SSDは忘れた頃にやってくる。(2010年は死んだふり。)   

2010年3月29日



☆和尚、眠る可(べ)し。   
最近は余談を楽しみにしている方も多いようなので、今回もまずは余談から。

某国家資格試験も終わって休憩の取れる週末になった。 (幸いにしてなんとか合格。) と言うわけで、久々に静岡生活を楽しむ。 行き先は袋井市にある可睡齋。遠州屈指の古刹である。

遠州屈指の名刹、可睡齋。
お寺の名前は徳川家康公の御前で居眠りしてしまった和尚様にちなんでいる。

このお寺は遠州屈指の名刹なんだけれど、お寺の名前の由来がおもしろい。

その由来とは... 戦国時代末期、第十一代仙麟等膳和尚がまだ子供だった徳川家康を戦の際に寺に隠して助けたことがあるそうだ。 家康はその恩を忘れず、三河・遠州を治める大大名になった後に和尚を浜松城に招いて感謝の意を示した。

ところが、その宴の席でなんと和尚様はコックリコックリと家康公の前で居眠りをしてしまったのである。

同席した配下の武将は「殿の御前で居眠りするとは何と無礼な!」と怒ったのだろうが、 家康は「和尚は自分を愛児のように思っているから安心して眠るのだ。私はその親愛の情が嬉しい。」 と言って「和尚、眠る可(べ)し。」(御前で眠っても無礼ではないという意味。)と許可を与えた。

それ以来、仙麟等膳和尚は可睡和尚と呼ばれ、 お寺も本来の寺名である東陽軒から可睡齋と名前を変えたのだとか。 伝承であって史実かどうかは不明だけど、当サイトはこういう逸話が大好き。 もちろん可睡齋は家康の庇護を受けて三河・遠州・駿河・伊豆の曹洞宗寺院を統括する権限を与えられ、 遠州屈指の名刹として栄えたという。

この可睡齋、後に秋葉山秋葉寺が廃寺になった際に本尊の三尺坊大権現を遷座し、 火災予防の御利益が得られる天狗のお寺としても知られている。

☆2009年はSSDが一般ユーザーから忘れ去られた1年であった。   
と言うわけで本題だが、今回は「1年後に検証記事を書くことをお約束しておきたい。」と書いた通り SSDは意外に伸び悩むのでは?の検証記事を書いてみた。 一昨年大ブレークしたSSDだが、あれからどういう経過をたどったのであろうか? 

SSDは1年前にはPC雑誌やほぼすべてのPCマニアから大絶賛され、 2009年は加速度的に普及すると言われたアイテムである。 当時、当サイトがSSDが伸び悩むと予測したコラムを書くのには本当に勇気が必要だった。 と言うのも、この状態でもの申せば集中砲火を浴びるのは必須と思ったからである。1)

ところが、現状はどうであろうか?

まず、家電量販店に行ってSSDモデルPCを探してみて欲しい。 売っているだろうか? いや、全然売っていない。 特に当サイトの住む静岡県では店舗規模が首都圏よりも小さめのため、1機種も探し出せないことすらある。 ではSSDはどこで売っているか? それはPCパーツショップである。 SSDはPCマニア以外には売れず、オーディオマニアにおける真空管アンプのような存在になってしまっているのである。

要するにSSDは性能のためには金に糸目を付けないPCマニア市場だけで売れており、 一般PC市場では全然売れていない状態。ついに秋葉原の壁を突破出来なかったのである。

一番重要な点は、PCマニアは性能のためならば金に糸目を付けないという点であり、 その結果、価格の影響を過小評価してしまう傾向が大きい。 実際、当サイトもSSDの高速性自体は認めるものであるし、高く評価している。 だが、マニア市場と一般市場では評価基準が違うので、高性能は低価格のピンチヒッターにはなれない。

考えてもみて欲しい。2009年はSSD停滞の1年であったが、性能面では大きな進捗のあった年でもあった。 何より、最大の懸念事項であるプチフリ発生が大幅に改善されている。 今時プチフリが懸念される古いコントローラの搭載されたSSDをわざわざ買おうというPCマニアは一人も居ないだろう。 また、アクセス性能も日進月歩で大きくなっている。 価格が高めでも転送速度の大きいSSDがPCマニアの人気商品になっているのは誰でも知っていることである。

また、Windows7の登場もSSDの販売に弾みを付けるハズだった。 Windows7最大のウリの一つはSSDに対応している事である。 勝手にデフラグが行われて寿命が縮まる心配もない。

だが...それらの改善は一般PC市場での売れ行きに何の影響も与えなかった。 当サイトはSSDの普及を決めるのは性能ではなく価格と考えていたが、 「いくら高性能でも一般市場では高価格では売れない。」という当サイトの予想通りの結果となった。 PCマニアと一般ユーザーの感覚の乖離は市場動向を読む上で重要ポイントであり、 SSDの普及が進むか進まないかはHDDとの価格の相対ポジション次第なのである。

☆2009年はHDDが容量単価で巻き返した反撃の1年だった。   
さて、ではなぜSSDは意外に伸び悩んだのであろうか?

