「あぁ、めんどくせ」の声(PLCアダプタ買いました2)   

2007年3月26日



期末の3月は1年で一番忙しい季節だが、今年は旧年中があまりにも忙しかったので相対的に忙しさをあまり感じない。 別に例年と変わらない状況なのだけど、人間ってのは相対評価は得意だけど絶対評価は苦手だから忙しくないように感じてしまうのだ。

去年の残業代であるが、大画面テレビ用に温存していた財力でどれを買うかで楽しく悩んでいる。 久々の大物購入だが、こういうのは宝くじと同じで購入するまでが一番楽しいのだろうね。 液晶にするかPDPにするか。いや、使用時間を考えればいっそテレビではなくワイド液晶モニタのでかい奴を買うか... 巷ではフルHD対応パネルが良いと言うが、この解像度の差を本当に実感できるのか...

技術革新のおかげで液晶とPDPは昔ほど差がないものになっているし、家電量販店に行っても判断は難しい。 数年前なら、見るだけで「あっ、これ液晶パネル。あっ、これPDPパネル。」って簡単に見分けが付いたんだけど、 購入の偵察に行って的中率が大きく下がった事を実感した。 (って、PCでの併用も考慮すればおそらく液晶ってことになるのだけれどね。)

結論は...今年はサッカーやオリンピックという大規模イベントの端境期だから、 大画面テレビは従来よりさらに大きく値下がりするというのが当サイトの読み筋である。 悩んでいるのなら、楽しく悩みながら待てばいい。待てば待つほど性能が上がり、価格が下がる。 と言うわけで、せっかくだからこの楽しさを少しでも長く楽しんでいるところだ。

☆「あぁ、めんどくせ」が人間の本質   
さて、同じく残業代のおかげで購入できたPLCアダプタであるが、その後はどうなっただろう?

世間ではと言うと、PLCアダプタは製造メーカーが増産に次ぐ増産と大いに売れているようだ。 そして、おもしろいのは売れている理由だ。 当サイトも使ってみて初めてわかったのだが、あの設定の容易性は凄いと思う。

本来、PLCアダプタの売りは高速性と接続性にあると言われてきた。 つまり、HD系の画像データのような大容量データを遅延無く送れる高伝送帯域と、 無線LANではつながりにくい1Fと2Fといった障害物間での接続性にある、という指摘である。

しかし、売れまくっているPLCアダプタが買い求められる最大の理由は、 実は設定の容易性にあるというのが当サイトの現状認識だ。 そもそも接続性という意味ではPLCアダプタには固有の不安定性があって、 前々回に書いたとおり必ずしも無線LANより優位というわけではない。 「PLCアダプタは売れない。」という周囲の事前予想を覆したメリットは 実は当サイトどころか製造メーカーの予想さえ超えた部分にあったわけだ。

高速性や接続の安定性はその動作原理から考えて無線LANでもMIMOという対抗手段がある。 高速性も接続安定性も、どちらもMIMOがもっとも得意とする所である。 ならばドラフト版.11nでもPLCアダプタに十分対抗できる理屈だが、 ユーザーの感じるメリットが設定の容易性にあるとわかった今、 現状の無線LAN機器は対抗馬としてほとんど失格と言える。

無線LANを導入すると、やれ暗号化設定だの何だの設定すべき項目が多くて、 我々PCマニアでさえ「あぁ、めんどくせ。」と思う。(同じメーカー同士なら一発設定が効く場合が多いけど。) まして、設定の意味を理解できないで解説書通りに入力しているだけの非PCマニアでは、 「本当にこれでセキュリティー大丈夫かな?」とかの不安感につながるだろう。 そして、電波状態の監視ソフトとかがツールバーに常駐し、暗号化の有無やIDが表示され、 そこに無線LANというシステムがあることをイヤでも意識させられる。

逆に、PLCアダプタは見かけ上もうLANケーブルそのものと思えるまでその存在を意識させない。 これは、非PCマニアにとっては先ほどとは逆にある種の安心感につながる。 システムの状態を常時掌握できているという事が安心感につながるのはマニアの発想であって、 一般人対象の場合では逆に不安感を増す非常識な対応ということだ。

