タブレット向け市場は「時間との戦い。」   

2011年6月5日



☆最後の酷評。   
まずはいつもの余談から。 原発の状況があまりにも酷いため前回は酷評系になってしまった。 だが、酷評系で内容のレベルの高い記事は自他共にほとんど存在しないという当サイトの経験則を考慮して、 今回の記事は提案系にしてみた。

ただ、原発問題で一言だけ追加の酷評を。 内閣官房参与の小佐古敏荘教授が福島県の小学校の基準値を20mSv/年に決めたことに対して、 抗議の意志を込めて辞表を突きつけた。 この件で、官僚が守秘義務を口実に教授の記者会見に中止の圧力をかけた事が発覚している。 現時点で重要なのは守秘ではなく情報公開。 このような隠蔽体質が日本の技術力を殺し、次回の事故を招く最大要因だと思う。

当サイトは放射線作業員の被曝限度から考えて20mSv/年でも実際に被害が出る可能性は極めて低いと思っている。 ただし、下記の4点から考えて基準値を変えるべきではないと思う。

低線量被曝の場合は問題発生までのタイムラグが大きく、今からでも対応は一定の効力を持つ。 癒着官僚の圧力に屈することなく基準値は是非に安全面を優先して判断して頂きたいと思う。

☆タブレット向け市場は「時間との戦い。」である。   
と言うわけで本題へ。 最近は資格試験の影響1)で秋葉原にはほとんど行けていないのであるが、 PC界のトレンド転換ははっきりしてきたようである。 方向性は二つあって、一つはマニアの話題がPC系からタブレットなどPC以外の分野へ移りつつあること。 (ただし、日本市場では話題の割には売れていないようだが...) もう一つはPCマニアのためのCPUがこの世から消え去りつつあることである。

まず、マニア向けCPUではこれはと言う製品が無くなりつつある。 PCマニアの話を聞くに別に当サイトが指摘しなくても最近の状況をちゃんとわかっているPCマニア間では常識のようなのだが、 要するにサーバー用CPUをマニア向けとして宣伝して転売する方針になっていて本当の意味でのマニア向け製品が消え去ってしまっているのだ。

ただし、これはマニア市場の一般市場に対する先行性が失われつつあり、 また、市場規模も一般用PC市場やサーバー用市場よりも小さいことを考えればCPU業界を責める訳にはいかないと思う。 メーカーとしてはお客様が多い市場に力を入れるのは当たり前のこと。 マニア市場はあくまで一部のマニア市場の範疇に留まっており、 それでもいままで力が入れられて来たのはマニア市場が一般市場の先行指標たり得たから。 なので、マニア市場がガラパゴス化する現状では、事ここに至っては力が入れられなくなってもやむを得ない。

要するに、「PCマニア市場を制するものは一般市場を制する。」という経験則はもはや過去のもので、 マニア市場向けCPUという製品群は「努力の割に報われない製品群。」になってしまったのだ。

一方で、タブレット向けCPUに対しては最近大きな方向転換が発表されている。 つまり、Atomの開発・普及に本腰を入れる方針転換が発表されたのだ。

当サイト自身はこの判断は極めて正しい戦略転換だと思っていることは、 当サイトの過去の記事を読み起こせばおわかりいただけると思う。

今までのAtomは、正直な話intelの売り上げにほとんど貢献して来なかった。 ネットブックで一時的に成功したものの、それはCLUVノートの低価格化を招いたあげくに 今日ではネットブック市場そのものが消滅しかかってしまっている。 かといって肝心のタブレット市場ではARM側に完敗の状態である。 現状のままならば、既存市場の低価格化を招いただけでプラス効果よりもマイナス効果の方が大きい可能性すらある。

もし当サイトが経営者だったらこの状況をどう判断するのだろう?

戦略としては2つあると思う。 一つは防御、もう一つは攻撃。 防御とは撤退である。タブレット市場をあきらめる代わりにPC市場を完全に守りきる方針。 撤退というと一見負けを認める方針のように思われるかもしれない。 しかし、これも戦略としてはあり得ると当サイトでは考えている。

タブレット用CPUの問題点はPC用よりも利益率が低くなる事。 つまり、儲かりにくい事。 だとすれば、タブレット市場から撤退する代わりにPC用途という高利益市場を死守する方向性だ。

もちろんこの戦略の最大の課題はARM側に牙城を築かせてしまうこと。 利益率の高い市場を維持するとは言っても、それはその市場を奪われない事が大前提。

だから、この方針の場合はタブレット市場は低価格化による過当競争状態に持ち込むように工夫する。 そうすれば、タブレット用CPUを作っているベンダーはPC市場に食い込もうとするだけの経営的余力を失う。 要求性能が高くなればなるほど開発費も高額になるわけだから、高性能が要求されるPC市場への参入は障壁が大きい。 しかも、PC市場はタブレット市場よりも高性能CPUが必要なだけではなく、これをマルチコア化で達成する事は不可能である。 だから、本業の世界で利益が出ない過当競争状態に持ち込めば、 これらのベンダーがPC業界に打って出る余力を失わせる事ができるわけだね。

だが、この方向性はもしタブレット市場がPC市場に匹敵する大規模市場になると仮定すると、 逆パターンに動いてしまう危険性もある。 つまり、判断の優劣は市場規模の拡大性次第なのだ。 (日本市場のように話題だけで売り上げに寄与しない架空市場化するのか、 アメリカ市場のようにネットブック市場を奪っていく脅威となるのか?)

