経済史に学ぶべきではないだろうか?   

2010年7月31日



☆「おぬしもワルよの〜。」の裏銘菓   
まずは、いつもの余談から。

最近は「どこが不景気やねん。」と言いたくなるような仕事量。 当サイトの業界は自分が勤める会社に限らず同業他社も含めてフル操業が続いている。 研究開発業務とは言っても、こうなると仕事の半分は体育会系。 (まぁ、大学時代は居合道部所属で実際体育会系出身者だし。) というわけで、週末はというと、さすがに疲れて寝ていたりする。 Webサイトの更新も遅れ気味。愛読者の皆様には申し訳ないです。

で...世間は夏休み突入だし、週末に寝てばかりいては時間がもったいないと久しぶりに遊びに行くことにした。

夏の息抜きというと皆様は山派だろうか、海派だろうか?  当サイトは基本的には山派。ただし、高所恐怖症なのでメインは森林浴で、高い山への登山は一切しない。 終着点が温泉なんかだとベストだね。

ここ静岡県の山系温泉というと寸又峡温泉が有名なので、最初は寸又峡温泉に行くつもりだったのである。 だが、ネットで寸又峡温泉を検索してみると飛龍橋とかの写真があって、画像を見た瞬間に戦意喪失。 景色的には圧巻の美景なのだが...ハイパー高所恐怖症の当サイトには車の運転中に気を失いそうな道路状況なのだ。

というわけで、海系にプラン変更。 ここ静岡県は伊豆半島以外にも静波海岸とか有名なビーチ系避暑地があるし、 御前崎灯台とか羽衣伝説で有名な三保松原とかも観光目的には良いターゲット。 海系でも行き場に困ることはない地域なのだ。 (ただし、ビーチ系はサーファーのメッカなので、夏シーズン中には渋滞に注意が必要だけれど。)

で...まず訪れたのは御前崎灯台。 これ位ならば高所恐怖症の当サイトでもギリギリOKサインだし、なんと言っても海の景色も癒しになる。 あと、御前崎のすぐ近くには浜岡原発があるので、原子力館を少々見学。

夏と言えば海。というわけで御前崎灯台へ。
右は近くにある浜岡原発の新エネルギーホール(中央)と原子力館の実物大原子炉模型。

まぁ、仕事が忙しいので土曜日だけど出発は何のかんので午後に。 見学後には(今回は癒しのための一人旅なので)仲間へのお土産を買うことにした。

で、じつは御前崎付近のお土産には表の銘菓と裏の銘菓があるのだ。 表の正統派銘菓は「亀まんじゅう」。そして、裏の銘菓が「ワイロ最中」。 どちらにするか結構悩んだのだけど、今回は友人宛なので瞬間芸的お笑いネタを込めて 裏銘菓「ワイロ最中」に決定した。

このワイロ最中、本店は御前崎のお隣の相良にある。 そして、ここ相良はワイロで有名な江戸幕府老中・田沼意次の出身地。 なので、ワイロにちなんで「ワイロ最中」なのだ。

裏の相良銘菓「ワイロ最中」
瞬間芸的に笑えるお菓子ですが、田沼意次がじつは名君だったとは...意外に奥深いお菓子でもあるね。
ちなみに粒あんとお茶あんがあります。お茶あんは静岡ネタ商品っぽく見えますが、真っ当に旨い。

このお菓子、裏の銘菓とはいっても、狙い目がかなりよくできている。 まず、\1000出してお菓子を買うと、箱には何やら下心のある悪徳商人っぽい絵があって、 「貴方様のお好きな黄金色のお菓子でゴザイマス。」の台詞が...

で、ふたを開けると最中のはずなのに何故かまんじゅうが... いや、よく見るとまんじゅうの写真であって、まんじゅう自体は入っていない。 写真には「付け届けは饅頭にかぎるのう。」の台詞。

そこで、まんじゅうの写真を剥がすと、その裏に「貴方様のお好きな黄金色のお菓子」である 小判型の最中が入っているわけなのだ。 時代劇の定番、悪徳商人が悪代官に贈る小判入りのまんじゅう。 「ほっほっほ。越後屋、おぬしもワルよの〜。」のアレだね。

で、元々が仕事疲れの癒しが目的だけに、こんなお菓子を見ていると当サイトも考えてしまうね。 当サイトの仕事は材料開発。(かっこつけて言うならばマテリアル・デザイン職。) 悪代官ならぬ悪特性の悪材料に黄金色のお菓子を送ったら、悪材料様が「たるさん、おぬしもワルよの〜。」 とか言って特性パラメータの数値をピクッと高めてくれたなら、 こんなに苦戦しなくても研究開発なんて簡単に進捗するだろうにってね。