どういう事かというと、良い悪いを別にすればだが、一般人が求めているのは「安心」であって 「安心そのもの」ではないのかもしれないと言うことだ。 例えば、ファイアウオールソフトで警告が出た場合、PCマニアなら「あっ、ちゃんと監視してくれているのだな。」 と思うけれど、非PCマニアならそれだけである種の恐怖を感じてしまうのに似ている。 と言うわけで、一発設定で、そのあとは存在自体がシステムに埋没というPLCアダプタは、 PCマニアよりも30-40代の一般的な夫婦やファミリーが買っていくという記事にも納得がいく。

もちろん無線LAN機器を得意とするメーカーも黙ってはいない。 “簡単設定”の統一化始まるという記事に代表される一発簡単設定規格統一の流れが一気に高まってきたのは、 PLCアダプタに対する無線LANサイドの危機感の表れと言えると思う。 (MIMOと統一化簡単設定のセットは確かにPLCアダプタに対する特効薬になると思われる。)

マニアは高額商品でも積極的に買うから数が少ないからと言って市場規模が小さいとは言えない。 しかし、バリューゾーンを狙うなら非PCマニア市場を無視する訳にはいかない。

今までのPCの世界は高性能・高機能中心の世界であり、機能を削ってまで使いやすくするという発想に欠けており、 その一瞬の隙を突いたPLCアダプタが無線LANから一本取ったのだと思う。 昔から言われていることではあるが、この「あぁ、めんどくせ。」というのは、 高機能・高性能といったフレーズに勝る新製品開発における最大のキーワードだと言うことを再認識させられた 今日この頃である。

☆PCマニアでなぜblogが流行る?   
この、「あぁ、めんどくせ。」という人間の本性。 これにはPLCアダプタ以外でも思い当たる節がいくつもある。

例えば今流行のblogだ。

blogはHTMLを憶えなくても簡単にWebサイトを構築できるから、 一般の人が情報発信する場合にblogに走るのはよく理解できる。

しかし、当サイトがPC関連のサイトを巡って思うのは、 HTMLなぞイロハのイであるハズのPCマニアでさえ 多くの方々がblog形式に引っ越してきていることだ。 HTMLを習得しなくてもすむという事だけがblogが流行る理由ではないのである。

これも調べてみると、どうやら「blogだと楽できる。」というのが最大の理由らしい。 面倒な作業を離れれば肝心の本題に時間を割くことができるし、その方が利口である。 体裁を整えるなどという作業は芸術系サイトでも無い限り本質に関係ないし、 blogならその部分をガッツリ手抜きしてもそれなりの見た目にはなる。 また、更新の継続だってテキスト入力一発の方が面倒が無くて長続きする事は間違いない。 (当サイトのように内容さえ正しく伝われば体裁なんてどうでもいい、 ってスパッと割り切れる人も意外と少ないみたいだ。)

ちなみに、当サイトがblog形式に移行しないのも「引っ越しがめんどくせ。」というのが最大の理由。 人のことは全然言えないズボラな性格である。(^^;)

あとは、例を挙げるとしたらデジカメやデジタル家電かな。

デジカメにはコンパクトタイプ系と本格一眼レフ系があるけれど、数量面ではコンパクトタイプが多数派だ。 しかし、機能面・性能面から言えば一眼レフ系に軍配が上がる。 機能・性能が高ければ売れるというマニアの発想から言えばコンパクトタイプは時代の亜流のハズだ。 だが、(価格面を別にすれば)必要最低限の機能があればシンプルな方が使いやすいという、 いわばめんどくさがり屋さんが多いからコンパクトタイプが売れている面があると思う。

なぜなら、実家の母親なぞは「難しいのは写せーへん!」って、 理想のカメラはシャッタースイッチ一つだけの奴だと言っているぞ。 使い捨てカメラじゃないんだから、そんな無茶な...と思いつつも、一理あると思う。 絞りがどうとか、シャッター速度がどうとか、(当サイトは写真マニアではないから語る資格は無いが) そういう機能は憶えるのがめんどくさくて、かえって失敗写真を増やすだけの無駄な機能と考えている人も意外に多いと言うことだろう。

実際、本格一眼レフ系のデジカメは高性能本格志向からこのところ簡単操作志向へと流れを変えつつあるそうだ。 高性能・高機能だから売れるとばかり本格志向を推し進める毎にコンパクト系に水を空けられるというミスを犯し続けた一眼レフ。 だが、今シンプルな簡単操作志向に設計思想を変えることにより、ようやく売り上げが回復傾向になったそうだ。

