コンデンサ・パニック(挫折の途中経過編)   

2004年5月5日




☆秋葉原低ESR電解コンデンサ事情   
帰省の途中下車として(「言い訳しなくていい。」って言われそうだが...) 久しぶりに秋葉原に行って来た。

最近の秋葉原のトレンドとしては、マザーの電解コンデンサ破裂問題が かなり大問題になっていることがあげられるのではないだろうか?  なんせ、1年前まではオーディオマニアがメイン顧客だった 山王電子で、こんな商品札を見つけたからだ。

以前 マザーを修理するため低ESRコンデンサを探し回ったときは たしか「オーディオ用」の商品札はあったが、 「PC マザーボード用 低ESR」なんて こんなわかりやすい商品札は確か無かったハズだけど...

昔はなかった商品札が...
「PC マザーボード用 低ESR」って?

ちなみに、千石でも同様に「低ESRコンデンサ」の値札を見つけた。 ここも、昔は「低ESR」の表示は無かったハズだけどねぇ。

マザー修理用として低ESR電解コンを探す人がいかに多いか、と言うことだろう。 低ESR電解コンデンサが売れまくっているという事は、 それだけマザー上での破裂が大問題ということだろうね。

実際、当方も以前掲載したとおり、 SA6の修理MS6182の修理 を先輩後輩から依頼された事がある。 SA6の方は低ESRコンデンサの交換だけで修理できたので簡単だったが、 MS6182の方はSW電源回路そのものが焼損していたため、 少々手こずらされた事を覚えている。

これらの問題は低ESRコンデンサの電解液不良が原因だが、 今後はさらに心配だ。 高消費電力かつ高発熱の最新CPUの前では、 不良品ではないまともなコンデンサでも荷が重い状態になってしまっているからだ。 (電解コンの寿命は温度依存性の強い経時消耗モードである。 このことからわかるとおり、電解コンは高温状態に非常に弱い ある種の消耗パーツなのだ。)

高消費電力CPUに安心して対応できるオンボードレギュレータの開発は、 発熱問題より急がれるべき優先課題であろう。

☆投げ出したくなるような難問山積み。   
と言うわけで、当サイトではマザーのオンボードレギュレータ問題について 注目してきた。発熱問題より先にまず電源問題を解決するのが先 と以前から考えてきたからである。

ところが、オンボードレギュレータへのコンデンサ追加実験に際し、 たかがパスコン追加の問題と侮っていたのが間違いだった。

コンデンサ・パニック(前編) において(前編)と書いておきながら、 後編を半年以上も放置しているのが ちっとも進展しない実験の現実を見事に表している。

言い訳がましいが、これがやってみると意外に難しいのだ。 地震予知研究と同じで、実験に手を付けてみて 初めて事の難しさがわかってきたというわけ。

まずは、どこが難しいかというと、たかがパスコンのくせに 取り付け方法によって特性が千変万化する事である。 例えば、以前の例ではこうであった。

330pFと0.68μFの並列接続
Center:250MHz Span:500MHz 10dBm/div
二つのコンデンサを離して設置
330pFと0.68μFの並列接続
Center:250MHz Span:500MHz 10dBm/div
二つのコンデンサを並べて設置

左図では高周波側のディップが大きいのはいいが(左図赤丸が大きくディップ)、 反共振が中間周波数の特性を台無しにしている。(左図白丸参照) しかし、右図では反共振の影響は小さいが(右図白丸参照)、 高周波特性は劣悪だ。(右図赤丸参照)

しかも、二つのコンデンサを並べて配置するか離して配置するかで特性がこれだけ 変化することもさることながら、コンデンサを並べて配置する方法の方が 高周波特性が悪いことが話をさらに難しくしている。

なぜならば、「パスコンは最短コースでGNDへ。」が電子工作での パスコン使用法における基本中の基本である。 つまり、理屈上はパスコンを並べて配置した方法の方が高周波減衰特性がよく なくてはならない。(実際、初心者用電子工作本にはそう配置しろと書かれている。)

「バイパスコンデンサは負荷とGNDを 最短距離で接続する。」
これが実装技術における基本中の基本である。

ここでは、C2<C1という容量関係と仮定する。
 

しかし、現実はかくのごとしである。

パスコンの接続法なんて、電子工作マニアにとっては初歩の初歩の話であるから 今までまじめに考えたことがなかったが、「そんなの簡単じゃん。」と 嘗めてかかったのが大間違いであった。

パスコンの並列接続の挙動は実はかなり複雑怪奇で、教科書通りの 一筋縄というわけにはいかない。 奥義を究めようと思ったら予想外にハイスキルが必要なジャンルだったわけで、 たるさん的初歩的知識だけでは苦戦を強いられたのである。

というわけで、一見ローテク的なアナログ回路こそ実は高い知識と経験が要求される 影のハイテク技術なのかもしれないと思い至った。

☆なぜ反共振が生じるのか?   
と言うわけで、パスコン増強によるクロックアップを考える以前に、 まずパスコン使用法の基礎をおさらいしようと考えたわけ。 足らないスキルを初心に返って埋めない限り、対策が 行き当たりばったりになって永遠の泥沼状態になるのは目に見えているからだ。

ただ闇雲にコンデンサを追加していっても効果は薄いとわかったので、 まずこの現象を分析してみよう。 (それに、こんな話はWebでも意外になされていないようなので、 本人の勉強にもうってつけである。)

文献を調べてゆくと、反共振が発生するメカニズムについては 原因が見つかった。その原因とはコンデンサ内部のESLの影響である。

コンデンサというものには自己共振という性質があることは 以前述べたが、この性質のおかげで自己共振周波数(以降はSRFと略記) 以上の周波数では、コンデンサはコンデンサとしての性質を失ってしまう。

では、コンデンサの性質を失ったコンデンサはいったい何になるのであろうか?

