高校生の頃、世界史要覧に載っていたモンゴル帝国の版図に衝撃を受けた記憶がある。洋の東西を結ぶその広がりに「世界史」を実感したものだ。しかし、その後、モンゴル帝国への関心はチンギス・ハーンとフビライ・ハーンで完結している……。
それだけに、ここで公開されている資料の数々には目を開かされる。目録や文献案内に冠せられた北カフカース、グルジア、ヴォルガ・ウラル、内陸ユーラシアといった地名からして既成の観念を覆すに十分だ。ひとくくりにしてしまいがちなモンゴル帝国が実に多様性に富んだ世界であったことに気づかされる。
さて公開されている研究用途の資料は、インターネットの利点をよく生かしている。「『集史』を読むために必要な語彙」は、イラン史学史上の最高傑作とされる『集史』の理解を助けるもの。『ペルシア語辞典』(黒柳恒男著、大学書林、1988年)未掲載のものを中心に作成したということで、紙メディアの不足を補っている。チンギス・ハンの第二子チャガタイの裔系譜資料『勝利の書なる選ばれたる諸史』「チャガタイ紀」の校訳にも注目したい。世界初訳をうたうだけではない。埋め込まれたリンクをたどることで、チャガタイに連なる家系を縦横に行き来できる。リンクという機能と出会うことで、紀伝体という手法が得る可能性の大きさを感じることだろう。(2002-02-24記、2002-03-25補)
[追記]
公開日や人名の書き方について、公開後、赤坂恒明さんご本人からのアドバイスにより修正した。赤坂さんのご厚意に感謝したい。(2002-03-25記)