絶対性能から効率の時代へ。(2012年年頭挨拶)   

2012年1月10日



新年あけましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。

☆関鍛冶伝承館再訪。   
今年の初詣なのだけれど、 過去に一度行った関の打ち初め式に再度行ってきた。

なにせこの打ち初め式は匠の技の象徴ともいえるもので、 当サイトのようなお気楽無能人にやる気を起こさせるには絶好の機会。 これを見ていると自分の仕事に対しても戦闘モードに入れる。 楽しみながらもスキルアップを狙う意欲を得るという、 一石二鳥の名観光地である。

そして、当サイトは大学時代に夢想神伝流居合道を習っていたので、 これまた懐かしく学生時代を思い出しもする。 いわば一石三鳥も四鳥も、と言うわけ。

2012年・関の打ち初め式。
視界の良い席が取れなかったが、相変わらずの美しい火花。

ちなみに、今回は打ち初め式が激混み状態で視界の良い席が確保できず、 見学者保護用強化ガラスの枠が視野に入ってしまい残念ながら良い写真が撮れなかった。 幸い詳細 は以前一度既に掲載しているので写真1枚に納めるけれど、 この匠の世界は何度見てもすばらしいね。

☆ルーティンワークを舐めてかかるな!   
さて、2012年だけれどPC界にとって最大の危機が訪れる年となるというお仲間意見が多い。 日本の場合非PC系情報機器の発展は今はマニア市場にとどまっており、 今後市場拡大ペースは徐々に低下するというのが当サイトの予想だけれど、 それでもペースは低下するもののこのトレンドは変えられないという意見には同意せざるを得ないと考えている。

さて、そのトレンド変換はなぜ起こったのであろうか? (「ジョブズのブレークスルー」という意見は間違いではないが、 あまりにも見方が単純過ぎると思っている。)

当サイトの意見としては、どの産業界でも時代の流れとしてみられる 「絶対性能から価格・効率重視へのトレンド転換」が、 ついに半導体産業でも始まったことが背景にあるのではないかと考えている。

たとえば自動車産業では、今から10数年ほど前までは車といえば走行性能と低公害性能であった。 ホンダのVTEC、マツダのロータリーエンジンは自動車系マニアから絶賛されていたし、 CVCCといえば低公害化ブレークスルーの象徴であった。

しかし、今の自動車業界といえば、最大の売りは燃費性能である。 今優れた自動車の象徴と言えばトヨタのプリウス、ホンダのインサイト。 マツダは燃費の悪いロータリーエンジンの生産を停止し、 逆に燃費の良い高圧縮比エンジンのスカイアクティブ-G1.3をアピールポイントにしている。 走行性能重視のスポーツカーなどはまったく話題にもならない状況だ。 (スポーツカーがあまりに人気ないので、トヨタなどは若者のスポーツカー離れを懸念して 人気マンガ「イニシャルD」にタイアップして86という新型スポーツカーを売り出すとのこと。)

このスポーツカーとエコカーの違いがなぜ起こったかというと... 現状の自動車の走行性能が一般用途ではもう十分に高性能であるという点が指摘できると思う。

わかりやすく考えてみよう。 もし今のプリウスやインサイトが、燃費は今のように非常に良好だがその代わり 昭和30〜40年代の車程度の走行性能に落ちてしまうとしたら、今のように売れていただろうか?  当サイトの意見は、いくら燃費がよくても当時の走行性能まで性能が落ちてしまうのならば 全く売れなくなったであろうというものだ。 (ちなみに、ネットブックが全然売れなくなったのは当時のAtomがまさにこれと同様の状況だがら。)

では、燃費は悪いが今のプリウスやインサイトより格段に走行性能が良い車ならば売れるかというと、 自動車業界でのスポーツカーの大苦境をみれば、いちいち書かなくても簡単にわかる話だね。

これは航空機業界でも見られる話で、一時はコンコルドのようなスピード重視の傾向も見られたが、 現在では搭乗客一人あたりの燃費性能が最重要指標となっている。

要するに、製品の進化過程として黎明期はマニア向けの趣味性、初期には絶対性能、完成期には効率と低価格... というように時代の流れに応じて最適点が移り変わっていくということだと思う。

