「私が私である」ということ。ぐっと引き寄せられる人と思わず身を引いてしまう人とに分かれるだろう。だが、そのどちらにも与せず、好き嫌いを抜きについていこう。「『私が私である』ということがどのように成り立っているのか、その社会的な基礎について比較社会学的に考察する」という発信者の関心はそうするだけの魅力がある。自らについて語る「物語」つまり「自己物語」を通して、私つまり自己が表出する。そう考える発信者の試みは、「家族療法の物語論的転回」（『東京学芸大学紀要 第三部門』46、1995）、「家族療法における権力」（『東京学芸大学紀要 第三部門』47、1996）等として発表され、その一部はここで本文が公開されている。なかでも家族療法の物語論を社会学的に読み換えたのが、『自己への物語論的接近』（勁草書房）。書名でネットを検索してみると、著者本人を招いた合評会が催される等、かなりの反響を呼んだことがうかがえる。こうした一連の反響への発信者の応答が語られれば、いっそう魅力的な発信になりそうだ。（2002-06-17記）