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2020/09/26 Updated

ニュー・ノーマル
- VUCA -


経済産業省の研究開発・イノベーション小委員会の2019年産業技術環境分科会資料等に書かれたVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の世界は、オープンイノベーションと合わせて説明されている。資料では「価値の源泉や産業構造が変わる」ことと説明している。VUCAという言葉は、1987年にアメリカ陸軍で初めて使われたとされており、その前年は旧ソ連のペレストロイカが始まった年である。Diversity(多様性)が日本でも言われ始めたのは同じころではなかっただろうか。
旧ソ連の崩壊後、社会はグローバル化が進む。国家間の協力が広がるにつれ、経済や産業においてもサプライチェーンが国家間にまたがることが主流となっていく。サプライチェーンの広がりは、貿易における公正性を浮き彫りにし、フェアトレードやエシカルといったキーワードに表されるように、経済に倫理性を求めるようになる。
ところで、VUCAの言葉の誕生後の象徴的な出来事ととして1989年のベルリンの壁崩壊について述べておきたい。教科書では民主化の流れの中で起きた出来事だと説明されているが、その原動力は、政治的イデオロギーだけではなく、分断されたドイツ国民の家族や仲間を思う気持ちだったのではないだろうか。
今、組織のイノベーションを語るのであれば、経済の倫理性や家族や仲間を思う気持ちを大切にしなければならないことは自明の理と言える。

このことから、組織のイノベーションとは、
・社会の中の弱いもの、小さいものの目線で見る
・自分の中の大事なものを掘り下げて本質を探究する
・発想のプロセス、思考のプロセスの変容(プロセスとは何をするかではなく「どうやるか」である。つまり、どうやって思い、どうやって考え、どうやって気づくか、を変える)
・そして実現するためには試行錯誤を繰り返す
こういったことを、すべての物事で繰り返し問い続けることであると言える。

私たちの仕事に目を向けると、プロジェクトや組織のマネジメント、技術の習得等があるが、これからの仕事はイノベーションを常態とすることが必要である。
仕事とは、そもそも私たちが生活するために必要な手段を提供するためにある。仕事で使われる契約書、スケジュール、問題管理等、これらは道具に過ぎない。プロジェクトや組織のマネジメント、技術の習得等についても手段のための手段に過ぎないのである。
そして、これら従来の手段、道具だけでは、組織のイノベーションの常態化は実現できていなかった。20世紀は、社会のコマ(いわゆる会社の歯車)として働くことが、自分の家族や仲間の思いを汲む手段だったと教えられていたため組織のイノベーションは不要とされていた。
公害や環境破壊は、経済活動の副作用であるが局所的で復旧可能な事案として扱われていた。しかし、近年になりサプライチェーンによる人権侵害、気候変動による経済損失の拡大の常態化、長時間労働による家族への負担増等、働けば働くほど身近な人や仕事にかかわる人たちにひどいしわ寄せをしていることが見えるようになってきた。これにより組織のイノベーションの常態化は当然のこととして認識するべきことになったのである。

組織のイノベーションの常態化では、組織内のコミュニケーションを見直す必要がある。即ち、
・フラットな対話を軸にした自然体の関係性
・「チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信を持っている状態」エイミー・C・エドモンドソン教授(ハーバード・ビジネススクール)
・お互いがI’m OKといえる関係を築くことが重要である。
このイノベーションは、単に営利を求める組織だけでなく、すべての組織、さらには社会にも当てはまる。
社会のイノベーションの常態化による社会の姿は、個人の持ち味を活かした寄せ集めであることが望ましい。その中で個人は、様々な活動のやりがいを社会的意義から見つけ(教えられるものではない)、寄せ集めの中での協調と協働によるより暮らしやすい社会を目指していく。
社会のイノベーションの常態化が進むと、個人のリレーションは飛躍的に広がる。家庭、地域、ボランティア等に関係が広がるからである。広がる関係の中で生活を維持していくためには、コミュニケーションのゆるさと目的が重要になり、以下のようなことを意識した言動を心がけていくと良いのではないだろうか。
・活動の目的に合わせた必要最低限のつながり
・自分の中で練ったモノを外に出す(様々な活動間の関係も寄せ集めの協調と協働で動く。つまり社会そのものが寄せ集めの協調と協働である。)
・成し遂げたことの大きさよりも視点の広さ(より多くの人がより幸せになれる行為)
これを社会の羅針盤とすることで、先の見えない社会でも地に足のついた生活を続けていくことができると考えている。

最後に、NAVAL AIR WARFARE CENTER AIRCRAFT DIVISION(海軍航空試験センター航空機部門)の「The Experience of Strategic Thinking in a Volatile, Complex, Uncertain & Ambiguous (VUCA) Environment」(2014年8月)のレポートによると、VUCAにおける環境(Environment)はChaos(混沌)であると記されている。


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