デジタル家電も同様で、例えばMCE版OSを搭載したPCとDVD-HDDレコーダーを比較すれば機能面ではPCに軍配が上がるが、 実際に市場を席巻しているのはデジタル家電である。MCE系OSを搭載したPCは一般人はおろかPCマニアでさえ採用が少ない。 売れる要因は高性能・高機能であることよりもむしろ簡単に使える事であるという証だろうね。

と言うわけで、マニア・非マニアを問わず「めんどくせ。」という言葉に応えられる機種が時代のトレンドを作り出す。 PLCアダプタでの「つなぐだけで一発リンク。暗号化までOK。」という接続設定の容易性は、 PLCアダプタを語る上での最大のキーワードだと思う。

☆何十年ぶりかに短波ラジオを買ってみた。   
と言うわけで、ようやくの本題。 前々回の中でお約束したとおり、PLCアダプタの漏洩電力による影響を実際にラジオで聞いてみた。

短波放送やアマチュア無線を受信するためには、それなりのラジオなり受信機が必要だ。 今回のテストに先立ってはまずこれらを購入する必要があった。

購入した一台はK's電気で売っていた激安短波ラジオで、RAD-S311Nという奴である。 これを選んだのは、いくら安くてもラジオNIKKEI専用受信機ではテスト後にタンスの肥やしになってしまうので、 一応いろいろな周波数が聞ける奴という条件付きで一番安かった(\1980)からだ。 中身はTECSUNという中国メーカーのOEMらしい。

もう一つの受信機は IC-R1500という機種で、これはかなり本格的なオールバンド受信機である。 これに決めたのは周波数のカバー範囲が広いので実験後もいろいろと遊べそうというのと、 PCに接続してPCから制御出来るというのが決め手となった。 (なんせRAD-S311Nとは違って高額商品だから、今回の実験のためだけでは購入を決断できない。) また、アマチュア無線の状態を調べようと思ったら、この周波数帯ではSSB変調を復調できる受信機が必須であり、 これはRAD-S311Nのような激安ラジオではできない芸当だからである。

価格的には決して安くはないが、これほどの広い周波数範囲をカバーできる 本格的な機種としてはそれでも高くない方である。 こちらはさすがにそこいらの家電量販店では売っていないので、アマチュア無線家向けのショップでの購入。 (いや〜、いくら残業代がドカッと増えたと言ってもさすがに財布が消耗してきたな〜。)

激安短波ラジオRAD-S311N(左図-左)とPC制御受信機IC-R1500(左図-右)
IC-R1500はPCから制御するので、ダイヤルが沢山付いている受信機の外観イメージはない。
受信機は基本的には右図の通りPC上から制御する方式。

実験は上記2機種を用いてPLCの動作の有無によるフロアノイズの違いを聞き比べる方法で行った。 また、RAD-S311Nはポータブルなので移動しながら距離による影響を観察した。 IC-R1500のアンテナはベランダ(距離約3m)に固定してある。 (IC-R1500はACアダプタか車載でのバッテリ駆動が前提で電池を内蔵できないので、電池ボックスを作っていない今は移動不可。)

使用に先立ち、両機種の性能を調べてみたのであるが、 RAD-S311NがIC-R1500に勝てないのは回路構成や技術水準から当然としても、激安ラジオもそこそこ使える事には少々驚いた。 この手の激安系は安物買いの銭失いになるケースも多いのだが、 RAD-S311Nは強電界放送局受信向けに限れば十分に実用になる性能を持っていた。

建物が鉄筋コンクリート製なので室内ではダメだが、ロッドアンテナを窓から外に出せば ラジオNIKKEIや中国国際放送などを十分な感度で受信できた。混信も実用上十分のレベルまで下がっているし、 局発がPLL方式では無いにも関わらず再チューニングが必要になるような周波数ドリフトも無いのである。 感度・選択度・安定度という受信機のもっとも基本的なファクターで比べた場合、IC-R1500に大きく劣りつつも ラジオNIKKEIや中国国際放送を受信するレベルなら短波帯でも十分実用になる性能を持っている。

ただし、RAD-S311Nは対応している変調方式は標準的なAMとFMだけなので、 SSBが復調できずアマチュア無線の受信には使えない。 また、さすがに弱電界放送局の受信ではIC-R1500に完敗だ。 だが、そもそも値段が27倍も違うのだから十分納得できた買い物だ。