当サイトの意見は「2009年はHDD側が反撃に出る巻き返しの1年でありNAND型フラッシュ側は守勢に回らざるを得なくなる。」という見解であった。 この傾向は最重要項目である容量単価の経緯に見ることが出来る。

SSDとHDDの価格の相対ポジションを見るために容量単価比の大雑把な時間経緯をグラフ化してみた。 要するにSSDの容量単価がHDDの何倍高価なのかのトレンドラインである。 (容量単価下落ペースの比較なので縦軸片対数グラフです。片対数だとグラフの傾きがペースとなるので。)

SSDとHDDの容量単価比のトレンドライン。
SSDの容量単価がHDDのそれに対して何倍高価かの概算値。

まずわかることは、2008年の12月頃を境に容量単価の低下ペースに激変が見られる事である。 それ以前では圧倒的にSSDの容量単価下落ペースが大きくて、SSDはHDDとの相対比較でもどんどん安くなっていた。 つまり、SSD vs HDDの戦いとして見た場合はSSD側の圧勝。 この下落ペースが維持出来るならば確かにHDDは完敗間違いない状態だった。

ところが、2008年の12月頃を境に第一の転機が訪れ、 SSDの容量単価下落ペースが急激に鈍化してしまったのである。 当サイトは、この転換を生産調整による減産が原因と考えている。

そして第二の転機が2009年の5月頃に訪れる。 なんと、SSDの容量単価が上昇に転じてしまったのである。 つまり、SSDは待てば待つほどジリジリと高価になる状況になってしまったのだ。 当サイトは、この転換を意外な需要の回復によるものと考えている。 要するにスマートフォン等に出荷するNAND型フラッシュ需要が増えたのでSSDに回す余力が無くなったわけだ。 (半導体ラインは一度停止させてしまうと需要が回復しても速攻で再増産する事は出来ない。 ラインを再稼働させても増産までにはどうしても大きなタイムラグが生じてしまう。)

一方のHDDはと言うと、2008年の12月頃を境に下落ペースが大きく鈍ったが、下落傾向そのものは維持した。 ギリギリのところで踏みとどまったのである。 当サイトがHDD側の対応力を評価するのは、 この記事 を読んで頂ければわかるが、HDD側も想定外の需要回復を経験しているということだ。 つまり、NAND型フラッシュもHDDも両者ともに想定外の需要回復を経験しながら、 HDDは容量単価下落を(かろうじてとは言え)維持出来て、 一方のNAND型フラッシュは維持出来ず価格上昇に転じてしまったと言うことだ。

同記事によればHDD需要の底は2009年2月だったとのことである。 おそらくNAND型フラッシュの底もほぼ同時期と考えるのが妥当だろう。 つまり、需要の増減に対応するペースが半導体業界の方がHDD業界より鈍いという事が 優劣を分けたと考えられる。 (ちなみに、同記事によれば想定外の需要回復によりHDD側も「2010年第4四半期には需要を満たせなくなる。」とのこと。 つまり、この頃にはHDDの価格下落ペースが鈍ってSSD完敗の状況が緩和されるかもしれないね。)

結果、SSD・HDDの価格の相対ポジションはどうなったかという点を SSDとHDDの容量単価比(SSD容量単価/HDD容量単価)で考えてみよう。

両者の容量単価比は約3Q(9ヶ月)で1/2になるというペースでSSDに有利だった。 最盛期には容量単価でSSDはHDDの約20倍高価という所まで到達した。 しかし、SSDがHDDに打ち勝つためには容量単価は数倍程度まで差が詰まらなければならない というのがその筋のプロの主流的見解。

が...第一の転機(2008年12月頃)で下落ペースが同等になり状況が一転した。 そして第二の転機(2009年5月頃)で、ついにSSDの方が容量単価下落ペースが遅くなり、 負けがはっきりしてしまったのである。 ちなみに、容量単価は約20倍の底値から現在では30倍弱高価という程度まで引き離されつつある。 (時代遅れのプチフリコントローラ搭載SSDの投げ売り品を含めてすら20数倍程度高価である。)

一度は見えたHDDの背中は、またジリジリと遠くなってしまった。 つまり、当サイトの予想通り2009年はHDDが容量単価で巻き返した反撃の1年だったのである。

☆SSDはiPhoneと同じ経過をたどる。   
と言うわけで、当サイトは安心して検証記事を書いている。 2009年はSSDが意外に伸び悩んだと主張しても異を唱える人が一人も居ないことは明白だからである。

では、これからのSSDはどうなのであろうか? 

