マザボの修理と理想の電源(もう少し重傷編)   

2004年3月15日




前回の記事で、もう一枚MOS-FETが黒こげになったマザーの修理依頼があると書いたが、 前回に引き続き2枚目の故障マザーを修理した。

とは言っても、実は修理自体は前回と同じ日程で行ってしまっていたのだった。 3月は期末テーマエンド月で、窓際技術者といえど本業の開発テーマの期限がある。 夏休みの宿題を31日勝負で片づけるダメ小学生と同じタイプのたるさんにとっては、 当然3月は勝負月なのである。 (えっ、全然計画性が無い奴だなって? いや、ホント。)

というわけで、実はマザボの修理は2枚まとめて行っていて、 今回は記事だけを書いているというわけだ。

もともと当サイトは大勢の人に読んでもらうことを前提に書かれていない上に かなりのタコサイトだが、 最近はなぜか約500アクセス/日ものアクセスがある。 (ご愛読ありがとうございます。)

というわけで、いくら仕事の都合とは言っても、 1ヶ月まるまる更新無しというのもなんだか申し訳無い気になってくる。 ちょっとズルの気がしないでもないが、 この方法なら繁忙期でもなんとか更新ができるもんね。

☆重症患者がやってきた。   
と言うわけで、早速修理に入ろう。 今回の修理依頼品マザーはMS6182である。

こいつは、懐かしくもSlot1時代のマザーである。 後輩によるとPentiumIII-450で使用中突如固まって、 リセットを押したらBIOSすら起動しなかったそうだ。

実はこのマザー、修理について相談されたときに、 最初は後輩に修理部品を渡して自前で修理するように 手配したものだ。しかし、後輩の手には負えなかったらしく 修理途上で当家へお越しいただいたというわけである。

当家にお越しいただいたときの状態
MOS-FETははがしてあったが
見ての通りホット側のMOS-FETが
黒コゲだった事がよく分かる。

では、当家にマザーが来る直前には何が起こっていたのだろう?

彼に様子を聞いて電解コンデンサを渡してあったので、 後輩の手によって電解コンデンサの交換は終わっており、 また、Power-MOSFETのうち一つが黒コゲとのことだったので代替品に交換したそうだ。

その結果、どうなったかというと、一瞬起動するかのごとく気配が見えたが、 次の瞬間「バチッ」という音とともに電源が落ちたそうだ。 それで、「××さん、直してくださいよ〜。」と泣きつかれたのであった。

そこで、手元に故障マザーが来たため、一体何が起こったのか解析してみた。

☆何が起こったのか?   
まず、預けられたマザーの回路を解析してみた。 解析したマザーの回路は下記の通りである。

故障した回路
小容量のパスコン等は省略してあります。

解析の結果わかったことは、黒コゲになったホット側のMOS-FET以外に フライホイール側のMOS-FETも死んでいたこと。 その死に方はオープンモードであった。 あと、フライホイール側のMOS-FETに並列にダイオードが入っているが、 このダイオードは最初は壊れていなかったが、「バチッ」と 破滅の音がした後には割れていたと言うことである。 つまり、破壊音はこのダイオードが壊れた音だったらしい。

回路図を見てわかるダイオード破壊のシナリオはこうだ。
  1. 破裂した電解コンデンサとホット側のMOS-FETを交換修理して電源を入れた。
  2. しかし、フライホイール側のMOS-FETがオープンモードで死んでいたため、 チョークコイルに蓄えられた磁気エネルギーがホット側OFF時に ダイオード経由で電解コンデンサに流れ込もうとした。
  3. しかし、ダイオードはそのような大電流に耐えられないタイプであったため、 過電流により破損した。
  4. 過電流でダイオードが破損するまでは正しい電圧であったためBIOSが 起動するかの素振りを見せたが、ダイオードが飛んでからは異常状態となり 起動に失敗した。
以上が、たるさんの推理する修理失敗シナリオである。

つまり、ホット側MOS-FETが黒コゲであったため、そちらにばかり気を取られて フライホイール側MOS-FET(外見上は壊れていないように見える。)の チェックが甘かったのである。 (まぁ、後輩の話だけで判断し自分でテスターあてた訳じゃないので、 ある意味しょうがないんだけど...)

