一般公開見聞録(JAXA筑波宇宙センター&筑波大学計算科学研究センター)   

2012年4月22日



☆JAXA筑波宇宙センター。   
今回のネタは一般公開見聞録。 筑波でJAXA筑波宇宙センターと筑波大学の一般公開を見学してきたのであった。

なんせ筑波は研究学園都市である。 各種研究開発施設は数多い。 その中でも4/22(土)、4/23(日)は一般公開の多い日。 どちらにしようかと迷っていたのだけれど、日曜日は自分の専門分野関係の研究所が多いので、 素直に趣味として楽しめるJAXAに行ってきた。また、4/22は筑波大学の一般公開もあって、 スパコン等の一般公開もあるのでこちらにも行く事にした。

JAXA関係では過去に航空宇宙技術研究センターに行って紹介したこともあるのだけれど、 今回の筑波宇宙センターはロケット関係の業務がメインなのが見所だ。 そんなわけで、今回の一般公開は子供たちに大人気で家族連れ客が殺到。訪問客の半数近くが子供連れの家族である。

JAXA筑波宇宙航空センター
ロケット関係の業務が多いので、子供たちにも大人気であった。

見学通路では宇宙服を着た担当者が見学者と写真を撮るサービスを行っていて、これも子供たちに大人気。 ちなみに、宇宙服は機外用と機内用の2種類がありました。(写真は機外用)

当サイトの場合は、まずは総合環境試験棟での人工衛星開発業務を見学。 人気見学らしく長蛇の列で、待ち時間は20分以上。 こちらは最新の技術設備らしく写真撮影が全面禁止(デジカメ・携帯は別途に袋詰め)だったので残念ながら文章のみになるが、 要するに各種のロケットや人工衛星を開発するための巨大設備である。

ロケットは次世代の最新型第三段エンジンが見学できた。 また、各種の振動試験装置があって、垂直振動、水平振動試験を行うそうだ。 ロケット発射における強烈な振動に耐えられる試験をするために振動試験装置が設置してあるのはよくわかるが、 おもしろいのはこれらの横に巨大な音響試験装置も設置してあったことである。

ロケットというと、強烈な発射音は打ち上げ時の映像でわかると思うが、 実はロケット内部では強烈な音波という程度のものではなく、 手抜きをしていると音波で破壊が起こるレベルなのである。 つまり、振動に耐えられるだけではなく、音響レベルの高さにも耐えられる必要があるというわけだ。

あとは、人工衛星の組み立ても行っていたのだけれど、 衛星が金色なのは金箔かと思っていたら、色は金色なのだけれどあれはアルミ箔なのだそうだ。 このアルミ箔は断面が多層構造になっていて、その層構造の種類によって金色だったりピンク色がかっていたりするとのこと。

そして最後は巨大なスペースチャンバーの見学。人工衛星を真空中で試験するための装置である。 これはかなり迫力のある巨大な装置で、真空中での高温・低温に対する人工衛星の耐性を試験するのがメインなのだそうだ。 (写真を掲載できないのがちょっと悲しい。)

左図はロボットアームの展示、右図は真空環境振動試験装置。
ロボットアームは子供たちに大人気。振動試験装置は縁の下の影武者。

で、ここからは写真撮影もOKということで、まずはロボットアームの展示を見学。

やっぱりロボットというと子供に大人気のようで、こちらの見学室は子供連れが多い。 男の子たちが目を輝かせてロボットを見ていた。 と言うわけで...いや〜、通路が混んで混んで見学も大変であった。

で、地味な真空環境振動試験装置などは子供連れにはあまり人気がないので比較的空いていたのだけれど、 当サイト的には技術的に見るとこちらもとてもおもしろかった。

真空中で振動試験するのは空気中よりも結構大変なのである。 なぜならば、振動試験では各種の試験装置が強烈な振動を行うわけだけれど、 真空中では可動部分同士が簡単に固着してしまったりといった、真空特有の問題が多いためである。 (空気中で振動試験を行う場合は可動金属面同士の固着を空気が防いでくれるので問題は起こりにくい。) しかし、軸受け等の耐性試験を行うときに試験対象の物品ではなく試験装置自体が先に壊れてしまっては意味が無い。 と言うわけで、地味だけど各種のノウハウ対策がつぎ込まれた縁の下の影武者的研究設備なのであった。

真空環境計測実験室。
超高真空中における材料表面の分析などを行う設備である。

あとは、当サイト的には上記の真空環境計測実験室がおもしろかった。 なぜって、XPSとかAESとか当サイトの専門分野に近い話であるし、 原子間力顕微鏡なんて学生時代に授業では習ったが実機を見学できたのは本日初めての状況だから。

原子間力顕微鏡は原子レベルでとがった探針をサンプルに当てて、その挙動をレーザー光の光学干渉などを利用して 検出することでサンプル表面の状態を画像化して観察する測定器である。 探針が原子レベルでサンプルに近づくと、原子間力による力が探針に働いてわずかに探針が動くためである。