当サイトはSSDの将来を予測するのにiPhoneがたどった経緯が参考になると考えている。

iPhoneは日本での発売当日、マスコミで大きく取り上げられ売れまくった。 あちこちで完売し入手不可能になった。 大ブレークしたかのように思える状況であった。

しかし...一転、iPhoneは一気に失速してしまう。 在庫が山のように貯まって、販売店はガランガランの閑古鳥状態になってしまったのである。

当サイトは、これをiPhoneが当時は実用品ではなく嗜好品だったからだと認識している。 嗜好品ならばファンは大行列しても買う。 だが、実用品と違って市場規模は大きくないから、マニア市場を食い尽くせば一気に閑古鳥だ。

ところが、閑古鳥状態で終わりかと思いきや、iPhoneはジリジリと売り上げを伸ばしていく事になる。 スマートフォン市場そのものがブレークし、それに便乗する形で売り上げを伸ばす事になったのである。 これは対応アプリが増えて実用的になり、嗜好品状態から実用品へ脱却出来た事が原因だと考えている。

これは、マニア市場で大ブレークした後、一般市場で閑古鳥になったSSDの状況と推移が途中まで一致している。 つまり、当サイトの予測が正しければ、容量単価で大差のままの現状はSSDが実用品ではなく嗜好品である事を意味している。 このままでは一般市場ではブレークはしない。

だが、SSD側にとって幸いなことに一般PCユーザーにとって必要HDD容量は青天井ではない。 動画を保存しないという前提条件付きではあるが、 一般PCユーザーやビジネスユーザーではHDD容量は200GB程度あれば十分である。 また、HDDは製造上の固定費が高く、このため秋葉原では容量に関わらず絶対価格が4000円を切ると 製品製造が打ち切られると言う経験則がある。 (客寄せのための数量限定特価品を除けば、容量に関係なく3000円台のHDDってほとんど見たこと無いですよね。)

つまり、200GBのSSDが4000円の数倍程度の価格で売られる日が近づけば HDDはジリジリと追い込まれる可能性が高いということだ。 (もちろん、その頃には必要容量が少し大きくなっているだろうから、 200GBではなくもう少し大容量を想定しなければならないだろうけれど。)

まぁ、他にも信頼性という重大問題があるから簡単には行かないとは思うが、 SSDが完全に失速して「半導体が磁性体に挑む戦いはまたも半導体の完敗。」という過去の歴史的経緯を再びたどるとは思えない。 容量単価という最重要項目では完敗だが、高速性という面では使っていて確かに絶大な威力があるからである。

また、NAND型フラッシュは意外な景気回復で新工場立ち上げ計画が復帰している。 つまり、意外な景気回復でフル生産状態である現状も、新工場の立ち上げにより稼働開始頃には需給が緩和すると思われる。 現状はSSDはHDDに対してジリジリと高価になっているが、その頃には増産によってまた立場が入れ替わる可能性があるわけだ。 (ただし、当サイトの以前の予測通りだとすれば、微細化・多値化のペース鈍化により2008年頃の急速な価格下落ペースは維持出来ないけど。)

正直な話、当サイトはSSDは二度と大ブレークはしないと思う。 だが一度失速したiPhoneがジワジワと復活したように、200GBのSSDが4000円の数倍程度の価格に近づく頃から ジリジリと需要を伸ばすと思う。(大雑把には以前の予想通り200GBで1万円が分岐点かな?) 容量単価も新工場での製造が軌道に乗れば、HDD側の生産余力低下と相まって再びSSDの追い上げが発生すると予想する。 つまり、当初の想定よりはかなりスローペースながら、 ロングレンジで見れば着実にHDDを追い込んでいくのではないだろうか? 

2009年がHDDの巻き返しの1年ならば、2010年はSSDは死んだふりをする1年であろう。 しかし、(信頼性問題が技術的に解決し、かつ、動画保存が爆発的に普及する事がないという前提条件付きではあるが) 2011年頃からジリジリとSSDが再度巻き返し、気がつくと意外に売れているなという状況になると思う。

2009年はSSDが一般ユーザーから忘れ去られた1年であったが、SSDは忘れた頃にやってくると当サイトは考えている。



1)
実のところ当サイトがSSDの伸び悩みを予測していたのは予測コラムに先立つこと約3ヶ月も前のことであった。 適正競争のありがたみ。(キマンダ経営破綻で思うこと。)の中のSSDに関する部分がそうである。 ところが、SSDがPCマニアにあまりにも大絶賛されている状態のため、単独コラムとして異議を申し立てる勇気が出なかった。

結局、この記事を読むことによって、 「あぁ、プロの方々にも当サイトと同じ意見の方が居るのだ。」という安心感を得て、ようやく掲載の勇気が得られたのであった。 当時SSDはそれほどまでに絶賛されており、約3ヶ月のタイムラグはこのために生じたものである。