IC-R1500はさすがに本格系で、性能面ではRAD-S311Nに完勝だ。 (っていうか、設計者にしてみれば「そんな廉価版製品と比較しないでよ。」って言いたいところだろうけど。) パソコン上からすべての機能を操作でき、音声もPC上から聞く設定にもできるという、 ちょっと変わり種のおもしろくも楽しい受信機だ。

夜になっていろいろな周波数を探ってみたが、その性能のおかげで生まれ故郷の東海ラジオやCBC(中部日本放送)を、 ここ北総地方でも簡単に楽しむことができた。いや〜、懐かしいねぇ。

また、IC-R1500の本領は中波・短波よりもむしろ準マイクロ波領域まで1台で受信できることにある。 (カバー周波数エリア0.01〜3299.999MHz) 短波系マニアのサイトなどを見るとさらに本格的な短波受信機(10万円以上する。)を使っている方々も多いので IC-R1500でもその筋の方々から見れば入門機程度なのだろうけれど、 これほどの周波数領域を1台でカバーできるのなら今回のテストが終わってもいろいろな事に使い回しが効きそうである。

☆漏洩は非常に大きいが、周波数依存性・距離依存性も大きい。   
と言うわけで、PLCノイズの観察。 まずは激安短波ラジオRAD-S311Nでの観察結果から。

まず、スペアナで漏洩ノイズ観察を行った距離に合わせて距離1.5mで聞き比べる。 次に廊下へ出て測定。距離は約6m。そして廊下の端まで移動して実験。そのときの距離は約17mである。 (注:廊下で90°曲がるので約17mというのは直線距離ではない。計算上の直線距離は約12.5mとなる。) 周波数はノッチ帯域である6MHzと非ノッチ帯域である6.8MHzで行う。

残念ながらラジオNIKKEIの録音をここにアップすることは著作権上問題があるし、 アマチュア無線の通信状況をアップすると通信内容をもアップする事になってしまい、 傍受した通信内容に対する電波法上の守秘義務違反になるのでこれもできない。 と言うわけで、申し訳ないが下記の通り文章による感覚表現になってしまうのだが...

まず、ノッチ帯域内ではどの距離でも大きな影響は無いように思えた。 距離1.5mで選択度の悪いRAD-S311Nを使った場合にごくわずかの影響があるようだが、 これは混変調によるものかもしれない。 基本的にはフロアノイズレベルの上昇もほとんど感じられず、 スペアナでの測定結果通りノッチフィルタはよく効いているようだ。

しかし、大問題は非ノッチ帯域だ。 距離1.5mではもうもの凄い大ノイズ発生で、これはもう受信に影響があるとか無いとかいうレベルではなく、 ノイズ以外は一切聞こえなくなる。PLCアダプタが動作していないときのフロアノイズレベルに合わせて音量を設定していたら、 あまりの音の大きさに思わずボリュームを絞ってしまったほどだ。 明らかに電波ダダ漏れ状態であり、非ノッチ帯域での短波通信に対しては近距離では重大な影響がある事は間違いないところだ。

ノイズの音質も非常に悪くて、地下鉄の騒音と布を引き裂く音を足して2で割ったような 非常に不快感の高い音である。

次に距離依存性を見てみた。 ラジオ(RAD-S311N)を持ってドアの外まで歩くと少しだけノイズレベルが下がるが、 やはり大きな影響がある事には変わりがない。 もともと電力線がアンテナになっているのだから、窓側コンセントとドア側コンセントの間では アンテナのエレメントに沿って歩いているのと同じで、状況が大きく変わることはないのだろう。

状況が変わるのは廊下に出てドアを閉めた場合である。 同じ位置でも、部屋のドア(金属製)を閉めるとノイズレベルが大きく下がる。 鉄筋コンクリートの建物に鉄製ドアだから、ある程度のシールド効果があるのだろう。

ただし、下がったとは言ってもベースのノイズレベルが無茶苦茶に高いから、それでもノイジーな事には変わりがない。 もはや鉄筋の建物の奥深くだからそもそも短波放送が受信できないが、 仮に放送局の電波が届いていたとしてもこれでは受信に相当苦労するだろうと感じるレベルだ。

影響が無くなるのは、廊下の端まで歩いていってベランダに出た時だ。 ここでようやくノイズがほぼ聞こえなくなり、外に出たので放送の電波も受信できた。 巻き尺で距離を測ってみたのだが、約17mであった。

さて、ではIC-R1500ではどうだろうか?