この状態でもダイオードが大電流に耐えられればMOS-FET無しでも問題はない。 それは、本来のチョッパ型スイッチング電源の回路そのものだからである。 しかし、ファストリカバリ・ダイオード(逆方向回復時間の短いダイオード) の大電流タイプは価格が非常に高い上に、最近のCPUは動作電圧が低いため 順方向電圧降下の面でも不利である。

このため、フライホイール側のON-OFFもMOS-FETで行い、 デッドタイム中のノイズ低減と変換効率低下防止のため、 デッドタイム中だけダイオードに頼るという設計になっていたのであろう。

要するになぜダイオードが破損したのかというと、 発光ダイオードの点灯における通常方式とダイナミック方式の違いみたいなものだ。 ダイナミック方式では通電時間が短い故に同じ輝度を得るために通常方式の数倍の 大電流を発光ダイオードに流す。 しかし、これは通電時間が短いから可能なことなのだ。 連続点灯でダイナミック方式と同じ電流を流すようなことはしない。

フライホイール側のMOS-FETが死んでいたため、 本来ならデッドタイム中だけ流れるはずの大電流が ホット側MOS-FETのOFF期間中すべてにわたって流れ、 過電流でダイオードが飛んだことが原因と考えるとつじつまが合うわけだ。

☆今回はPower-MOSFETまで破損   
と言うわけで、早速修理である。 本来のMOS-FETにはCEB703ALが使用されていた。 また、ダイオードに関しては型番不明である。 (小さい上に破損してしまっていたので...)

まずはMOS-FETの選択である。 要するにドレイン・ソース電圧、最大ドレイン電流、許容チャネル損失が 元のCEB703ALより同等または大きく、 オン抵抗が元のものと同等または小さい事が必須である。

交換用のMOS-FETだが入手性を考えると選択枝は多くない。 手持ちのパーツは秋月で買った2SK31422SK3163のみ。 2SK3163ならばすべてのスペックを満足しているが、サイズ(TO-3P)が大きくて 取り付けるスペースが無い。

一方、2SK3142はサイズ(TO-220CFM)は問題ないが、 許容チャネル損失が足らない。

う〜ん、どうしたものか?

で、Webで情報を探して見ると、同様な修理をなさっているWebサイトを見つけた。 CEB6030Lの代わりに同じく2SK3142を使っていらっしゃる。 「許容チャネル損失が足りるのか?」という疑問が一瞬頭をよぎったが、 説明文を読んで納得した。

どういう事かというと、CEB603ALのRonが27mΩに対し2SK3142は5.5mΩ。 許容損失は60Wに対し35Wと約60%だが、 Ronが27mΩに対し5.5mΩと約20%なので発熱も約20%で済む。 つまり、許容チャネル損失が約60%と低くても、発熱は約20%になるわけだから 許容チャネル損失の低さも気にならないわけだ。 (ホント、勉強させて頂きましたです。)

これなら、今回の修理でもCEB603ALの代わりに2SK3142も使用できる。

参考までにCEB703AL、2SK3142、2SK3163のスペックを掲載しておく。

スペック項目 CEB703AL 2SK3142 2SK3163
DS 30V
30V 60V
60A 60A 75A
ch 60W 35W 110W
on 27mΩ(VGS=4.5V時) 5.5mΩ(VGS=4V時) 8mΩ(VGS=4V時)


あとは温度特性とかゲート容量とか何とか プロレベルで言い出したらキリがないだろうが、 たるさんにはそこまでの設計能力は無いので最低限の遵守事項だけ満足させている。

ダイオードは本来のスペックがわからないので、安全を考えて 余裕度を大きくしておいた。使用したのは31DF2である。 これは千石電商の2Fで入手できる。

最大絶対定格は、サージ尖塔逆電圧:220V、尖塔逆電圧:200V、 サージ順方向電流:60Aで余裕見過ぎな位だし、 リカバリタイムは30nsなのでまず問題はない。が、 平均許容電流量は3Aしかないのでフライホイール側のMOS-FETとの 協調動作に失敗するとダイオードが死んでしまう事には注意が必要だ。 あくまでフライホイール側MOS-FETの補助用である。

スペック項目 31DF2
RSM 220V
RRM 200V
ISM 60A
Trr 30ns
Io 3A


ただし、型番が不明であるが本来の奴は31DF2よりも明らかにサイズが小さかった。 許容電流量はサイズが大きいほど大きい傾向になるので、 今回の修理使用品でもたぶん大丈夫と考えている。

余談だが、いくら価格が安いからといって商用周波数の交流を整流するための 一般整流用ダイオードで代用しては絶対にダメだよ。 あやつらは50〜60Hzで動作する事しか考えられていないからね。 ここで使用したようなファストリカバリ・ダイオードか、 あるいはショットキー・ダイオードのいずれかを使用する事が必須だ。

ダイオードとMOS-FETを交換。
(ダイオードはコイルの陰に隠れている。)
ヘタレなので最初はCeleron-266でテスト。
このCPUの中古相場はなんと\100。缶コーヒーより安い!
あと、1500μFが不足した分は480μF×3個の並列接続で代用。

あと、焦げている部分は基板の絶縁抵抗が低下している可能性がある。 そのため、その部分のみ空中配線で配線した。 電流量が多いので太めの線材を使用し、なるべく短く配線するべきところであるが、 スペースファクターからなかなかそうもいかないのは辛いところだ。 (リードインダクタンスが大きいと、リンギングの原因になる可能性があるし...)

