クラウドの時代になぜスパコンだけが...   

2010年8月29日



☆最近のPC雑誌購入事情。   
まずはいつもの余談から...と書きたかったのだけど、仕事が忙しくて余談のネタすら無い状況。 週末の癒しはついに一番近場の温泉で一息のみとなった。

というわけで、温泉の帰りに本屋に行ってPC雑誌を買うことに。 青天井だと貯金ができないので毎月1冊と決めているので、立ち読みして今月は日経WinPCに決定。

最近はWinPCにする事が多いのだけど、決め手は「技術を創る。」という連載記事だ。 この記事は、末席とはいえ技術者としてメシを食っている当サイトにとって、 異分野とはいえ優秀な技術の背景を見る良い機会なのだ。

えっ、「それなら、専門書や論文を読んだ方が有益だよ。」ですって?  いやいや、勉強のためだけならその通りなんだけど、 当サイトにとって重要なのは技術者の意欲とか技術に対する思い入れに触れることができること。 実験すれどもすれども成果が出ず戦意喪失寸前の当サイトにとって、 掲載されている技術者の奮闘ぶりは戦闘意欲を取り戻す良い刺激剤なのである。

というわけで、今月のNikonの半導体露光装置の話もなかなかだけど、 当サイトは材料開発が仕事なので先月のSUMCOのシリコンウエハーの話がさらに素晴らしいと感じた。 工場は九州の伊万里にあるそうで、伊万里というと陶磁器の古伊万里で有名だけど、こんなハイテク産業もあったとは。 ハイテク産業には下地となる伝統産業の存在が重要というのは以前セラミック等の話で当サイトも書いたことがあるけれど、 それを地でいく話だね。(ただし、記事によると伊万里に決まったのは地震が少ないからだそうだけど。)

九州と言えば龍馬ブームで長崎観光が流行らしいが、 この話を読んで当サイトは長崎よりもむしろ伊万里に行ってみたいな〜と思ったよ。

☆巨大スパコンは現代の戦艦大和という意見もあるが...   
というわけで、仕事が忙しいので今回は手短な意見話。 結論から言うと、スパコンの巨大戦艦化こそ重要であるという意見表明だ。

さて、政府の事業仕分けで一番話題になったスパコンの話。 「2位ではダメなんですか?」という言葉はそこかしこで使い回され失言の代表例となったが、 世の中には巨大スパコンは現代の戦艦大和であるという意見がある。 中規模のスパコンを多数作った方がよいという意見もある。 巨大であることはムダであり、軽薄短小、安く作った方が良いという意見である。

確かに大きなスパコンシステムを作るには多額の税金が必要である。 スパコン以外の研究分野にその税金を投入した方が良いという意見には、 再考すべき部分もあるとは思う。

だが、同じスパコン分野にお金を投入するならば、 中小規模のシステムに総計として同額の税金を投入するのが果たして正しいのだろうか?  当サイトはこの意見に非常に強い疑問を感じている。

理由は単純明快。 大規模システムは多数の小規模システムの代打ができるが、多数の小規模システムには大規模システムの代打は務まらないからだ。

ここで、現代のスパコン事情を考えてみよう。 現代のスパコンは、アーキテクチャに各種あれど高い並列度のマルチプロセッサシステムである事には違いはない。 単一プロセッサの高性能システムは、もう20年近く前に終わっている。

この際に、プロセッサ間を接続するインターコネクトの構成には各種あるけれど、 そのレイテンシは接続距離と光速から決まる限界点があることは誰でも簡単にわかる。 どんな情報も光速を越えては伝送できないからだ。 つまり、遠距離にある複数のシステムをつなげても、設置距離からくるレイテンシは原理上絶対に超えられないのである。

では、小規模なシステムをつなげて大規模なシステムの代打をさせるにはどうするか?  物理的な距離を短縮する他に手はない。 それを限界まで進めたらどうなるか?