ノッチ帯域内ではRAD-S311Nと同様に大きな影響はなかった。 当サイトはアマチュア無線家ではないのでDX1)レベルでどうかと言われると あまり自信はないが、通常のラグチュー2)ならばPLCアダプタの影響はほとんど無いと思われる。 ラジオNIKKEIに関しても同様であり、影響はほとんど無かった。

では非ノッチ帯域ではどうだろうか?

IC-R1500はIF帯域のフィルタ特性を選択的に可変できる。 短波帯の受信では-6dB通過帯域幅を6KHzに絞って高域を削る事でノイズレベルを下げる工夫をしているが、 音質低下と引き替えに聴覚上のノイズをRAD-S311Nよりグッと下げることができた。

このため、聞いた感じでのノイズは高音での音質面で大きく改善されており、 この辺りは高性能機種の良いところだ。 しかし、地下鉄系の低音ノイズは相変わらずであるし、受信不能である事にも変わりがない。

そして、なまじ受信感度が高いため選択度性能が高いにも関わらず受ける影響も大きい。 ハイレベルな通信型受信機ならノイズを回避できるかというと、 選択度向上などで低減できる部分よりも、感度向上によって新たに拾ってしまうノイズが大きくて 結局あまり効果がないという結論になった。 ちなみに、ノイズブランカ4)はPLCノイズに対してはあまり効果がない。

距離が1.5mでは他の機器も同じようなノイズを出すという意見もあるので、 アンテナをベランダに設置して見たのだが、状況は変わりない。 ベランダ設置アンテナでの状況をスペアナで観察してみたので、下記に掲載してみよう。

ベランダ設置アンテナでのフロアノイズ(左)とPLCアダプタ動作時(右)の電波状況

まずフロアノイズの状況を示すが、アンテナが室外に出たので以前より多くの電波が受信できている事がおわかりいただけると思う。 次に同じ条件でPLCアダプタを動作させてみたのだが、このありさまである。 注意すべきは、以前掲載した図は2dB/DIV表示だったが、今回は受信レベルが上がったため5dB/DIV表示としている点である。 図の見かけ以上に受信電力は強力である。ちなみに、今回の図のベースラインは-50dBmだ。 つまり、漏洩電力は最大ピークでは-65dBmにもなる。

アンテナゲインが前回から上がったので、距離が2倍に遠くなったにも関わらず受信している電力は逆に上昇している。 このため、フロアノイズレベルを基準とした漏洩レベルは上がっている。 ただし、ラジオNIKKEIの受信レベルも上がっているので相対パワーはあまり変わっていない。 つまり、シグナル強度は上がっても、その影響度はほぼ同じだ。 (左右の写真で中心周波数での受信レベルが変わっているのは、おそらくフェージング3)の影響である。)

IC-R1500のパソコン上の操作画面にはデジタル式のSメータが付いているが、 周波数5.8MHz帯ではS5程度までフロアノイズが上昇。 5.872MHzにある強力な韓国の放送以外は周囲の放送が受信不能になる。 (この放送はS9レベル) そして、PLCアダプタの影響が一番大きい6.8MHz帯ではS9+10dB程度までノイズレベルが上昇し、 すべての通信が全く受信不能になった。

残念なことではあるが、これは妨害があるとか無いとか言うレベルではない。 データ転送終了と同時にノイズはぱったり止んで聞こえなかった放送が聞こえるようになるわけだから、 これがPLCアダプタの影響によるものであることは明白である。

受信機のフィルタ特性によって周波数的に分離除去できるためにアマチュア無線やラジオNIKKEIの受信に大きな影響は出ていないが、 PLCアダプタが近距離にあった場合のノイズはラジオNIKKEIの放送電波よりずっと強力である という事実は知っておいても損はないだろう。 (当サイトで使用している機器での範囲とはいえ、他の室内電子機器が発する電磁波よりずっと強力である。)

と言うわけで、アンテナを室外に出して距離を取っても、 生活環境的な距離ではPLCアダプタによる漏洩の影響は依然として深刻であることがわかる。 また、PLCアダプタの出すノイズは、他の電子機器の出すノイズとは比較にならない事もわかる。

ただし、周波数依存性・距離依存性は比較的大きいこともわかってきた。

極限の高感度測定を行う電波天文とかの特別な事情についてはよくわからないが、 約17mと距離を離せば漏洩レベルが落ちるので(短波放送受信レベルでは) 遠距離ではPLCアダプタの影響は比較的少ないと言えるかもしれない。