仕事の話はここには書けないので一般論だけれど、 当サイトが研究開発をやっていて一番自慢できることはなんだろう。 それは、研究開発では「実力以外一切通用しない世界である。」ということ。

上司にこびを売っても特性パラメータはピクリとも動かないし、 黄金色のお菓子を材料に送って「貴方様のお好きな黄金色のお菓子でゴザイマス。」と言っても、 材料が「たるさん、おぬしもワルよの〜。」とか言って特性数値を高めてくれるなんて事はもちろん一切無い。 特性値を高めることができるのは、開発者の技術力以外に一切無いのだ。

で...当サイトが研究開発をやっていて一番困ることはなんだろう。 それは、研究開発では「実力以外一切通用しない世界である。」ということ。

そんなわけで、口先の旨い当サイトもこの職種では全然うだつの上がらない立場。 それはもう、当サイトの頭のできを考えれば当然と言えば当然なんだけど... こんなんじゃリストラも間近いかな?なんてドキドキの人生なのだ。

当サイトがもし出世を目的に職種を選ぶとしたら実力以外一切通用しない研究開発職なんて 頼まれてもやらないだろうね。それよりも、口先のうまさが生きる職種である上司との仲介系や 間接業務を選ぶ。間接部門的な仕事になればなるほど業務の進捗状況が客観指標で表しにくくなるので、 進捗状況の善し悪しを口先で誤魔化しやすくなるからだ。

で...そんな事を考えながら思ったのだけれど、 これって多くの日本企業が抱える問題点を象徴しているのではないのかね?

☆なぜ、日本企業は韓国企業にボロ負けなのか?   
最近は経済誌などを新幹線の中でよく読んだりするのだけれど、 最近の主流記事は日本企業が韓国企業にボロ負けの状況である事に対する特集記事だ。 日本企業はなぜダメ企業なのか、韓国企業はなぜ素晴らしいのか、そんな事をネタにした記事が多い。 (Apple系製品群のバカ売れもあって、最近はアメリカ企業にボロ負けの記事も増えてきたが...)

たしかに、半導体産業や家電産業などでは日本企業は韓国企業にボロ負けである。 サムスン1社の収益だけで日本の同業全企業の収益を足し合わせたよりも多い利益を出している。 この分野を見れば日本企業がボロ負けなのは事実である。

当サイトはPCマニアサイトなので、エレクトロニクス系企業を代表例にしてこの問題を考えてみた。 (経済誌と当サイトの考えはテーマによって意見が合ったり合わなかったりなのだが、 意見が同じ部分に焦点を当てても意味がないので、見解が合わない部分に絞ってみよう。)

まずは、韓国企業と日本企業の今後について。 当サイトの意見は経済誌とはかなり異なっている。 当サイトの見解を箇条書きにすると下記の通り。

  1. 日本企業がボロ負けの分野では、意外にもこれからは負けるペースが低速化していく。
  2. 特に韓国企業が得意としている分野こそ挽回の可能性がある。
  3. 韓国企業が韓国オリジナル製品を出してくるのも時間の問題だが、その頃には韓国企業の成長性は急速に劣化していく。
  4. 日本企業に大勝利した分野ほど、新興国に負けやすい。
さて、そう考える理由は何か? それは、韓国の躍進理由が過去の日本の躍進理由と同じだからだ。 わかりやすく説明するには、上記の箇条書きを日本→アメリカ、韓国→日本と置き換えればわかる。

  1. アメリカ企業がボロ負けの分野では、意外にもこれからは負けるペースが低速化していく。
  2. 特に日本企業が得意としている分野こそ挽回の可能性がある。
  3. 日本企業が日本オリジナル製品を出してくるのも時間の問題だが、その頃には日本企業の成長性は急速に劣化していく。
  4. アメリカ企業に大勝利した分野ほど、新興国に負けやすい。
どうだろうか? DRAMなどは一時期(1980年台後半〜1990年台前半)アメリカは日本企業にボロ負けだった。 DRAMは当時は日本のお家芸といわれていた分野だった。しかし、今生き残っているのは双方1社だ。 DRAM分野での現状はアメリカは日本に勝ってはいないが負けてもいない。 また、DRAMはバブル全盛期にアメリカ企業に大勝したが、その後新興国である韓国にボロ負けした。

