敗軍の将、兵を語る(景気回復編)




★本コンテンツの命名由来   

さて、本題に入る前にこのコーナの由来について簡単に説明しておこう。

腹切り丸とは、たるさんが小学生時代に行った事のある姫路城の郭の一つである。 通常の城郭は前後二つの門で区切られており、一つの城郭が敵兵に占領されても 内部へと退却する事ができるようになっている。

しかし、この腹切り丸という城郭は門が一つしかなく、 内部には井戸が一つあるだけである。つまり、防備施設としての役割を 果たしていないのである。

このため、この城郭は侍の切腹のための施設であるとか、 その井戸で首を洗ったとかの噂が絶えなかったそうである。

さて、この項では過去の予言の内から、はずれた予言について その敗因の研究をしてみようと思う。 つまり、敗軍の将であるたるさんが大いに兵を語りながら、 責任を取るという企画なのである。

★栄えある最初の「腹切り」は?   

さて、栄えある最初の「腹切り」は メモリとPentium4の異変に見る景気の底打ち である。

そこで、たるさんは2001年11/29に下記のように予言した。

−たるさんの予言−
秋葉原ウオッチから感ずるに、景気は既に底を打った感が強い。
1年後には2001年第四四半期が景気の底であったと宣言される事になるであろう。
力強さには欠けるかもしれないが、パソコンを中心にハイテク産業は 近々苦境を脱するだろう。


この記事をアップした頃には、世間の経済アナリストは総悲観一色であった。 総崩れの日本経済は言うに及ばず、9/11テロの影響もあり、 中国以外の世界経済についても暗黒の予想が多かった。 景気底打ちは2002年後半との予想が大多数であり、 その回復力も極めて弱いとの予想が大半だったのだ。

ところが、たるさんは秋葉原を徘徊しながらメモリとCPUに回復の風を感じ、 景気の底は2001年第四四半期であり、 それ以降は緩やかな景気の回復を予言したのである。 読者のお叱りを覚悟の上でのレポートであった。

では、それ以降の実体経済はどのように推移したのであろうか?

12月、1月の景気動向は、たるさんにとってはまさにウハウハと言えるものであった。DRAMチップのスポット価格は$1落ち寸前で踏みとどまり、 $2台に向けて動き出し、CPUの出荷が増えたのはintelのみにとどまらず AMDも出荷の伸びを報告した。 その後、秋葉原ではメモリに続き液晶モニタの価格が上昇を始め、 少なくともIT分野ではデフレ傾向は緩和に向かっている事が明白となった。 たるさんの予想は、見事に経済アナリストを出し抜いたのである。

ここまでなら、 「な〜んだ、たるさんが珍しく予言を当てたので、舞い上がって自慢してやがる。」 という鼻持ちならない自慢ページになったであろう。 ところが、2月に入るとだんだんと様子がおかしくなってきたのである。 では、今の経済状態を各種の報道から俯瞰してみよう。 著作権にふれない範囲で、特徴的な記事を簡単にまとめてみた。

★明白になった好景気   

Intelが業績予測を修正。サーバ売上が予想以上に好調

InfineonのCEO「DRAM価格の回復でシェア拡大」を宣言

「マザーガラスが世界的な供給不足,携帯電話機やPDAが値上げの可能性」
調査会社の米Provizioが米国時間2002/2/22

「電気通信業界の見通しは明るい」,業界幹部の70%は売上高増を予測
米Strategis Groupのリサーチ 米国時間2002/2/25

DRAM、5ドル台視野に――回復へ3つのポイント(市況診断)
日本経済新聞 朝刊 2002/02/23
要約:五ドル回復は次世代半導体へと業界の希望をつなぎ、 半導体市況を正常なサイクルに引き戻す一つの節目となるのではないか。