PLCアダプタの使用する周波数はMHz帯なので波長が数十mと無線LANに比べてかなり長く、数mの距離では近傍界になってしまう。 従って距離の自乗に反比例という常識的な距離依存性計算式が使えない可能性が高い。 このため、簡単には距離依存性を推定する事ができないのだが、 大雑把に様子を見た感じでは距離依存性は結構大きそうだ。(近傍界については勉強中。無学は辛いね。)

また、周波数的にはノッチ帯域内利用であるアマチュア無線家よりも、 むしろ非ノッチ帯域利用であるBCLファンなどに影響が大きそうだ。 この状況を是とするか非とするかは、ラジオNIKKEIやアマチュア無線帯だけを守ればいいのか、 短波帯全体を守るべきなのかで大きく評価が変わる事になるだろう。

☆功罪あるPLCアダプタ。今後の改良に期待。   
と言うわけで、PLCアダプタのノイズを実機聴感で調べてみた。 前半部分は使いやすさ・設定の容易性でPLCアダプタを賞賛。 後半は短波帯への電力漏洩でPLCアダプタへの苦情となったわけだが、 現状のPLCアダプタには功罪2面が大きく現れていると思う。

今後PLCアダプタがどうなるかであるが、実はその方向性はPLCアダプタ自身が決めるのではなく、 .11nに代表される新型無線LANとの相対性の中で決まるのではないかと考えている。 つまり、PLCアダプタの一発設定という良い点を無線LANが取り込むのが早いか、 電力漏洩という問題点をPLCアダプタ側が改良してくるのが早いかという問題だ。

現状は一発設定の容易性について軽く見ていた無線LANサイドがPLCアダプタに一本取られた形になっているが、 一発設定というのは企業間の合意さえ取れれば技術的には無線LANでも簡単に解消できる問題だと思う。 今まではPLCアダプタという共通の敵がいなかったため、自社のユーザーを囲い込む形で 自社製品間のみの一発設定だった無線LANだが、共通の敵を得て無線LAN全体としての一発設定が可能となれば、 また潮流が変わる可能性も十分にあると考える。 (高速性・接続安定性は.11nのMIMOで十分対抗可能と当サイトでは考えている。)

いずれにせよ漏洩問題がPLCアダプタ最大のネックであり、 これをいかに技術的に解消するかがPLCアダプタの将来を決めるのだと考えている。 しかし、現実には(良い悪いを別とすれば)漏洩問題はPLCアダプタの将来を決めないのでは無いかとも考えている。

それはなぜか?

この考え方の根本にはPLCアダプタ推進派と反対派の激論を見てきた背景があるのだが... 人間というものは自分の信じたいことを信じるのだな、と思ったのだ。

例えば、PLCアダプタ推進派の方々から見ると、短波帯ラジオ放送は時代遅れのメディアで消滅しても実害はなく、 アマチュア無線も歴史的役割を終えて免許を取り上げても問題ないという見解が一部にある。 医療機器への影響なぞは反対のための恫喝に過ぎないと思われており、 酷いものになると「漏洩が問題になると言うのなら電波天文などは離島に引っ越せばいい。」なんてのもあったっけ。 当サイトから見れば暴論以外の何者でもない意見5)なのだが、自身の利益に関係無ければ排除してもかまわないという発想が一部にあるのは残念だ。

逆にアマチュア無線家に代表されるPLCアダプタ反対派の見解を見ると、 PLCアダプタは全然使えない存在で市場価値が無い製品ということになっている。 漏洩問題については、確かに大きな漏洩が発生しているから指摘の通りかとは思うけれど、 PLCアダプタには接続の容易性等で明白なメリットがあり、それさえも否定するというのは 「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。」の類であるような気がする。

それに「PLCアダプタは禁止すべき。」という主張も技術的改良の可能性を無視した 推進派とは逆の意味でのある種の排除主義のように思える。 (アマチュア無線はあくまで「技師」に与えられるのであって「通信士」に与えられるわけではないのだから、 問題があれば禁止ではなく技術的改善をまず考えるべきと思う。)

要するにお互いに罵りあうだけの形となっており、 多くの議論で漏洩電力をどのレベルで妥協するかという歩み寄りの姿勢が見られない。 良識ある議論はごく一部にとどまっているという印象だ。

正直に言おう。当サイトだって使えるものならPLCアダプタを使いたいのである。 いくら残業代が入ったとは言っても、約2万円もの高額商品をタンスの中で眠らせるというのは結構痛い。 しかも、当サイトはアマチュア無線家でもなくBCLマニアでも無い6)ので、自分の事だけを考えれば漏洩は何の実害もない。 だが、一戸建てではない建物では隣室への距離が近すぎて漏洩が問題を起こさないという確証が得られない以上、 このスペクトラムを見てしまったからには使用を差し控えるしかないではないか。

しかし、このような状況の中で漏洩電力問題を技術的に理解することが難しい一般ユーザーはどう判断するだろうか?

