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赤尾美秀さん(あかお・よしひで/トーマス・マン研究)
Akao Yoshihide HP<http://www.seinan-gu.ac.jp/~akao/>
公開日:1996-04-??

 1996年の4月に開設されただけあってシンプルな構成。日本のゲーテ研究論文リストや対訳が附されたモーツァルト、シューベルトの歌曲もあるが、それでもまず最初に目を引くのは、バリエーションの豊富なトーマス・マン文献リストだろう。著作や研究文献を列記した一般的な文献リストの大きさに圧倒され、作品別、テーマ別、翻訳作品別といった観点で再整理・再分類された文献リストの広がりにトーマス・マン研究の奥深さを感じさせられる。
 しかし、一人の作家と向き合う醍醐味を味わうにはさらに先に進みたい。マン関係の文献リストの次にあるカール・ケレーニイの著作目録がその糸口になる。「ギリシア神話に人間のモデルを見ようとした古風なヒューマニスト」と発信者が表現するケレーニイは、マンと同時代を生きた古典神話と宗教史の研究者。後に往復書簡集として公刊されるほど、二人は濃密なコミュニケーションを続けていた。二人が交わした書簡のうち、マンがケレーニイに送った23通がここで公開されている。最初はドイツから、後にアメリカから、ケレーニイ宛てに発せられたマンの書簡を読み進めていこう。そこからは自身とケレーニイが「一種の共同作業」を進めていると感じるほど、マンがケレーニイを近しく感じているさまが浮かび上がってくる。それだけではない。ナチスの台頭からヨーロッパの危機まで、次第に変わっていく世の中をマンがどのように理解していたのか、またその理解がどのように変化していったのか、そして実際にどう行動していったのかも浮かび上がってくる。
 マンとケレーニイの交流も、マンの「アメリカ亡命」も、百科事典や教科書では無機質に還元された情報、断片化された単語に過ぎない。しかし、この23通の書簡からは、情報や単語のおおもとにある等身大のマンがよみがえってくる。作家はその作品だけで論じることもできる。またそれが意味を持つことも少なくない。しかし、同時に作家と作品をその生まれた時代、生きた時代と重ね合わせて論じることもできる。そしてその意味もまた小さくない。23通の書簡からは一人の作家と向き合うことで得られる世界の大きさや広がり、深まりが伝わってくるはずだ。(2002-03-18記)


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