電源電圧変動のスペアナ解析(蛇尾編)   

2003年8月10日




スペアナまで持ち出して解析した電源電圧安定度であるが、 OC耐性アップに役立てるに至らず、たるさんはまだまだ未熟者のようである。 得られたデータは興味深いんだけどね〜。

それにしても本人のスキルを考えればスペアナはさすがに不遜だったか?  8595Aが借り物なので無謀なテストが出来ないという事もあるが、 測定器を完全に使いこなしている気がしないのだ。 (測定器に使われているというか...)

そう言えば昔酒飲み話で出た話題でこんなのがあった。 その人の持っている測定器で本人のスキルがわかるというのである。 その人が言うには、 「初心者はテスター、中級者でオシロ、 上級者ともなればスペアナ+トラジェネ。」だそうで...

酒飲み話程度のホラにしては結構当たっていると思ったものだ。 (これは、PCマニアではなく無線マニアの場合の話。 我々PCマニアの場合は上級者の測定器がロジアナって事になるのかな?)

ちなみにこの分類が正しいとすると、たるさんは中級者。 本人も、まあそんな所だと思う。 (もっとも、スペアナの威力を見せつけられた本人は 「スペアナ欲しい病」を発症してしまったようだ。 もし購入となれば重症金欠病との合併症を引き起こす可能性大だが、 どうなる事やら...)

余談だが、昔ネットで見かけたスキル判定法ってのもあって、 これはトラ技の読み方でわかるというもの。 「初心者は特集記事から読むが、通(上級者)は広告から読む。」 このウイットのセンスは凄いなぁ。 とくに「通は広告から読む。」ってフレーズには 大いに笑わせて貰った記憶がある。 (トラ技と言う雑誌は紙面の2/3が広告。だが、広告が多すぎるという苦情が 読者からあまり出ない不思議な雑誌だ。)

スペアナを貸してくれた友人にその話をしたら、 「トラ技の広告? 確かに、ありゃ広告を買うもんよ。」と笑っていた。

ちなみにこの分類が正しいとすると、たるさんはまだまだ初心者。 特集記事のおもしろい号だけ買っているし、全部の記事を 完全に読みこなせるわけではないしね。

☆フル稼働中のスペクトル   
さて、というわけで本題に戻ろう。

前回掲載したスペクトルはWindows起動終了直後のもので、比較的電源負荷もCPU負荷も 少ない状況でのデータである。 しかし、電源安定度の向上のためにはフル負荷でのスペクトルを 見て評価した方がよいだろう。 と言うわけで、今回はOC時にPCが落ちやすい状況を 再現してスペクトルを測定してみた。

OC時にPCが落ちやすい状況とはどのような状況であろうか?  それはOS起動時とベンチマーク実行時であろう。 OCでは、BIOSは立ち上がるがOSが起動しない という話が頻繁に出てくるわけで、 OSの起動とはCPUにとってはフル負荷であろう事は想像に難くない。

また、ベンチマークがフル負荷であることは言うまでもないことだろう。

と言うわけで、まずベンチマーク・Super-πを使用して、 π焼き中のスペクトルを測定してみた。 (図の上下で周波数範囲が同じになるようにWindows起動終了直後のスペクトルも 再掲載したので、比較してみて頂きたい。)

π焼き中のスペクトル
Center:500MHz Span:1GHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

π焼き中のスペクトル
Center:50MHz Span:100MHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

π焼き中のスペクトル
Center:500KHz Span:1MHz 10dBm/div
ResBW:10KHz VBW:10KHz

Windows起動終了後のスペクトル
Center:500MHz Span:1GHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

Windows起動終了後のスペクトル
Center:50MHz Span:100MHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

Windows起動終了後のスペクトル
Center:500KHz Span:1MHz 10dBm/div
ResBW:10KHz VBW:10KHz


まず、この結果を整理してみよう。 たるさん的注目点は下記の3点だ。

また、写真で見ると定常的に見えるが、実際にはπ焼き中には スペクトルが大きく変動している。

これは何を意味するのであろうか?