何になるかというと、これがコイルなのである。 これはコンデンサの等価回路を理想コンデンサと理想コイルと理想抵抗の 組み合わせで書くと下図のようになる事からもわかる。

現実のコンデンサの等価回路
現実のコンデンサは理想LCRの直列接続で表現できる。
 

この等価回路の性質がL的かC的かはCとLの性質のどちらが強いかで決まる。 そして周波数が高ければ高いほどL的性質が優勢となり、SRFを越えると L的性質がC的性質に勝ってしまう。 つまり、L(コイル)になってしまうのである。

要するに、CとLの分水嶺それがSRFなのである。

余談だが、LにもSRFはある。この場合、SRFを越えると LはCになってしまう。Cの時とは挙動が逆なのが非常におもしろい。

で、コイルになったコンデンサであるが、先の例ではSRFが異なるコンデンサが2個 取り付けられている事が問題なのである。 2つのSRFの中間周波数では、実は一方はコイルになってしまっているが、 もう一方はコンデンサのままなのだ。

その結果、2つのSRFの中間周波数領域ではどのような等価回路になるかと いうと下図の通りである。 (厳密にはパラメータの異なる2つのLCR直列回路の並列接続なんだけど、 LCの優勢な方のパラメータで代表させて近似すると下記の通りになる。)

C1のSRFより高く、C2のSRFより低い周波数では、 事実上このような回路になる。
SRF以上の周波数では、コンデンサは事実上コイルと化す。
 

なになに、よくわからない?(なんて偉そうに書いているが、 初めてこの等価回路を知ったときは自分自身がビックリであった。) ならば、少し回路図を見やすく書き直してみよう。 この回路はいったい何なのであろうか?

わかりやすく回路図を書き直すと...
なんと並列共振回路である。反共振が生じるのも当たり前である。

デジタル回路系のPC関係だけをいじってきた方には難しいかもしれないが、 アマチュア無線の心得のある人のようにアナログ高周波回路に強い方ならば この回路図を見てただちにピンとくるだろう。

そう、並列共振回路そのものだ。

並列共振回路の特性を考えれば、二つの自己共振周波数の間で反共振が生じるのも まさに当たり前といえば当たり前。 インピーダンスが発散して高くなってしまうのも当たり前である。

余談だが、「この等価回路では電源がショートしてしまうではないか!」と 考える方がいらっしゃると思う。しかし、大丈夫である。C1がコイル として機能するのはSRF以上の周波数だけだから、 直流ではコンデンサに戻るからである。

C1のSRF以上での挙動はコイルだが、直流ではコンデンサとしての機能に戻る。 このため、回路がショートしてしまうことはない。

また、二つのSRF以上の周波数では2つのコイルの並列接続になるから、 各CのもつESLの合成インダクタンスとなったコイルがぶら下がっていることになる。 これは、周波数上昇にともなって単調に減衰量が小さくなることを説明できる。

各周波数での挙動
代表特性で近似した場合

☆ESRの意味するもの   
よし、とりあえず2つのコンデンサの並列接続で反共振が発生する理屈はわかった。 しかし、ここでまだ未解決の2つの問題がある。

一つは、なぜ電解コンデンサとセラミックコンデンサの並列接続では この問題が発生しないのか、ということ。

低周波回路では電解コンデンサの高周波特性改善のためにセラミックコンデンサを 並列接続する方法は、初歩的テクニックとして自作派ならば 誰でも知っている常識である。しかし、上記の説明では、 この場合でも反共振は発生し 電解コンのSRFとセラミックコンデンサのSRFの中間領域周波数での 高周波特性をダメにするハズである。

では、この組み合わせではなぜそうならないのであろうか?

実はこの問題を調べるため電解コンデンサの高周波特性を調べたのだが、 電解コンデンサにはセラミックコンデンサのようなシャープな自己共振を 示さないものが非常に多かった。共振カーブがダラダラと鈍っているのである。

唯一の例外はOSコン系の固体電解質コンデンサで、SRFのディップがシャープである。

これは何を意味するのであろうか?

これは自己共振のQ値が低いことを意味し、つまりチップコンデンサに比べて ESRが高いことを示している。 低ESRコンデンサといえど、セラミックコンデンサよりはESRが高いのである。 (OSコンの自己共振がシャープなのもこれで説明が付く。)

ESRはLCR等価回路のQ値を下げるから、 自己共振のカーブがダラダラするのを説明できる。

そして、通常はこのESRは低ければ低いほど良いのであるが、 この場合のみ高いESRも悪くはない。

都合がいいことに、電解コンデンサの高ESRは、 上記の並列共振回路のQ値も下げてしまうのである。 (高いESRが、一種のQダンプ用抵抗として機能する。)

電解コンデンサの場合
ESRが無視できないほど大きい。

つまり、電解コンデンサとセラミックコンデンサの並列接続の場合には、 電解コンデンサの高いESRが反共振をダンプし、 それにより問題が発生しなかったのであろう。

電解コンデンサの高ESRが反共振発生を抑制していたとは「怪我の功名」で あると同時に、今後OSコン系の低ESRコンデンサを使用する場合は、 セラミックコンデンサとの併用には注意が必要になるだろう。

要するに、低周波での常識は電解コンの高いESRが 成立する場合の常識だったわけだ。

次回はもう一つの謎である 「なぜ並べて配置したり離して配置したりしただけで、 あれほど特性が変化してしまうか?」について、 コンピュータシミュレーションも交えて考えた結果について報告する予定である。 また、CPUの負荷自身がQダンプ回路となる影響についても考えてみたい。