あるメモリ・ハンターの哀れな末路   

2005年6月28日



☆巻頭余談・「愛知の輝」咲く。   
さて、関東は空梅雨気味だが新潟は豪雨。うっとうしい季節である。 皆様はいかがお過ごしでしょうか?

今回も写真が無い(ホントは物はあるので写真は撮れるのだが、理由があって掲載できない!)ネタであるため、 巻頭に余談として前回の写真の続きを掲載しておく。 前回は3〜4部咲きだったが、満開になったので 週末に佐原水生植物園を再訪したためである。

掲載するのは、前回写真を載せたが肝心の花が咲いていなかった花菖蒲「愛知の輝」と、 全ての花菖蒲の原点「ノハナショウブ」、そして満開になった佐原水生植物園だ。 野生の原種「ノハナショウブ」も咲いていたが、華奢な花姿がしおらしくて、 意外に野生種のままでもきれいだね。

梅雨といえば紫陽花だが、花菖蒲も負けてはいない。 相変わらず写真が下手なのが難点だが、これで蒸し暑い梅雨空気分を 少しでも吹っ飛ばしていただければ幸いである。

左がようやく咲いた初代黄色花菖蒲「愛知の輝」
右は全ての花菖蒲の原点「ノハナショウブ」

原種なので大きな花は咲かないが、とても端正な花形だ。
 
佐原水生植物園ようやく満開
左の写真は前回3〜4部咲きだった写真とほぼ同じ位置で撮影。

☆ついにDDRメモリ購入   
さて、巻頭余談は短くまとめる時だけ味が出るらしい。 余談を長くすると冗長になるので、早速本題に入ろう。

買い時を探ってきたのであるが、今週末とうとうメモリを購入した。 ついに、円安効果がメモリの価格低下を上回りはじめたためである。 とは言え、この価格ではすべてのメモリメーカーが青息吐息という状況だろう。

ところで購入したメモリであるが、最安値ゲットとまではいかなかったがかなりの安値を掴むことができた。 う〜ん、満足。

ただ、メモリは余りだすと際限なく安くなるということは 前回の大暴落時に確認済みである。 円安だからと言って下げ止まるという保証はない。 たるさんの判断、正しかったかどうかこれからが楽しみである。 (ただし、この後に続く苦難には気づきもしないのであった。)

で、買ってきたメモリであるが、某メーカーの2級品チップで作られた 廉価版非公式ブランドチップが搭載されていた。 正直言ってWebでの評判がイマイチのメーカーであるが、 購入時にチップの確認までは出来なかったのでやむを得ない。

まともな品を選ぶつもりなら激安品は不可である。激安系に手を出すときは ハイリスク・ハイリターンを承知しなければならない。 まあ、この激安価格では選択の余地はあまりないだろう。

問題はチップだけではなくプリント基板もである。 配線パターンのノウハウによって、同じチップを使っても特性面で差があることは良くあるからだ。 (財布に余裕があればJEDEC準拠をお勧めするが、価格面でのうま味は無くなる。)

早速マシンに取り付けてみたが...リスク覚悟とはいえ、早速問題が表面化した。 起動する毎にメモリを認識したりしなかったりするのである。 他人にはJEDEC準拠+一流メーカーチップ搭載品を勧めておきながら、 自分だけ激安品を買って来るというダブルスタンダード2枚舌に対し、 早速PCの神様の天罰が下された形だ。 (だっ、だってぇ〜、景気が上向いているのにボーナス支給額が...)