まず、900MHzピークの半値幅が増大することは、消費電力がクロックに対して 非同期に変動していることを示している。 まあ、無線で言ったら一種の変調を受けているわけだ。

100MHz以下の強い線スペクトルは、マザー上のPCIクロック(33MHz)や AGPクロック(66MHz)にマッチしているわけではない。 実際には、時々刻々その周波数は変動している。 なぜ、そのような中途半端な周波数になるかは不明だが、 ピークの間隔は等間隔に近く、某かの非正弦波成分があるのだろう。

逆に、1MHz以下でピークが消えるのはスイッチング電源から出る三角波の デューティー比が負荷に応じて激しく変動しているためだろう。 スイッチング電源は三角波のデューティー比で出力電圧を制御する。 つまり、負荷変動が無ければ三角波の成分は安定ではっきりしたピークを示すが、 負荷変動が激しい時は一種のスペクトラム拡散状態にあるわけだ。

では、お次はOSの起動状態を見てみることにしよう。

Windows起動開始
Center:500MHz Span:1GHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

Windows起動中(最盛期)
Center:500MHz Span:1GHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

Windows起動終了後
Center:500MHz Span:1GHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz


Windowsの起動が始まると、 特徴的なスペクトルが900MHz直下(800〜900MHz)に現れる。 そして、最盛期にはそれは数多くの線スペクトルとしてスプリアス状に発生する。 Windowsの起動が終了すると、それは小さくなってしまう。

よ〜く、観察していると、そのピークの出現はHDDのアクセスに 同期している事がわかる。 HDDのアクセスが始まると、電源ラインの800〜900MHzにスプリアス状のピークが 発生するのである。 そして、それにより以前述べたU字形のスペクトル分布がさらにはっきりした。

これが、DMA転送に関するピークなのか、HDD自身の負荷によるものかはわからない。 しかし、本来マザー上のオンボード電源はCPUに電力を供給しており、 HDDに電力を供給している訳ではない。

つまり、本当ならばHDDアクセスはオンボード電源の電圧安定には 影響を及ぼさないはずなのだ。 これは、マザーの改造を考える上で一つのヒントになりそうだ。

☆マザー改造   
これらの結果を参考にマザーにコンデンサを追加してみよう。

まず、よく行われる電解コンデンサの追加がなぜ効果が少ないかが見えてきた。

電圧変動成分は低い側でも100MHz程度の範囲なので、 電解コンデンサでは手が出せない 領域なのである。コンデンサには自己共振という性質があって、 自己共振周波数よりずっと高い周波数成分に対しては コンデンサとしての働きを失ってしまう。

電解コンデンサは、容量は大きいが自己共振周波数が極めて低い。 電解コンデンサとしては最高の性能を持つOSコン系の電解コンデンサを使ってさえ、 100μFクラスで数百KHz程度である。

つまり、マザーに追加するコンデンサとしてはもっと高周波特性の良いコンデンサ、 例えば積層セラミックコンデンサ等を使用するべきではないだろうか?

また、コンデンサの位置も問題だ。 電力供給のためには電流の遅れは致命的で、電源ラインのインダクタンス成分が 最小になるように配置する必要がある。 つまり、出来る限りCPUに近い場所に配置する必要があるのだ。

この辺りを考えて追加搭載するコンデンサをチップコンデンサに決めた。 容量的には電解コンデンサに劣るが、ESRが低く自己共振点がMHz以上まで 伸びているのが特徴だ。 (0〜100MHz帯域を落とすなら、理想は自己共振周波数が50MHz程度だが、 さすがにチップコンでも高容量タイプではそこまで伸びないだろう。)

早速秋葉原に出撃し、チップコンデンサを仕入れてきた。 秋月の棚を探して最大容量のチップコンを探してみたが、現時点で手に入る最大容量品は22μFの様だ。と言うわけで、使用チップコンデンサはこれに決定。 また、チップコンデンサの配置はCPUソケット直下に決定した。 我々アマチュアが作業するとすればここが一番CPUに近い位置だろう。 (CeleronみたいにCPUに空きランドがあればいいのだが、Duronではねぇ...)