なお、基板が焦げた部分は抵抗の低下によって漏れ電流により加熱する恐れがある。 だから、本当は基板が焦げた時点で修理はあきらめるべきものである。 今回は持ち主のたっての希望で修理したが、 本来はこの時点で廃棄を検討した方が良い。 この点だけはよくよく考えたほうが良いと思われるので、 念のため記載しておく。

ダイオードとMOS-FETの交換で...
やった! BIOSの起動に成功。
Super-pi104万桁テスト終了。
それにしても、電解コンは電源の鬼門だよね。

前回同様、テストはSuper-piの104万桁で行っている。 写真の通りテスト結果は良好だ。 これで後輩にも顔が立つ?というものである。

☆理想の電源とは?   
今回の修理では、電解コンデンサだけではなくMOS-FETとダイオードも交換 しなければならなかった。 これは、電解コンデンサが逝かれるとリップル電流量が増えて ますます電解コンデンサとMOS-FETに負荷がかかるという悪循環が 生じるためである。

また、MOS-FETは温度係数が正なので、逝かれ始めると 発熱がひどくなり、その発熱がさらにRonを増やして発熱を増やすという 熱暴走状態になる傾向がある。 このため、MOS-FETは熱的破壊に弱い。1) そして、そのきっかけは電解コンデンサの容量抜け等から始まる。

その意味でも、パソコンの電源に電解コンデンサを使用するというのは まったくナンセンスな事であると考えている。

しかし、それでも電解コンデンサを使わなければならないのは、 スイッチング周波数を百KHz程度とした場合、 総計10000μF以上にもなるCPU側の必要総容量を作り出せるコンデンサは、 コスト面まで考えると電解コンデンサしかないからだ。 最近のパソコンの低価格化を考えると、問題が多いのがわかってはいても、 やむを得ない措置なのであろう。

ただし、総容量が10000μF以上というのは最近のCPUが大電力消費であるからだが、 スイッチング周波数を上げてフェーズ数を増やせば、 容量を減らしても高負荷に耐えられる理屈である。

だから、スイッチング周波数をMHz領域にまで上げて、なおかつ 4フェーズと言わず10フェーズ位にまで高め、 さらに大容量セラミックコンデンサとかOS-CONといった低ESRコンを使用すれば、 アルミ電解コンデンサレス化できる計算が成り立つ。 (コスト的には大赤字だろうけどね。)

今後のCPU用電源開発では、このような高スイッチング周波数・ 超マルチフェーズ方式で、いかに高効率化するかが 電源開発系技術者の腕の見せ所のような気がするのである。

いや、実際にはたぶん低コスト化以外の開発は すべてキャンセルされている予感がするのだが... 最近のマザーを見ていると、少しだけマルチフェーズ化への進展が見られるが、 これはそうしなければ最新高消費電力CPUに対応できなかったので、やむを得ずそうした という面が大きいように思うのである。

たるさんの実感としては、中期的傾向は 低コスト化以外の腰の据わった開発ってのは皆無のような、 悪い予感がするというのが本音だ。 それは何と言ってもマザーメーカー最大の関心事は低コスト化であるからだ。

利益こそが企業の存続理由といってしまえばそこまでだが、 技術者魂の見せ所に関心のない企業は市場プレイヤーから脱落してほしいと思う。 (台湾製不良電解コンデンサの件では、何人の罪無き人々が泣きを見たことか...)

実際の開発現場ではどのような方向で開発が進められているのであろうか?



1)
余談だが、写真ではMOS-FETに放熱板は無いが、このことを考えれば 当然放熱板を付けなければならない。マザーの場合、通常は配線パターンの 銅箔で代用しているが、MOS-FETの温度特性を考えれば放熱は重要である。 手持ちが無かったため付けていないが、もちろん取り付ける予定である。

−お詫びと訂正−
「さらに大容量セラミックコンデンサとかOS-CONといった低ESRコンを使用すれば、 電解コンデンサレス化できる計算が成り立つ。」 と書いてあった部分を、本文の通り「アルミ電解コンデンサ」に 訂正させて頂きます。

電解コンの「電解」とは「電解質」の略で「電解液」の略ではないので、 最初の表現だとOSコンも電解コンの一種なので言葉の矛盾になってしまう。 本人の意図するところは「電解液」を無くしたいということなので、 正確には「アルミ電解コン」が正しい表現なのだ。

ご指摘ありがとうございました。