米GDP今期4%増も、在庫寄与と個人消費堅調で-FRBはなお慎重
(ブルームバーグ)2002/3/4
要約:米国経済はリセッション(景気後退)の終了から、回復へと向かい始める中で、当初予想を上回る勢いを付けてきた。在庫調整の終了に伴う押し上げ効果が、ストレートに国内総生産(GDP)に反映されるため、ことし第1四半期には前期比年率4%前後の高い成長を達成する可能性もある。

「季節柄落ち込むはずのパソコンや民生機器向けの需要が絶えない」とFairchild社が業績予想を上方修正
2002.2.22

(韓国)企業体感景気、過去最大の上昇
韓国中央日報 洪承一(ホン・スンイル)記者 2002.03.03 18:41

「世界の携帯電話機市場,2002年の販売台数は4億6200万台で回復基調へ」
米Micrologic Researchが米国時間2月19日に,世界の携帯電話機市場に関する予測分析を発表した

世界IT景気復調の兆し、米でパソコン健闘、アジアの部品生産に波及
日本経済新聞 朝刊 2002/02/21

★不況どころか、ミニバブルを心配すべき時   

どうであろうか?  これ以外にも、世界の首脳陣が「景気回復を宣言」するまでになった事は 周知の事実である。

さて、上記予想を簡単に解説してみよう。

まず、DRAMチップ価格であるが、$1から$4に上昇すると、 ほぼすべてのDRAMメーカーが黒字化すると言われている。 スケールメリットが得られる業界1,2位のメーカーならば、 これでも十分な利益が得られる。 もしこれが、$5台ともなると、これはウハウハ大儲けのレベルである。

液晶については、もう完全な活況であり、好景気であると言える。 なぜならば、パソコン用大型液晶は完全にラインの限界までフル操業が続いており、 それでも作りきれないバックオーダーを抱えているからだ。

今まで、辛酸をなめてきたハードディスク業界も好景気に沸いている。 過去、全メーカーが赤字だったこの業界であるが、 これにより黒字化するメーカーがぼつぼつ現れてきたそうだ。 また、HDD用モーターの最大手であるN電産では、流体軸受けが好評で 生産が間に合わず、生産ライン増強の前倒しに踏み切ったそうだ。

日本勢ではPDPパネルが絶好調である。大画面TVが急速に伸びているため、 PDPパネルの生産が間に合わないそうだ。 韓国勢は液晶に力を入れすぎたため、 PDPパネルの生産に関しては日本勢の独走を許している。 日本勢は総悲観の中、PDP生産ラインに関しては例外的にライン増強に走っている。

フル生産、フル操業、ライン増強と、これははっきり言って 景気の底打ちどころか好景気と言える状態である。 世界経済は非常に力強く回復しているのである。

「事実は小説よりも奇なり。」と言うが、少なくとも光通信を除くIT分野での 実体景気は、経済アナリストはもちろんの事、たるさんの予測すらぶっ飛んで V字回復を遂げているのであった。

もし、ここで各社が全力でライン増強に走れば、かつてのITバブルの再演となる 可能性が高い。

そう、たるさんは不況どころか ミニバブルの再現を憂慮すべき段階と考えるのである。

★敗因の研究   

ところが、たるさんとしてはこれでは困るのである。 たるさんの予言は

秋葉原ウオッチから感ずるに、景気は既に底を打った感が強い。
1年後には2001年第四四半期が景気の底であったと宣言される事になるであろう。
力強さには欠けるかもしれないが、 パソコンを中心にハイテク産業は 近々苦境を脱するだろう。

というものだった。 景気の回復予想こそ的中したものの、回復力は弱いと判断していたのである。

ここで、

秋葉原ウオッチから感ずるに、景気は既に底を打った感が強い。
1年後には2001年第四四半期が景気の底であったと宣言される事になるであろう。
パソコンを中心にハイテク産業の景気は
力強く回復するだろう。

と書いておけば、良かったのだ

掲載当時、あまりにも世間が総悲観だったために、ヘタレの根性無し「たるさん」は 経済アナリストに対し最後までツッパリきれなかったのであった。

敗因は、ズバリ自分自身に対する自信の無さと信念の欠如である。 世間に逆らって景気回復を予言するならば、 時流に流されて言葉に保険を掛けたりする必要は無かったのである。