当サイトは自分で測定を行って考えを変えた。(おそらく問題ないレベルの漏洩だろうと考えてPLCアダプタを購入したが、 実機テストの結果を見て考えを変え現段階では使用を差し控える判断をした。) だが、おそらくPLCアダプタを使いたい人は無意識のうちに自分にとって都合の良い意見である 「漏洩は問題ないレベル。」という説を信じるのではないだろうか? (もちろん、熟慮の上でならOKですが...)

「あぁ、めんどくせ。」が人間の本質と最初に書いたけれど、 これは無線LANの設定だけではなく、残念ながら物事の判断でも同様なのだと思う。 (非技術系の人にこういう判断を独自に求めるのは酷ではあるけれど。)

と言うわけで、この「あぁ、めんどくせ。」に応えるのが技術なのだという当サイト的見解に従えば、 漏洩問題を考えなくても良いレベルに漏洩を低減させる技術開発こそ高機能・高性能に勝る 技術開発の真価であるというのが当サイトの意見だ。

何も考えなくても複雑高度な漏洩防止を自動的に最適化して設定してのける新メカニズム。 当サイトのトリ頭ではいいアイディアが今のところ思いつかないが、 世の中には信じられない才能を持った人たちもいるのだと期待している。 PLCアダプタの将来を支えるのは、やはり「技術開発力」だと思う。



1)
DXとは遠距離通信の事を意味する。 きわめて微弱な電波を扱うため、高い技術・技能が要求される世界である。

2)
要するに井戸端会議的な雑談の事である。

3)
マルチパス干渉による信号強度の時間変動を意味する無線用語。

4)
自動車のイグニションノイズのようなパルス性ノイズを除去する回路。

5)
アマチュア無線の存在意義が低下しているという意見がある。 当サイトの友人にはアマチュア無線家がいるので5〜6年に一度のペースで ハムフェアに連れて行ってもらったりするのだが、行くたびに規模が小さくなっていて アマチュア無線の社会的影響力が確実に低下している事が実感できる。

しかし、ではアマチュア無線が日本の技術力に寄与していないかというとそんなことはない。 こんなサイトを開いていると通信やスパコンや電子回路設計のプロ (つまり、日本のIT業界の頂点に近い方々。)とお知り合いになる機会もあるのだが、 その筋のプロの方々が子供の頃アマチュア無線家であった確率は、 世間でのアマチュア無線家の存在確率よりも異常に高い事が実感できる。 (これに子供の頃マイコン小僧だった方と電子工作マニアだった方を加えれば大多数となる。) 日本の技術力の将来を考えればアマチュア無線は決して免許を取り上げて良い存在ではないのだ。

電波天文も同様であり、我々はこれらに許容できる範囲で最大限の理解を示さなくてはならないと思う。

一見すると電波天文は我々の実生活には無関係の様に思える。 しかし、学問のどの分野の成果が将来的に役に立つかは我々凡人には予測できないものなのだ。

良い例が確率論である。 確率論が数学の世界に初めて出てきたとき、「こんなものはカジノでしか役に立たない。」と酷評された。 しかし、現代では物理学の根底に至るまで確率論に支配され、産業界でも例えばQCなどは確率論無しでは成立しない。 おそよサイエンス&テクノロジーと名の付くもので確率論という数学ジャンル抜きで進歩できる学問があるかというと、 存在しないと言っても言い過ぎではない位である。

自分に直接の関係が無いからと言って学問を舐めてかかるのは「今」のために「将来」を犠牲にする刹那主義の一種だと思う。 電波天文が一見我々の実社会に直接御利益が無いからと言って離島へと追い飛ばす様なまねは、 天に向かって唾するようなものであろう。

6)
正確に言うと小学生の時に一番格下の免許証を取ったが、閉局してすでに20年以上になる。