22μFのチップコンデンサ
たぶん秋葉原で売っている最大容量品。
秋月電子にて購入。

チップコンデンサの取り付け状態
測定用SMAコネクタも直接接続

チップコンデンサの自己共振
Center:10MHz Span:20MHz 10dBm/div
8595A内蔵トラジェネで測定


☆チップコンデンサ追加は危険な香り   
さて、では、数量はどれ位取り付けた方がいいのであろうか?  単純に考えれば、容量が大きいほど電圧変動が少ない事になり、 多ければ多いほどグッドということになる。

ところが、話はそう簡単ではない。 低ESL・低ESRコンデンサは負荷変動に対する効果が絶大ではあるが、 電源回路に与える負荷という意味でも影響が大きいからだ。

たとえば、電解コンデンサ交換の場合を考えてみよう。 Webで見かけるのは容量を1.2〜1.5倍程度に増強するといったものが多い。 この場合の負荷効果は(まったく同一規格の電解コンデンサを使ったとすれば) 大雑把にはまんま1.2〜1.5倍。 電解コンデンサの場合、ESRが大きいので自己共振がダンプされるからだ。

しかし、高周波特性の良いコンデンサの場合、見かけ以上に 容量を増やしたことに相当するのではないか?

それは、電解コンデンサの場合は本来厄介者であるハズの 高ESRが、ある意味において直列共振のQダンプや 突入電流予防の保護回路としても機能しているからだ。 低ESRのチップコンデンサでは、スイッチング電源のインダクタと 直列共振回路を形成してしまい、しかも低ESRであるが故にダンピング効果も 期待できない。

極端な話、チップコンデンサの総容量が自己共振周波数を下げ、しかも それがスイッチング周波数と一致した場合、理論上のインピーダンスは チップコン全体を並列接続したESR分にまで低下してしまうことになる。 直列共振状態ではチョークコイルやESLのインダクタンス成分は 見かけ上0になってしまうのだ。

チップコンデンサのESRの小ささを考えれば、 これはつまりほとんどショート状態になる事を意味する。

と言うわけで、チップコンデンサの総容量は電解コンデンサのように ガンガン大容量追加と言うわけには行かないようだ。 無思慮なチップコンデンサの大量追加は危険な焦げ臭い香りを招く可能性大だ。 電解コンデンサと同様の軽い気持ちでガンガン付け足してゆくと、 電源があっさり壊れる可能性があるのだ。

AK77-333のCPU用電源の総コンデンサ容量は2200μFが8本で17600μF。 仮に20%容量アップとして3520μFの追加となる。 電解コンデンサならまんま3520μFアップでいいだろう。 が...ここでは、怖いので安全係数を10倍程度取っておこう。 (10倍という値には特に根拠は無いが...) そうすると総容量は352μFなので、22μFのチップコンデンサを使用する場合は Max16個という計算になる。

工作はチップコンデンサを9個、Vcc-GNDを最短コースで半田付けする事で 行っている。本来はもっとたくさん搭載できるのであるが、 測定用のSMAコネクタが邪魔しているため実際の追加コンデンサ数は9個となった。

このチップコンデンサの自己共振周波数を測定してみたが約10MHzであった。 100MHz付近を落とすためにはもう少し伸びて欲しいが、 電解コンデンサよりは格段に良い値である。

また、オンボード電源の電解コンデンサにパラに同様のコンデンサを追加した。 コンデンサは8本なので、予定より1個多い計17個追加だ。 あと、それ以外の電解コンデンサには、もう少し容量の小さい 10μFチップコンデンサをパラに入れてある。 これはオンボード電源とは無関係なコンデンサなので計算には入れていない。 (AGP・PCIバスやメモリ電源の安定化用)

☆蛇尾なOC測定結果   
さて、この状態でOC耐性を調べてみよう。 コンデンサを入れる前と入れた後でOC耐性がどう変わるか調べたのが次表である。

マザー改造 無改造 22μFチップコンデンサ追加
クロック周波数 BIOSの起動 Windows98の起動 Super-π HD-Bench BIOSの起動 Windows98の起動 Super-π HD-Bench
900MHz
918MHz
945MHz
972MHz × × × ×
990MHz × × × ×
1017MHz × × × ×
1035MHz × × × × ×
1053MHz × × × × × ×

このCPUは実験で壊れても後悔がないようにハズレ品の根性無しDuronを使用している。 このため、本来のOC耐性は非常に悪いものだ。 素のままでは、たった5%しかOC耐性が無いのだ。

しかし、コンデンサ追加後はと言うと... くぅ〜、HD-Benchさえ無ければ大成功なんだがな〜。

HD-Benchさえ無ければ4段階アップで大成功なんだが、HD-Benchが通らないので 効果全くなしという結果に終わってしまっている。 竜頭蛇尾というほか無く、無念な結果である。

ただ、HD-Benchの結果さえなければその効果は明らかだ。 いままで、BIOSすら起動しなかった領域でWindowsがすらすらと起動するのだから...