とすると、今のタブレットブレークは何を意味するのであろうか?  当サイトの意見としては、情報機器の絶対性能がもう一般ユーザーには十分な性能になりつつあること、 および情報機器の用途がルーティンワーク化しつつあることだと考えている。 (タブレットはクリエイティブという意見は明らかに宣伝に飲まされている。 アプリを作る側から見ればクリエイティブだが、ユーザーサイドからみればかえってルーティンワークの比率は上がっている。)

ただ、当サイトがアップルは凄いなと思う点を一つ言うならば、 宣伝としてクリエイティブを主張しながらも、 ルーティンワークを決して舐めてかからなかったことだ。 ユーザー用途の中心点がルーティンワークであることを本心では認め、 それをいかに快適に使えるかを徹底的に解析し対策したのである。 当サイトがジョブズから学ぶものがあるとすれば、 たぶん異論が集中するだろうことを承知であえて書かせていただくとすれば、 それは「ルーティンワークを決して舐めてかかるな! クリエイティブとはルーティンワークを快適化させる手段であり、それ自体は決して目的ではない。」という手段と目的を取り違えない堅実な考え方だと思う。 (表向きには絶対に認めない事だろうけれど...)

この用途のルーティンワーク化は半導体業界から見れば絶対に認めたくない事実である。 このため、これを信じたくない一心でマルチコア化を推し進め、そして戦略的に崩壊した。 これは、どんなに影響力の高い業界でも宣伝で歴史的トレンドは変えられないということを示唆している。(どうしてもトレンド転換を阻止したいのならば、製品体型が完成期に入らないような何らかの高性能需要(高性能技術ではない!)を新たに見いだす必要がある。)

☆絶対性能から効率の時代へ。   
さて、このトレンド転換を考えたとき、作り出すべき製品の方向性はどう変わるのであろうか?

一つの正解は誰でもわかる単純な話で、方向性を絶対性能から効率(低消費電力)と低価格に移す方向である。

これは最近のAMDの開発方針を見れば、これと一致していることがわかるだろう。 AMDのBulldozerはシングルスレッド性能面ではPCマニアに酷評されているそうだ。 (当サイトはPC用途でのシングルスレッド性能重視派であるからこの意見には違和感を感じないが、 数年前に主流であった「マルチコア化は時代の流れである。」という意見から見れば、 時代が変わってきたという感じ。)

しかし、当サイトはAMDが間違った判断をしたとは思っていない。 シングルスレッド性能がPC用途で重要なことには間違いはないが、 一般ユーザーが求める最低限の性能をクリアさえすれば、 その低性能が致命的な売り上げ低下に直結するわけではないからだ。 また、デコーダーの共用により効率を上げており、これによりダイサイズが小さくできるから価格も下げられる。

これは、PC界そのものが発展期から完成期に移行しつつあるために成り立つ話である。 今ならばPC用ベンチマーク数値はダメでも、体感速度的にはギリギリとは言え及第点を維持出来る。 しかし、もしAMDが今から10年前に同じ方向に方向転換していたならば、 絶対性能が基準値に届かないため体感速度も致命傷レベルとなる。 製品は全く売れず致命的な経営ダメージを生じただろう。

要するに、PC用途としては市場規模の小さいPCマニア層は完全に無視。 一般ユーザーが求める最低限の基準値をクリアする範囲にシングルスレッド性能は留め、 デコード系の共用化によりサーバー用途では総合性能を落とすことなく効率を高め、 消費電力と価格を抑えていく。 この方向が成り立っているのは、PCの時代背景が発展期から完成期に移行しつつあり、 なおかつサーバー用途では発展期を維持出来る「今」だからこそなのである。PC界がまだ発展期ならばシングルスレッド性能の停滞は致命傷になっているはずだが、 この時期だからこそ何とか我慢できる範囲内に持ち込めるのだ。 (この辺りは、この記事の考察が当サイトの考えと まったく同意見なのでとても参考になると思う。)

