は、見ていて辛いですからねぇ」 そう言って、ルヴァは包むようなやさしい微笑みを浮かべている。 どうして彼はこうなんだろう。 いつもいつも、私の気持ちを見抜いてしまう。そう、特に、こんな風に弱気になっている時は。 「どうして・・・ルヴァには解っちゃうのかな」 私は今度はちゃんと笑えた筈。ただし、泣き笑いになってるとは思うけど。 「夕焼けを見てたのは本当。だけど、急に寂しくなってきたの。あまりにも綺麗だから・・・ルヴァと一緒に見たくなって。でも、それは・・・私の我儘だから。そう思ってたら、あなたが立ってたの」 「そうでしたか」 ルヴァはそっと私の肩を抱いて、耳元で囁いた。 「・・・では、暫くあなたと一緒に空を眺めましょうか。この時間は移りゆく空の色彩が見事ですからねぇ」 彼の優しい声がくすぐったくて、私の背筋に軽い電気が流れたみたいになる。 ・・・そんなことされたら、力が抜けちゃいそうだわ。 私は肩に回された彼の手の甲をほんの少しだけ抓った。 「痛たっ!!な、何をするんですか〜?」 慌てて手を離したルヴァの正面に回って、私は僅かに拗ねてみせる。 「意地悪です、ルヴァ様」 「ええっ?な、何がです?」 「だって・・・さっきみたいなのは、ずるいもの。反則だわ」 「はあ〜?何のことですか?」 真剣に判ってないらしいルヴァに、私は心底からの笑いが込み上げてくるのを押えられなくなった。 鈍いのか、天然なのか・・・ルヴァって男性は、本当に凄い。あんなにブルーになってた私の気持ちを、あっという間に引き上げてしまうんだもの。 だから、私はこんなにも、彼が好きなのかな。一緒にいると、ホッと出来て、気持ちが明るくなるの。 「何がそんなに可笑しいんですかー?アンジェリーク?」 クスクスと笑い続ける私に怪訝な表情を向けているルヴァに、私はそっと抱きついた。 「ア、アンジェリーク?」 「・・・大好き。ルヴァ様」 目を閉じると、彼の鼓動が聞こえる。心地よい一定のリズムを刻む、生命の証。 背中に回した手に、少し力を込めると、ルヴァの方も私の背中を優しく包んでくれた。 「・・・何だか、よく判りませんけど・・・でも、だいぶ元気になったようですね。・・・愛して、いますよ、アンジェリーク」 何よりの言葉に、私はぎゅっと彼にしがみついた。 そう、お互いのこの気持ちは宝物のように大切だから。だからこそ、頑張って進んでいけるし、守りたいと思うの。 ルヴァの右手が私の頬に触れた。 ふと、顔を上げると彼のダークブルーの瞳が優しく微笑んでいる。 誘われるように目を閉じると、彼の唇が私のそれにそっと落とされた。 「・・・ねえ、ルヴァ、どうしてここに来たの?何か、用があったんじゃない?」 窓の外がすっかり暗くなってから、私は彼に尋ねた。問いかけるきっかけを失ってしまってたから、聞けなかったけど、用件もなしに彼が私の執務室に来ることなど、まずあり得ないから。 「ああ・・・実は、書類を届けに来たんですよー。ロザリアに渡しておくつもりだったんですけど、彼女が、あなたに直接渡せばいいと、言ってくれたのでね。それで、何度も声をかけたんですが、返事はないし、扉は開くしで、中へ入ってしまったんです・・・やはり、まずかったですかねぇ」 ルヴァはばつが悪そうな表情で、私の顔色を窺っているみたい。 でも、私は全然怒ってないんだけど。ううん、むしろ、来てくれて嬉しかった。 だって、逢いたくて逢いたくて仕方なかったんだもの。 そう思ってた時に、絶妙のタイミングで現れたからちょっと驚いただけ。 「ううん、まずいなんてこと、ないわ。ありがとう、ルヴァ」 「はあ・・・それなら、いいのですが」 ルヴァが微苦笑するのを、私は満面の笑顔で見つめた。 「ねえ、今日は、もう少し、ここにいてくれる?もう少し、ルヴァと一緒にいたいの」 ルヴァは瞬間目を瞠って驚いた風だったけど、すぐに小さな息を1つついて、微笑んでくれた。 「判りました。では、もう少し、ここにいることにしましょう」 私は嬉しくて、ルヴァの胸にとん、と頭を凭れさせる。ルヴァの手が、ごく自然に私の肩を抱きしめてくる。 今日のところは、もう少し。 でも、いつか。ずっと、一緒にいられるようになるといいな。 誰に咎められることもなく、堂々と一緒にいられるといいなと思う。 いつか、きっと・・・。 fin. |
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まりんさんのサイトの 5000HIT記念にフリー配布されていたのをゲット! 切ない恋だけど、ルヴァ様の温かさと懐の深さが感じられるとても素敵なお話です〜vvv やっぱりルヴァ様は素敵な方です!私も抱きしめてほしいなぁ〜〜vvv ←バカ?(^◇^;)ゞ まりんさん、素敵な作品をどうもありがとうございます♪ |
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