そう、現代の戦艦大和こそが理想像なのである。

☆猫も杓子もクラウド、クラウド。   
ここで、ちょっと話題を変えてクラウドの話をしてみよう。

今、ITビジネス界での最大の流行語はクラウドである。 そちら方面の記事を読むとクラウドの話ばかり。 IT情報誌だけではなく経済誌でもクラウドが連呼され、 まさに猫も杓子もクラウド、クラウドなのだ。

しかし、今から6〜7年前、クラウドという言葉がまだ無かった頃はどうだろう。 じつは、グリッドという言葉が流行っていて、猫も杓子もグリッド、グリッドと言われていたのである。

当サイトは当時グリッドコンピューティングに対しては非常に懐疑的な立場であり、 過去に「グリッドコンピューティングは緩慢な死を迎える。」と、 グリッドの衰退とクラウドの出現を 予測したコラム1)を書いたこともある位である。

そこで...これをスパコンに当てはめてみようではないか。 クラウド? それはまさに現代の巨大戦艦「大和」そのものである。 しかし、現代のデータセンターはクラウドの流行により巨大化する一方であるが、 これを現代の戦艦大和と批判する人はまったくいない。

もっとも、クラウドの定義は非常に不明瞭である。 それはクラウドという言葉が技術的背景からではなく、 商売としての宣伝から生まれてきた言葉だからである。 つまり、技術的にはこれと言った明確な技術革新が必須項目として含まれているわけではない。

しかし、クラウドがグリッドと同じと考える人はいない。 クラウドとグリッドの違いは何かと言われたら各種あるだろうけれど、 物理的に集中して設置されているのか、地域的にバラバラなのかは指標の一つになると思う。

クラウドは地震などからのリスクマネジメントとしてデータセンターを複数に分ける事はあり得るけれど、 グリッドのように本質的に設置箇所がバラバラという状態はあり得ない。 メンテナンス費用や(演算量ベースでの原単位としての)設備投資額などが高額になるからだ。 まとめて設置することで設置コストと管理・運用コストを下げる。 これがクラウドの重要項目の一つである。

ところで、この時代の最先端であるクラウドコンピューティング化とスパコンの巨大戦艦化批判を比較して、 意見が真逆であることになぜ世間は違和感を感じないのだろうか?

☆クラウドが時代の流れならば、スパコンこそまさに巨大戦艦化すべきである。   
さて、これで巨大スパコンはデータ端末だけを研究室に設置すれば、 中小規模のシステムの代打になる得ることがおわかりいただけただろうか?  問題はセキュリティーと運用の管理体制(データセンター側に優先権を与えると個別端末のように自由に使えなくなる。)位のものである。

もちろん、巨大スパコンを中規模システムの代打として使用すればノード間のインターコネクトが異なるプログラム間で一部不要となり、 ムダが生じることになる。 だが、このムダはバラバラに設置された中規模システムを統合して大規模アプリを動かす場合のムダに比べれば格段にリスクが少ない。 グリッド型の運用では、アプリの粒度によっては指数関数的に効率が低下する場合があるからだ。 (クラウド型の分割運用はネットワークの稼働効率は下がるが性能は下がらない。 逆にグリッド型の運用は効率が極端に下がるアプリが多いだけではなく、そもそも原理的に性能が出ないアプリも多い。)

中規模システムの多数投入のメリットは所有者の自由な使い勝手位のものであるが、 これは技術の問題ではなく運用と管理体制の問題である。 お役所仕事的な管理運営体制さえうまく作り替えれば、クラウドコンピューティングでできる運用がスパコンでだけ不可能という事はないだろう。

というわけで、運用さえうまく行うことができれば、巨大スパコンは多数の中規模スパコンに勝る存在なのである。その意味で、 当サイトはスパコンこそまさに巨大戦艦化すべきであると、ここに宣告するものである。



1)
このコラムにはクラウドという言葉が一言も出てこない。 しかし、内容はクラウドの出現予測そのものである。 これは、当サイトがコラムを書いた2002年には、世の中にクラウドという言葉がまだ無かったからだ。