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 基本文献表、講義プリントをまとめたキリスト教思想入門や京都大学の講義での配布プリントが嬉しい。こうした初歩的な資料、いわばとっつきやすい資料の存在が一般にはなじみの少ないキリスト教思想への敷居を低くしている。とはいえ、中心となるのは長年の研究対象であるP. ティリッヒ。芦名さん自身の言葉を借りれば、「20世紀のプロテスタント・キリスト教思想を代表する思想家の一人」(研究紹介1)だ。研究ノートや文献紹介には、このティリッヒの名前が随所に見受けられる。だが、圧巻は学位論文「P. ティリッヒの宗教思想研究」の公開だろう。これは1994年に文学博士の学位を取得したときの学位論文。全三部のうち、公開されているのは第二部の相当部分となる。前後の第一部と第二部は加筆の上でそれぞれ『ティリッヒと現代宗教論』(北樹出版、1994年)、『ティリッヒと弁証神学の挑戦』(創文社、1995年)として公刊されており、第二部についても原文のままでの公刊はないという。これが第二部の原本を公開する一つの動機のようだ。隣接分野の研究者にとっては、この上なく喜ばしい決断だろう。研究紹介の欄では研究対象が詳しく語られ、広範な研究内容の理解を助けてくれる。ただできれば、なぜティリッヒなのかという説明、そしてティリッヒという人物についての概説が欲しい。ある百科事典によれば、ルター派の牧師の子としてドイツに生まれ、第一次世界大戦に牧師として従軍し、ナチズム批判により追放され、アメリカに移住・帰化したという。このような経歴、たとえば亡命知識人としての経歴は、ティリッヒへの関心をより呼び覚ますのではないだろうか。(2003-02-11記)


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