☆シュリンクダイとOC特性   
ところでPCマニアにとってメモリというとOC特性だが、今回はあえて違った面から メモリの評価を考えてみたい。 それは、すごく昔話になってしまうのだが...ある高OC耐性メモリの全盛期に 考えさせられる事例に出会った事を思い出したからだ。

たるさんがまだバリバリのオーバークロッカーだった頃の話である。 その当時、たるさんはメモリ・ハンターと化して、 某メーカーチップ搭載のメモリを追い続けていた。

そのメーカーの得意技はシュリンクダイ戦略であり、 当時もっとも高収益体質のDRAMメーカーとして知られていた。 記憶容量は最新世代ではないが、とにかくダイを小さく作ってSiウエハから 多くのチップを切り出すことでコスト競争力を高めたのである。

今ではシュリンクダイ戦略はよく知られているが、 当時としては画期的戦略であった。 当時はいかに他社に先駆けて最新世代の容量を実現するかだけで 競争力が決まると信じられていたからだ。

そのメーカーの名であるが... 今回はあえて伏せさせていただく。(理由は本文をお読みいただくとわかるはず。) が、当時を詳しく知る人ならば本文を読めば 「ははぁ、あれか!」とピンと来るはずである。

そのチップを搭載したメモリは当時オーバークロッカーの間で 最強のOC特性を持つことが知れわたっていた。 耳の早いショップなどでは××製チップ搭載品として プレミアを付ける所が現れたくらいであった。

当然、この手の嗅覚に優れたハンターたちが秋葉原を徘徊することになるわけであるが、 彼らに混じってたるさんもそのメモリを何とか手に入れることが出来た。 実際、OC特性にはすばらしいものがあり、 このメーカーの技術力に大いに驚嘆したものだった。

そして、購入後しばらくしてシュリンクダイ戦略のことを知ったのである。 その話を初めて聞いた時、のどの閊えが取れたような気がしたことを覚えている。 なぜ、このメモリのOC耐性が良いのか理由がまったく 分からなかったのであるが、シュリンクダイと聞いた瞬間に 簡単に理由が推測できたからだ。

CPUでは、ミクロンルールが上がってダイサイズが小さくなると、 高い周波数で駆動できるCPUが出来ることはよく知られている。 実は大雑把に言うとメモリも同じなのだ。 セルの設計技術が同レベルなら、製造技術に優れダイサイズが小さいチップの方が 高周波特性(OC耐性)が良いのは当たり前の話なのである。

☆シュリンクダイと信頼性   
と、ここまでならば当たり前の昔話なのであるが... この話には続きがあるのである

ある夜たるさんがいつものようにNET上を徘徊していると、 あるWeb記事が目に付いた。 それは、OC耐性が良くたるさんがその技術力を信じて疑わなかった そのメーカーのDRAMが、某一流パソコンメーカーから採用のための 認証が取れなかったという記事であった。

そのメーカのDRAMチップではデータエラー(たぶんbit反転の事だと推測される。)が 通常のロット変動値を超えて発生し、信頼性面で問題があると顧客の一部が判断したと言うのである。 当時のメモリメーカーの最高経営責任者だか技術責任者だか忘れたけれど、かなりのトップが 記者に品質に問題が無いのか鋭く問いただされていたのが印象に強く残っている。 (もちろんメーカー側はこれを強く否定。)

メモリのスポット価格は市場原理で乱高下するため、 安定顧客をどれだけ確保しているかは安定経営のための重要な指標となる。 例えば、メモリでサムスンが強いのはその部分の経営が非常に上手いからである。

その安定顧客を獲得できないという状況は経営の屋台骨を揺るがす事態である。 普通ならばそのような事態がチェック体制をすり抜けてしまうはずがない。

それで、それらに関する単語をキーワードに検索をかけて、 たるさんなりに事情を調べてみたのであるが、 おぼろげながら見えてきたのはシュリンクダイの欠点であった。

DRAMメモリというのは、一言でいうとコンデンサに電荷を蓄える事で 情報を記憶している。コンデンサの電荷はリークによって減ってゆくし、 電荷が少ないと宇宙線の影響でbit反転したりするから、 リフレッシュまでの時間を耐えられる静電容量が安定して確保されていなければならない。

ところが、シュリンクダイのマスクを作る際に単純にマスクの縮率を変えただけで シュリンクしたりすると、当然のごとく静電容量が小さくなって、 チャージの流出や宇宙線によるbit反転に耐えられなくなる。

静電容量は基本的にはセル面積(構造を含む)・誘電体厚み・材料の誘電率の 3つのパラメータで決まる。 (セル面積と誘電率には比例し、誘電体厚みには反比例する。)