これを見るにつけ、アインシュタインの宇宙項の逸話を思い出す。 アインシュタインは、宇宙の膨張が発見される何年も前に 「宇宙は収縮しているか膨張しているかいずれかである。」という計算結果を得ていた。

しかし、当時の圧倒的主流であった「定常宇宙説」に異議を唱える自信が無く、 宇宙項という恣意的な補正項を付け加えて、自身の理論を「定常宇宙説」に 矛盾しないように書き換えてしまったそうだ。

後日、宇宙の膨張が発見された時、 アインシュタインは歯がみして悔しがったに違いない。 信念を貫くというのは本当に難しいものだ。

ところで、肝心の日本メーカーの状況はどうなのであろうか?

★日本メーカーは?   

松下電産:10−12月純損失1720億円−通期4380億円の赤字に修正 (ブルームバーグ)
2002/2/21

電機6社、今期連結、最終赤字2兆円――人員削減を拡大、成長戦略は見えず。
日本経済新聞 朝刊 2002/03/01

京セラ:今期連結純利益予想275億円に下方修正−前期比87.5%減 (ブルームバーグ)
2002/2/22

う〜ん。この記事は先期の業績を元にしているとは言え、 この景気回復の利益を享受するのは海外勢ばかりのようである。 総悲観の予測を出しまくった経済アナリストの罪は重い。



2002年 3/15増補
その後のWebや雑誌の記事によると状況は下記の通り。

Hynix Semiconductor,黒字転換本格化(3月6日付)
注:この記事を見るためには日経オンラインでの登録が必要。

1月の台湾TFT売上高,全社が過去最高を更新
注:この記事を見るためには日経オンラインでの登録が必要。

(台湾)TFT−LCD最大手の友達光電、2月売上高は209%増

(台湾)マザーボードの微星科技、2月売上高は48%増
注:微星科技はマイクロスターの事です。たるさんも1枚所有。

欧米企業、IT投資回復の動き――ネスレ5年間で5億ドル、AT&T情報処理を委託

2002年のパソコン出荷台数見通しを前年比+3%に上方修正 IDC (ロイター)

さて、ここでたるさんの追加予言をしておこう。
世界の中で唯一回復しない日本景気だが、世界がここまで V字回復&好景気に突入すると、さすがに輸出増の恩恵を受けると考える。

ただし、あまりにも急激な回復はミニバブルを呼び込むので好ましくない。 たるさんとしては、もう少しスローペースでもいいから、 持続的に回復して欲しいものだと思う。

−たるさんの追加予言−
世界で唯一不景気の日本だが、今後はさすがに輸出増の恩恵をうけるだろう。 少なくともIT産業に限れば業績をV字回復させると思われる。 今後半年以内に日本のIT産業でも業績の上方修正が相次ぐだろう。


以前にも述べたが、今までがあまりにも悲観的すぎたのである。



2002年 3/28増補
IT分野でのデフレ終演は決定的になったようだ。 単品のメモリ、液晶モニタでは値上がりが進行しているが、 ついに大手メーカーの最終製品も値上げとなった。

アップル、部材の値上がりを理由にiMacを一律2万円値上げ 〜出荷状況は改善と言及

ソニー、バイオWをマイナーチェンジし、実質値上げ 〜リモコンが同梱に、実売は2万円上昇

バイオノートはこれから値上がりする!? 〜バイオノートブックコンピュータカンパニー 島田 啓一郎プレジデント インタビュー

また、世界に比して悪いと言われる国内景気も上向いてきたようである。

国内の電子部品は底打ち、JEITA会長が発言

もちろん、これをもってすべての産業分野でのデフレが 収束するというわけではないが、 「物の値段は待てば待つほど下がる。」というデフレ神話が崩壊したという シンボリックな意味だけでも、景気には良い影響を与えると思われる。