ちなみに、当サイトがトレースキャッシュの複数コア共用使用説を掲げているのもこのためで、 共用すれば絶対性能低下を最小限に留めつつ、電力効率と価格を下げられるからである。

では、PC界を完成期に移項させたくないとすれば... それは何らかのキラーアプリを出現させてPC用途のルーティンワーク化を避けるほかに手はない。 新たな用途が次々と生まれてくる事で必要性能が上がり、性能勝負となりうる。 90年代のPCはまさにそのような状況だったのだが、 残念ながらインターネットの普及以降からこのような需要の拡大が漸減してしまっている。

ハードウエアの改革をどれだけ行ったとしてもこの流れは止められない。 肝心要の中心点は「用途」の話であって、 ノーベル賞級の画期的技術革新でも起こらない限り 決して新規の「用途」無くして「技術」の話にはできないのである。 (発展期ならば単純に性能が上がるだけでも需要に結びつくのだが...)

当サイトはPCマニアだから性能が上がれば少々高くても買う。 しかし、一般ユーザーが相手の場合は価格とのバランスが大事だ。

発展期ならば、安物を買うと「安かろう悪かろう。」の典型例になって、 必要最小限の動作さえのろくなってかえって大損をする。 (今は全然売れなくなってしまったネットブックが典型例である。) だが、安物を買っても最低限の性能がカバーできるようになると、 ひたすら性能を求めるPCマニア層以外はコストパフォーマンスが判断基準となる。 だから、高性能が必要な需要を掘り起こすことがまず第一なのだ。

では、そのような需要があるのだろうか?

PCマニアとしては、これだ!というものを思いつけばここで書いてみたいのだけれど、 ソフト系マニアでは無いのでこの分野については弱いようで、正直な話考え続けても全然出てこないんだよね。

それよりは、当サイトが約10年前に予想を掲載していた、 タブレット+クラウドという流れの方が長期的には発展性が高いと思われるのだ。 これは、この方式の方がハードの価格を下げられ、 なおかつユーザーをアプリを通じて消費に結びつけやすいという点が重要な役割を持つ。 (う〜む、PCマニアにとっては認めたくはないことだけれど、当サイトは良い予想は的中しないが悪い予想は結構当てるんだよね...)

もちろん、PC用途ではシングルスレッド性能はまだその価値を失ってはいない。 だから、価格を抑えたままシングルスレッド性能を上げられれば、 その製品は完成期であってもバカ売れすることは間違いない。 ただ、ポラックの法則を打ち破るノーベル賞級の画期的技術革新が成し遂げられない限り、 それは実現不可能である。 つまり、PC界は飽和傾向に移項することは認めざるを得ないわけだ。

というわけで、2012年はPCハードウエア系から見た場合はPC系半導体自体が時代の本流から外れ始めていく「PC時代の終わりの始まり。」を迎える時代になる可能性が高いと考えている。半導体産業はクラウド向けのサーバー用CPUを開発する重要性が格段に高まることになる。(だから、PCマニアから酷評されようともAMDの判断は全然間違ってはいないのだ。)

ちなみに、PC産業が終わりの始まりを迎える場合、その後の本流産業とはというと... 過去には猫も杓子もバイオテクノロジ、バイオテクノロジと言われる時代があったが、 バイオが半導体産業に匹敵する産業規模になるには最低でもあと20年はかかるだろうし... 太陽電池産業や二次電池産業なんかはエコ時代の象徴として急拡大することは間違いないが、 さすがに半導体産業と同程度の市場規模までいくかどうかまではわからないし... 情報系のサービス産業が消去法での最有力候補ですかねぇ???

そうすると、やはりCPUはクラウド向けメインに設計していく事になるだろう。 要するにCPUの開発方針は絶対性能から電力パフォーマンスやコストパフォーマンスメインに切り替わっていく。 PC系半導体産業は発展期から完成期に移行し、CPUベンダーはPC用途からサーバー用途に重点を移していく。 PCマニアとしては認めたくないことではあるが、認めざるを得ない新年の視点である。