シュリンクする際に基本設計を変えなければ 誘電率は変わらず、セル面積は大雑把にはミクロンルールの2乗で小さくなり、 厚みは1乗に比例して薄くなる。 だから何も考えないでシュリンクするとトータルでは容量が減ってしまうのである。

当然、基本設計を改良してコンデンサ部分の面積を増やし、 小さなセルでも安定稼働する静電容量を再確保しなければならない。 (もっとも、だからと言ってあまり大きく基本設計を変えるとシュリンクの意味が無くなってしまう。 全面改良は新規設計とあまり変わらない開発投資を必要とするからだ。この辺りのバランスはかなり難しそうだ。)

だが、実際にはそれがうまく行かず、チップはシュリンク出来たが十分な容量値の回復ができなかったという かなり確度の高い推測が成り立つのである。

まぁ、この推測が正しいかどうかは別として、 我々アマチュアがOC耐性だけを見て高技術力と信じて疑わなかったDRAMチップが、 信頼性を見るプロの厳しい眼の前では「問題有り」の判定を下されていたわけである。

☆プロの眼、アマの目   
この記事を見つけてからと言うもの、たるさん自身はメモリ周りのOCから 一時的に興味が遠ざかってしまったのを覚えている。 一種の虚脱状態と言っても良い。 ある種の反省というか、お間抜けぶりに対する自己嫌悪というか...

「高性能」って何だ...「信頼性」って何だ...う〜む。

自分自身が「高性能」と判断したものが、 「信頼性」と裏返しの関係にあったとは... オレってタダのおバカ?

性能評価は、まず信頼性が確保されてからはじめて始まるのであり、 スパコン開発でもこのような体制が取られている事を後に知った。 用途によってもある程度状況は変わるのであろうが、 不安定な挙動での瞬間最大風速的ベンチマーク結果にいったい何の意味があるのであろうか?

もちろん、このメモリは極めて高いOC特性を示し、ハングアップが頻発したわけでもない。 実際に使ってみて特に信頼性に問題があるようには見えなかったのは確かである。 しかし、逆にその「問題の無さ。」こそがプロの信頼性に対する見解の厳しさを強調しているとも言える。 厳しい検査でしか発見できないようなわずかな問題点でも認証禁止につながるわけである。

「OC耐性が高いメモリは技術力も高いハズ。」という経験知の哀れな末路... 電源問題で見られるような当サイトのシステム安定志向、そして経験よりも論理を重視する 姿勢(ただし、実力は伴わず)はそこから始まったような気がするのである。

まあ、ベースがお間抜けなタコだから、論理重視なんて偉そうなこと言っても、 正直に言うと本当は勉強は進んでいませんけどね。(^^;)

そう言えば、さいとうたかおの人気マンガ「ゴルゴ13」で、 こんなエピソードがあったっけ。

某銃器メーカーが最新鋭の高性能突撃銃を凄腕傭兵に持たせてゴルゴ13と戦わせる。 ゴルゴ13を倒すことで新型突撃銃の性能を世に知らしめようというのである。 が、ゴルゴ13は今となっては旧式の部類に入るM16A1を愛銃として使い続けていた。

ゴルゴ13の対応は使用銃を最新型にする事ではなく、世界最高の腕を持つスイスの武器職人に 極限の精度を持つバレル(銃身)を作らせ、枯れた改良型M16A2に移行するというものであった。 新型突撃銃の「高性能」よりも、枯れた改良型の「信頼性」を選択したのである。

作品中で最後に勝利したのがゴルゴ13である事は言うまでもない。

メモリの認証を避けたPCメーカーの採用担当技術者とメモリメーカーの技術者の姿勢は 対照的だ。どちらがプロらしいかは言うまでもない。 そして、OC耐性に優れたそのチップを「優秀」と判断した当サイトの腕前も... まさに、自分自身に苦笑である。

プロの眼はアマの目を凌駕する。「信頼性」は「高性能」より優先する。 真のプロフェッショナルとはそう言うものらしい。