また、DRAMは発明も初期の成長もアメリカである。 一方、液晶パネルはどうだろう?  液晶の原理を発明したのはアメリカだが、実用化したのは日本だ。 つまり、実用化という意味では日本オリジナルである。 そして、DRAMと液晶パネルでは日本企業の凋落傾向にタイムラグがある。 どちらもシェア低下傾向だが、日本が頂点に立った時期が早い製品ほど凋落の時期も早いように思える。

ちなみに、経済誌の多くは日韓の経済関係をこう予想している。

  1. 日本企業がボロ負けの分野では、今後もボロ負け。
  2. 特に韓国企業が得意としている分野は、もう手も足も出ない状態。
  3. 韓国企業が韓国オリジナル製品を出してくるのも時間の問題だが、それにより日本企業の数少ない優位分野はさらに失われる。
  4. 日本企業に大勝利した分野は、世界的にも韓国のお家芸。
この読みの違いは何かというと、当サイトの考え方が国が変わっても経済の歴史的推移は大まかには変わらないと考えているのに対し、 経済誌は仕事柄経済情報が多く入手できるので現状の延長線に将来を結びつける傾向が強い事による。 簡単に言えば、当サイトはメカニズムの延長線上に読みを入れており、経済誌は現状の経済指標の延長線上に読みを入れている。 (だから、経済誌は安定的な経済変化は緻密に予測できるが、リーマンショックのような急変は全く予測できていない。)

☆基本的にはどの時代でも後進国は常に物真似をして成長する。   
当サイトオリジナルな考え方は、韓国の優位性は1980年台の日本の優位性と同じであるということだ。 経済誌は韓国メーカーが日本企業に対して優位なのは韓国独自の企業体質にあるとしているが、 当サイトはその意見にはまったく同意できない。 当サイトの意見は、韓国が歴史的に見て20年前の日本に相当する発展期に入っているからであるという理由が最大というもの。

韓流経営優れているからという考え方がいかに説得力に欠けるかは、 1980年台の「これからは日本型経営が世界を席巻する。」という考え方に対して日本を韓国に置き換えてみれば簡単にわかる。

バブル最盛期、日本の成長性は世界を席巻した。 「もうアメリカから学ぶものはない。」などと言われて、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持ち上げられもした。 しかし、今このような考え方を主張する経済誌はこの世に一切存在しない。

ではここで上記の主張の「日本」を「韓国」に、「アメリカ」を「日本」に入れ替えてみよう。

「これからは韓国型経営が世界を席巻する。」
「もう日本から学ぶものはない。」
「コリア・アズ・ナンバーワン」

どうですか? まるで最新版の経済誌を読んでいるようなフレーズに見えるでしょ!!!

つまり、韓国企業を褒め称える現状の経済誌記事は、10〜20年後には完全に陳腐化し 単なる笑い話にしかならないという事がはっきりしているわけだ。

実のところ韓国が大躍進している最大の理由は日本より歴史的な発展時期が20年遅れていたからであると思う。 そう書くと、みみっちい自国優位思想のように見えるだろうけれど、この考えは韓国に対するやっかみとは違う。 なぜならば、先進国の物真似をしながら成長したのは過去の日本自身がそうだし、 もっと言うならバブル期に日本を物真似国と非難してきたアメリカも最盛期直前には自分自身が物真似国だったのだ。 (最盛期のアメリカを支えた自動車産業を考えてみればわかる。自動車産業はビッグスリーなどと称えられてきたが、 自動車を発明したのはアメリカ人ではない。ドイツ人である。 他にも化学産業などもそうで、戦争を口実にドイツ特許の無効化を行ったりもしてきた。アメリカはドイツをものまねて成長してきた経緯がある。 もっというと、そのドイツも産業革命後のイギリスをものまねて成長してきたわけだ。)

違いはというと、それは物真似の方法位のものだ。 日本はアメリカの技術をリバースエンジニアリングで物真似てきたわけだが、 韓国の物真似方法は日本人エンジニアの引き抜きである。1)

ちょっと昔、一部経済誌が「韓国企業による日本人技術者引き抜きは今ではあまり行われなくなった。」という誤報を書いたことがあった。 これは、おそらくその記者たちが半導体や液晶パネル関連だけを取材してきたから判断を誤ったのだと思う。 実際には、時々刻々今でも引き抜きは行われている。直近での話題は日本のハイテクセラミック系超優良企業M社から 生産技術部門を部署ごと根こそぎ引き抜いたことはつとに有名だ。

