ドッグイヤーのおごり(壊れた2台のCD-ROM)





最近、相次いでCD-ROMが故障するというトラブルに見舞われた。 まあ、普通の故障ならばあえてWebで取り上げるのも大人げないと思うのだが、 修理を試みて気づいた点があったので取り上げてみよう。

このCD-ROMは2年半程前に秋葉原で安売りしていたものである。 安売りと言ってもジャンク品ではなく、一応新品扱いであった。 生産国・メーカー名・型番は武士の情けであえて言わないが、 仮にこのメーカーをLとする。 購入したL製のCD-ROMは40倍速品と44倍速品であった。 ちなみに、同一メーカー品ではあるが、同一機種ではないので、 ロット不良というような話ではない。

さて、たるさんはメインマシンにはCD-Rを、ゲームマシンにはDVD-ROMを取り付けるのを 恒例としている。このため、このCD-ROMはセカンドマシン以降の下っ端マシンに 取り付けていた。メインマシンの改造中にメールを受けたり、 時に後輩に貸し出したりといった用途なので、 CD-ROMを使うのはアプリのインストール程度と使用頻度も高くはない。

ところが、購入後2年ほどして、だんだん調子が悪くなってきた。 CD-ROMを入れるたびに、「シャ〜、シャク〜ン、シャク〜ン。」というような 回転が不安定なことを予感させる異音が発生するようになったのである。 そして、安定するまでの時間がだんだん長くなったと思ったら、 ついにスピンドル・モーターが回らなくなった。

まあコトが1台限りなら、ここで取り上げたりはしなかっただろう。 が、数週間後、もう一台も同様な症状でイカレてしまったのである。

う〜む、同じ症状で同一時期に同一モードで故障とは... 好奇心に駆られたたるさんは無謀にも分解修理を試みたのであった。



分解されたL製CD-ROMはコストダウンの極みと言えるものであった。

機構部品に金属製のものはほとんど無い。 それどころかエンプラすらほとんど使われていない様子である。 ほとんどの構造部品はABS樹脂で、まるでプラモデルあった。

また、両者の部品は極限まで共用化され、見比べるとまるで間違い探しを やっているようであった。(基板のプリントパターンがわずかに異なる程度。)

しかし、ここで誤解しないで欲しいのであるが、 機能や耐久性を落とさずにコストダウンできるならば、 コストダウンというのは、褒め言葉なのである。 必要な機能を安く提供できるならば、我々にとっても嬉しい事だし、 それは技術の進歩の結果に他ならない。



だから、光学ヘッドのリード・スクリュー式位置決め機構が、 鉄の棒にプラスチック片を巻き付けた安物だったとしても、 実際にここが故障部位ではなかった以上、決して問題視するつもりはないのである。 (上記写真の左側に見える溝付きの白い棒が、それである。 ちなみに、リード・スクリュー部は、通常は金属棒に螺旋状の溝を切って使用する。) それは、光学ヘッドのジンバルに組み込まれた位置&焦点補正サーボ機構が、 リードスクリューのガタまで含めて、 光学ヘッド位置を安定化できるということを意味するからだ。

しかし、問題の故障部位まで分解が及んだ時、たるさんはアッと息を飲んだ。 下記にその写真を示そう。



スピンドルモーターの中心軸は、逆さにするだけで簡単に すっぽ抜ける構造で、抜いた後に見えたのは、単なる金属の筒であった。 ボールらしいものは何も見あたらない。

そう、2台ともに、スピンドルモーターの中心軸は オイルを染み込ませた燒結金属を利用した軸受け、 いわゆる、スリーブベアリングだった。 なんと、ボールベアリングではなかったのだ。

繰り返して言うが、このCD-ROMは40倍速と44倍速なのである。 ちょっと昔の廉価ハードディスクにも匹敵する高回転数を誇る このスピンドルの軸受けが、 安物のCPUファンと同じ構造だったとは!

確かにこの構造で耐用年数を全うできれば、 すばらしいコストダウン技術であるといえるだろう。 高精度ベアリングというものは、意外に高価なものであると聞いている。 これを廉価部品で実現できれば、ユーザーに低価格でCD-ROMを供給できるからだ。 (実際このドライブは、当時としては安かった。)

しかし、実際に3年保たずに(しかも、2台とも同じ故障部位で)壊れてしまった以上、 あまりにも姑息なコストダウン法と言わざるを得ない。

このCD-ROMの設計者は、なぜこんなベアリングを採用したのであろうか? もし、このCD-ROMの設計者が、「IT時代はドッグイヤーだから通常の1/7の 耐用年数で問題ない。」とか 「今時、設計寿命が尽きるまで使う人などいないだろう。」と 考えて、通常の機器より短い耐用年数で設計していたとしたら、それは 明らかに設計者の思い上がりだろう。

ここは、コストアップに耐えても、メーカーLの技術者は グッと我慢してボール・ベアリングを 選択すべきだったのではなかろうか?

そういえば、最近はコストダウンのせいで品質が低下しているという話をよく聞く。 ある雑誌でCD-Rメディアの特集記事を読んだときも、 CD-Rは新製品の方が旧品よりも性能が悪いという話が書いてあった事を思い出した。

CD-Rは価格がどんどん下落したため、メーカーはコストダウンを余儀なくされ、 射出成形速度を上げたりして、品質低下を承知の上で量産性を上げているそうだ。 たるさんが知る限りでは、フタロシアニン系色素1)でもないのに 耐光剤抜きのインチキ製品もあると聞く。 (秋葉原で実際に目撃した。もちろん、いくら安くても買わない。)

逆に、我が家の長老、T芝製4倍速CD-ROMは今でも健在である。 速度こそ遅いが、今も確実にインストールをこなしているのであった。

幸いにして、このインチキCD-Rも、今回のCD-ROMドライブも国産品ではなかったが、 コストダウンに血道を上げる国産メーカーが、 同様な落とし穴に落ちる可能性は高い。 今、中国・韓国の追い上げに苦しむあまり、唯一の拠り所である品質を失ってしまえば (もともとコストでは中国にはかなわないのだから)もはや 日本製品の出る幕はないだろう。

稲妻のように駆け抜けてゆく技術革新・コストダウンの陰で、 見捨てられてゆく地味な技術「信頼性・耐久性」。 その意味を見失ったツケは、いずれ我々自身に跳ね返ってくると言う事を、 身をもって知った週末であった。

決してカッコつけるわけではないが、CD-ROM2台でこれを学べたのは、 タコ技術者としては安い教科書代だと思う。

ちなみに、ベアリングに注油してみたのだが、 やはり回転が不調で、戦線復帰は果たせなかった。合掌。



1)
フタロシアニン系色素は分子骨格が安定しているので、 耐光剤無しでも高い耐久性を誇る。 しかし、シアニン系やアゾ系の色素の場合は、光による色素の変質を防ぐため、 耐光剤を入れなければならない。 これを手抜きすると、何年か後にデータを読めなくなる可能性が高い。 このインチキCD-Rの技術者も、「ドッグイヤーだから3年保てばいい」 と思っているのであろうか!