この手の分野ではSTM(走査型トンネル顕微鏡)が有名だけれど、STMはその原理から絶縁体では測定ができない。 しかし、原子間力顕微鏡はトンネル電流を測定する訳ではないので、絶縁体でも測定可能という利点があるのが特徴である。

と言うわけで、目立たないけれど裏方の研究設備も、当サイト的には非常に興味深い内容であった。

ロケットや衛星というと派手な打ち上げ風景を想像してしまうし、 そのため巨大ロケットエンジンの噴射などがメイン実験と考えてしまうのだけれど、 こういった縁の下の影武者的な地味な研究者たちが居てこその打ち上げ成功なのであった。

☆筑波大学計算科学研究センター。   
お次は筑波大学計算科学研究センター。 当日はこれ以外にもたくさんの公開が行われていたのだけれど、 時間の関係で他の公開見学は難しかったので、当サイト的興味から今回はこちらのみ。

それにしても筑波大学は校内が広い。 目的地にたどり着くまでが大変だったね。

まずは、見学の前に写真の通りスパコンの簡単な説明が行われていた。 見学者と行っても当サイト的なPCマニアばかりではなく家族連れとかも多いので、 そもそもスパコンとは何なのですか?といった話からの説明である。 (実際にはスパコンの厳密な定義というものは無くて、大雑把にはパソコンの1000倍以上の性能でスパコンと言われる場合が多いとのこと。)

スパコンについての簡単な説明。
右図は歴代HPCの一つ、CP-PACSのユニットボード。

実施の見学は、設置場所で冷却空冷の騒音がかなりうるさいため解説は無し。 事前に窓ガラスで内部が見える別室で説明が行われた。

理論ピーク性能は802TFLOPSで、ネットワークはインフィニバンドを使用。 HA-PACSの特徴はGPGPUがメインに使われている事である。 写真の通りGPGPUボードが取り付けられている。 これは、コストパフォーマンスを高めるためなのだそうで、 スパコン専用のチップを作成することが開発コスト的に困難になっていることが背景にあるとのこと。

HA-PACSの使用目的にはいくつかあるが、説明が行われていたメインの用途は「強い相互作用」のシミュレーション。 強い相互作用については全然専門外なので当サイト的にはよくわからなかったが、 要するに陽子とか中性子のさらに根本となる粒子間の相互作用の事のようである。

これは理論計算がかなり難しい分野であり、なおかつ実験の難易度も極めて高いとのこと。 そのため、シミュレーションと各種理論値の突き合わせでジリジリと研究を進めていくのだそうだが、 現段階ではまだ理論とかなりのズレがあるのだそうだ。 (専門家がなるべく素人にもわかりやすいように説明してくれていたのだけれど、 なんせ分野が分野なので詳細については一発理解は不可能であった。)

HA-PACS本体と、そのボード
HA-PACSの特徴はGPGPUを装備していること。

ちなみに、PACSシリーズは並列化HPCの流れの根本でもある。 PACSがまだPAXシリーズだった頃には現代HPCの根幹をなすPAX-128等が作られるという歴史があった。 これらの時代にはPCチップを使用した高並列化HPCは時代の流れから外れている時代であって、 そのトレンド転換を先読みした星野先生の研究開発はHPC界の流れを変えているとも言えると思う。

そう言う歴史があって、筑波大学のPACSシリーズには演算性能以上に存在意義があるとも言える。 (星野先生の本に「PAXコンピュータ」という教科書があるが、 30年近くも古い本とは思えない内容であった。)

見学していておもしろかったのは、冷却設備のコスト対策。 写真の通り下側から冷却風が出ているのだけれど、スパコンの両側に透明なアクリルパネルが設置してあって、 冷却風が各ユニットに効率よく流れるようにしつつ、コストも抑えるように工夫されていた。

このコスト対策は実際に実費に効いているようで、 (京速計算機では建物の建築などに多くのお金がかかっているので直接は比較できないとは言え) FLOPSあたりの単価は京の1/10に近いとのこと。 (当サイト的には理論ピーク性能が相対的には小さいことによる信頼性問題のコスト減等も理由として考えられると思っているので、 このコスト比が同一FLOPSシステムでも成立するとは思えないが...)

HA-PACS本体と、そのボード
床下には冷却用の空調施設がある。それが効率よく流れるようにアクリル板でカバーしてあった。(左図)

それにしても、スパコン見学のお客様は当サイトのようなPCマニアが多いのかな?と思っていたが、 主婦や小学生も結構来ていたのが印象的であった。 (写真はなるべく人が写らないように工夫して撮影しているのだが、実際は結構な人がいたのですよ。) 「2位ではダメなんですか?」の件に代表されるように、スパコンは一般市民からも注目度が上がってきているようである。

と言うわけで、筑波大学のスパコン見学も終了。 久々の一般公開見物で一息入れられた週末なのでした。