ちなみに、韓国企業が日本企業からどの分野の技術者を引き抜いているかを観察すれば、 韓国メーカーが今後の成長分野がどの分野であると考えているかを簡単に見抜くことができる。 その点から当サイトの考える今後の成長分野は、素材・二次電池・電子部品の3部門だ。 ちなみに、韓国のお家芸はDRAM、液晶パネル、携帯電話端末だが、 もうこの分野での日本人技術者引き抜きはあまり行われていないようだから、 韓国企業自身はこの分野を今後の成長分野だとは考えていない事も容易に見抜くことができる。

というわけで、物真似というのは企業の成長にとても優位な方法なのである。 だから、自身が最先端の技術レベルに達してしまうと、もう物真似ができないので成長力がガクッと落ちてしまう。 これは、「もうアメリカから学ぶものは無い。」と日本人経営者が言い出した瞬間から、 日本の凋落が始まったことに象徴されていると思う。

☆経済誌に学ぶのではなく、経済史に学ぶべきである。   
では、なぜ韓国企業は日本企業を追い抜くことができたのであろうか?  上記の物真似理論では追いつくことはできても追い抜くことはできないハズである。 同様なことは1980年台の日米関係にも言える。日本はなぜアメリカを追い抜くことができたのか?

その理由は、韓国企業が日本から何を物真似たかを見れば簡単にわかる。 韓国企業が引き抜いているのは日本人技術者のみである。 特に研究開発者と熟練工がメインである。

一方、韓国企業が日本企業から絶対に引き抜かない人材分野があることをご存じだろうか?  それは、経営者、企画部門、営業の3分野である。 つまり、バブル時代に日本企業が勝ちまくっていたのは、日本の人材の全てが優秀だったわけではなく、 研究開発者と熟練工におんぶにだっこ状態だったわけだ。

韓国経営者が優秀なのは、当時日本が勝ちまくっていたのにもかかわらず、 日本企業の全てが優秀なのではなく、一部の優位性に便乗している分野があることに気づいたことだろうと思う。 某韓国の研究所は日本人技術者で溢れているが、経営、企画、営業分野で日本から引き抜かれた人材はほとんどいないそうだ。

同様に、1980年台の日本は技術をアメリカから物真似したが、 トヨタのカンバン方式に象徴されるように品質管理はアメリカから真似なかった。 また、技術を真似ても真似た技術に一部プラスアルファの改良を加えて売り出したりもした。 要するに、真似なくても良い部分を一部だけも見いだして、そこを有効活用したわけだ。

とすると、経済誌の主流である「韓国から学べ論」では韓国に追いつくことはできても追い抜くことはできないことがわかる。 追い抜こうと思ったら、韓国企業が優位な部分におんぶにだっこ状態の部門を韓国企業内部から探し出して、 その分野で勝てる経営形態を築かなければならないからだ。

正直な話、歴史に逆らうのは難しい。だから、日本が韓国企業に勢いで勝つのも難しいのは事実である。 だが、その韓国も造船・製鉄といった分野では、すでに中国、インドといった新興国に負け始めている事を忘れてはならない。 韓国が日本を追い抜いた造船は、おそらく今年か来年に中国に抜かれる。 また、製鉄はもはや世界の頂点からガックリと凋落してしまっている。 しかし、韓流優位論を主張するため、これらの事実は経済誌ではほとんど報道されない。

今、韓国メディアでは製鉄でシェアが失われている状況を見て「収益力では勝っている。」と主張しているが、 これはかつてシェアで韓国企業に負け始めた日本の半導体産業が「品質では負けてない。」と主張しているのと同じ状況なのである。 韓流経営が優れているのならば、造船業でも製鉄業でも韓国企業が圧勝でなければおかしい。 つまり、これは韓国をもってしても歴史に逆らうのは容易ではない証拠である。

その意味で「韓流に学べ。」と主張する経済誌から学ぶべきものはあまり無いと思う。 我々は、経済誌から学ぶのではなく経済史から学ぶべきなのだと当サイトは考えている。



1)
この引き抜き方法には優劣があって、リバースエンジニアリングよりもライバル企業の技術者引き抜きの方が経営戦的には優れている。 なぜならば、リバースエンジニアリングは自社のレベルは高められるが、ライバル企業のレベルはそのままだ。 一方、引き抜きは自社のレベルを上げるとともにライバル企業の技術力をガクッと落とすことができるからだ。 日本型物真似は自社にプラスでもライバル企業はプラマイ・ゼロ。一方、技術者の引き抜きは自社にとってプラスだけではなく、 ライバル企業に大きなマイナスをもたらすことができるという点で優れている。