なお、1053MHz以上はDuronの倍率変更改造をしなければこのマザーでは 設定できないため、実験をしていない。 つまり、倍率変更改造をすれば、Windows起動の限界はまだまだ上かもしれない。

☆コンデンサ追加後のスペクトル   
では、コンデンサの追加でどのようにスペクトルが変化したか見てみよう。 下記に追加前と追加後を同じ条件で測定したデータを示してある。

22μFコンデンサ追加状態のスペクトル
Center:500MHz Span:1GHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

Center:50MHz Span:100MHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

Center:500KHz Span:1MHz 10dBm/div
ResBW:10KHz VBW:10KHz

Center:100KHz Span:200KHz 10dBm/div
ResBW:1KHz VBW:100Hz

コンデンサ無しのスペクトル
Center:500MHz Span:1GHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

Center:50MHz Span:100MHz 10dBm/div
ResBW:1MHz VBW:100KHz

Center:500KHz Span:1MHz 10dBm/div
ResBW:10KHz VBW:10KHz

Center:100KHz Span:200KHz 10dBm/div
ResBW:1KHz VBW:100Hz


まず、数百MHz帯の高い周波数にはあまり変化が見られない事がわかる。 これは、チップコンの自己共振周波数を考えれば当然の結果だ。

次に100MHz以下を見てみると、15MHz位の所にディップが発生し この辺りの周波数成分の電圧変動が数dB改善されている。 チップコンの自己共振周波数が約10MHzであることを考えると、 これがチップコンデンサの追加によって成し遂げられたことは明らかだろう。

1MHzまで測定域を下げると、 周波数が高いほど信号レベルが低下している事がわかる。 この周波数帯では、確かに効果があったのだ。 (観察される信号の絶対強度が100MHzの場合と違っているが、 ResBWが異なるのでこれはこれで間違いではない。)

さらに200KHzまで測定域を下げると、またも差が少なくなってくる。 この領域では22μFという値は小さすぎるのだろう。 数百KHzオーダーでは電解コンの出番なのだ。

結論として、このチップコン追加では15MHzを中心に電圧変動成分が抑制され、 OSの起動やπ焼きのOC耐性が上がったものと考えられる。

しかし、HD-Benchでは効果が見られなかった。 HD-Benchでは他の周波数成分の 電圧変動がOC耐性劣化に寄与しているのだろうか? (もしそうだとすれば、その成分の候補としては100MHz近くの成分か、 900MHzのピークという事になる。)

と言うわけで、暇を見てこの周波数成分を除去すべく他の容量のチップコンデンサを 追加する機会をうかがっている所だ。 まだまだ実験をしたい気もするが、スペアナも借り物であるし 借りっぱなしって訳にもいかない。というわけで、 この辺りはまた機会があれば再チャレンジしたい。 (むぅ〜、OCの効果無しってのは...悔しすぎる。)

マザーのオンボードレギュレータの電源品質に注目している PCマニアは比較的少ない様である。 しかし、CPUの高消費電力化に伴い今後このジャンルの問題は 熱問題以上の大問題になるであろう。 今回の工作では、たるさんのタコスキルでは死屍累々だったが、これを乗り越えて いずれ名のあるPCマニアがこの方法で大幅OCを達成され、 この分野に注目する人が増えることを願っている次第である。



−注意事項−
この記事を参考に自分で改造しようと考えている方々へお願い致します。 お約束になりますが、すべて自己責任で行ってください。 問題が発生した場合でも責任は一切負いかねます。 特に最近のマザーは大電流を扱うので、最悪の場合火災事故となりかねない 事に十分ご注意してください。

お詫びと訂正
一部の図でResBWの数値が間違っていたのを修正。