とすると、タブレットなどに本腰を入れる攻めの戦略はやむを得ない。 こちらはこちらで別の大きな危険性もあるが、一定のリスクは受け入れるしかない。

攻めの戦略最大の問題点は時間との戦いであること。 つまり、ライバル製品の常勝サイクルが回りきる前に手を打たねば万に一つの勝機も無い。 当サイトは、Atom開発の方針転換を前向きに評価しているが、 唯一の懸念事項はこの決断に至るタイムラグが大きすぎたという一点だ。

もし、今回の決断があと1年遅かったらどうだろう?  当サイトは、intelのあらゆる優位点を駆使しても一切勝ち目はなかったと予想する。 逆に、もし1年前の段階で決断できていたらどうだろう?  当サイトは形勢挽回のチャンスは十分にあったと予想する。

つまり現状の判断点はタイミング的にギリギリのものであり、 負けがかなり高い確率で考えられる上に、勝つとしても大苦戦を強いられる事は必定と予想している。

当サイトが今後起こりえる状況を説明するのには、 パソコン黎明期におけるintelの優位性が今回は逆パターンに動くことを説明すればわかりやすいと思う。

パソコンがまだマイコンと呼ばれていた頃、つまりintel製CPUが8080や8085だった頃、 ライバル製品群としてはモトローラの6800や6809、ザイログのZ80などが存在した。 その際に当時のマニアに評判が一番良かったのは6809であった。 性能面での優位性がはっきりしていたからである。 (ちなみに、当サイトは当時シャープ製のZ80互換品CPUで自作した。)

だが、ビジネスとしてはintelの圧勝に終わった。 その最大の理由は既にプログラムのシェアがintel側の圧勝で、 勝っている事が勝ちを呼び込む常勝サイクルが回り始めていたからである。

とすれば、現状のタブレット市場はどうだろう? 現状はARM側の圧勝。 つまりこれは、ちょっとやそっとの技術的優位性では回り始めた常勝サイクルを切り崩せない事を示しているのではないだろうか? という懸念を持っているのだ。(だからこそ、当サイトは決断スピードの問題、つまり時間との戦いであると主張しているわけだね。)

今後の戦いで起こることを予想しておこう。 おそらく、CPU性能面ではAtomの勝ち。価格面ではARMの勝ち。 ただし、タブレット向けの場合はCPU性能だけではなくGPU混載が大前提だから、 元々GPUメーカーであったNVIDIA等に対しては総合的な差異は小さくなる。 開発に本腰を入れた事で得られるメリットがどこまで生かされるか...

また、元々ARM側の方が低性能だったことから、開発スピードではARM側が優勢。 ただし、追いつくことは容易だが追い抜くことは極めて困難というのは当サイトの以前からの主張である。

このため、性能面では優位に立っても、その差が常勝サイクルを切り崩せるレベルになる難易度はかなり高くなってしまっている。 残念ながら今後もかなりの苦戦を強いられる可能性が高い。 ただし、ARM側の常勝サイクルはまだ完全には回っていないだろうから、 いったん切り崩しに成功すればその場合は一気に情勢が様変わりする。 要するに言い方は悪いがある種のバクチ状態。

あぁ、それにしてもこの話題は今回で最後にしようかな? なぜって、これを書いていても当サイトの趣味である技術ネタが全然出てこない。 ビジネスモデルやトップの決断力というのは経営と言う意味では確かに最重要課題ではあるけれど、 当サイトの趣味の方向性ではないものね。 と言うわけで、次回ネタはHaswell予想ネタか、スパコンネタか...

経営者の決断力の重要性を否定する気はさらさら無いが、 技術力が勝負所の世界の話を予想してみたい今日この頃である。



1)
資格試験前半戦の合格発表が先月末にあった。 記憶力皆無の当サイトは法規関係で苦戦に苦戦を重ねたのだが、なんとかかろうじて合格。 (この試験は専門分野が難関と言われており、法規で苦戦する無能人は当サイト位のものである。) ただ、相変わらず化学の専門家としての面目は立っていない。 苦手科目の法規に集中していたという事情があるにせよ、自分の専門分野の正答率が面目丸つぶれの66%(33/50問)。 まぁ、会社には正答率まで報告する必要は無いから、合格だけ伝えて社内での面目は保ったけれど...

前回の公害防止管理者よりは難関試験とは言っても、これでは化学分野のプロとは言えないね。 うれしさ半分、情けなさ半分の複雑気分な合格発表であった。 (後半戦こそ化学分野で正答率80%以上を達成せねば...)

嬉しさ半分、情けなさ半分の複雑気分な合格。
一応合格とは言え自分の専門分野の正答率がたったの66%(33/50問)であった。トホホ。