ここでは、ICU Press 期成会が、国際基督教大学の常勤教員(1997年12月18日時点)の方々に行ったアンケートを編集して、出版した冊子『読書アンケート 1997』を公開しています。WWW上での公開をご承諾くださった教員の方々に御礼申し上げます。
なお、公開されているすべての文章には著作権があり、これは個々の筆者に属するものです。
また『読書アンケート 1997』には編集著作権があり、これはICU Press 期成会に属するものであることを主張します。
無断転載等、著作権・編集著作権を侵害することのないようにお願いします。
Hyper Text Linkの考えに則りリンクフリーとしますが、フレーム内での使用に際しては、URLの明記等慎重な配慮をなされるよう希望します。
先生が本年中(1997.1.1〜1997.12.31)にお読みになられた(なられる予定の)書籍のなかで,次の条件に適うものを三冊を限度にご回答ください。
1.最近5年間に公刊されたものであること
2.特に印象的(impressive)かつ刺激的(stimulating)であったこと
3.本学の学生に一読を勧めるに値するものであること
(人文科学科/助教授/フランス文学)
1 石川美子著
『自伝の時間』
(中央公論社、1997年)
副題に「ひとはなぜ自伝を書くのか」とあるように,自伝という形式に的を絞りながらも,より広く,ひとはなぜ書くのか,という文学の根本的な問いを,筆者は己れに課している。その静かな筆致と,人間の生へ肉迫する眼差との織りなす音楽的な思考の世界は,一種スリリングでさえある。
(国際関係学科/教授/国際法・国際経済法)
1 ダニエル・ペナック著/浜名優美他訳
『奔放な読書 本嫌いのための新読書術』
(藤原書店、1993年)
この本は、読書したいが、本は最初から最後まできちんと読まなければと思う脅迫観念的読書法にとらわれた人たちや読書とは何かを新たに問う人に薦める本。副題が奔放な読書法の10ヶ条というとおり、これを読むと諸君はどうしてか本好きになるという、フランスでベストセラーとなった謎の本。しかし作者が「本を読む時間は、愛する時間と同じように、人生の時間を広げる」というように、これは人生の書でもある。
2 マルク・フェロー著/大野一道訳
『新しい世界史 全世界で子供に歴史をどう語っているか』
(新評論、1990年)
3 別枝篤彦著
『戦争の教え方 世界の教科書に見る』
(新潮社、1986年)
4 謝世輝著
『世界史の変革 ヨーロッパ中心史観への挑戦』
(吉川弘文館、1988年)
いずれも古いが図書館にもありまた古本屋で見つかることがある。古本屋を歩くのも読書の1つ。前2書は各国の学校は戦争をどう教えているかが主題。それを通して日本人の歴史感覚の鈍感さを教えられる。第3書は西欧史中心の歴史観を修正して世界史の新たな認識方法を教えてくれる。いずれも国際社会に新たな目を開かせる有意義な著作。
5 フェルナン・ブローデル著/金塚貞文訳
『歴史入門』
(太田出版、1995年)
1976年にジョン・ホプキンス大学で「物質文明と資本主義・再考」として講演したもので、ブローデルの名著『物質文明・経済・資本主義』の入門書でありまた、彼の代表作『地中海氈`」』(いずれも読み出したら大学四年はかかりそうな大部の挑戦の書)をよりよく理解するためにも良い。歴史という時間の中に空間を導入し、その歴史分析から我々は生きる意義さえ教えられる。
以上、主に歴史書を挙げたが、歴史こそ全ての学問の母である、従ってアメリカではHIS-STORYはHER-STORYといわれている?
(教育学科/準教授/社会心理学)
1 宮城重二著
『女性はなぜ長生きか 長寿に学ぶ健康のコツ』
(講談社ブルーバックス、1996年)
楽しく読むことができる。沖縄が好きな人ならさらに楽しい。男性の弱点としての社会的適応性という文言もなぜか印象的である。
2 長尾 剛著
『漱石ゴシップ』
(文藝春秋、1997年)
作品を通してさまざまな漱石像が提示される。意外とも思える面もある(題名のつけ方など)。漱石をとり巻く人間模様も興味深い。
3 中丸 明著
『絵画で読む聖書』
(新潮社、1997年)
時折開いてみたくなるような……。
(国際関係学科/教授/国際報道論・アメリカ研究)
今回は、アメリカ研究の視点から、次の3冊を選んでみた。
1 ジョン・K・フェアバンク著/蒲地典子・平野健一郎共訳
『中国回想録』
(みすず書房、1994年)
アメリカの中国研究の泰斗の50年にわたる中国との関わりの記録。研究者の自伝であるとともに、第2次大戦前から戦後にかけてのアメリカのアジア観の軌跡でもある。
2 ジョージ・ケナン著/関元訳
『二十世紀を生きて ある個人と政治の哲学』
(同文書院インターナショナル、1994年)
ソ連「封じ込め政策」の生みの親とされるケナンには、戦後アメリカ外交に関する大部の回顧録があるが、それとは別に、これは89歳(1993年)の時に書いた彼の人間観、アメリカ論。ややペシミスティックに展開されているが、アメリカの最高の知識人の一人の思索を知るのに格好の書。
3 ロナルド・タカキ著/阿部紀子・石松久幸共訳
『もう一つのアメリカン・ドリーム ―アジア系アメリカ人の挑戦』
(岩波書店、1996年)
これは原著の抄訳だが、通常のアメリカ史に登場しないアジア系アメリカ人の夢と苦闘の歴史。多文化主義の見地から書かれた下からの民衆史、社会史である。意欲ある人は原著を読むにこしたことはない。
(国際関係学科/教授/国際協力・国際行政)
国内外を問わず、優れたリーダーシップが不足している今日、社会の閉塞性、忍びよる世紀末的風潮、不透明感、不安定性などが相まって、このままでは世界は螺旋を描きながら沈下して行くのではないかとの懸念が広まっているようだ。これらの趨勢の背後にあるものを知り、市民として、新しい社会と世界の構造をどう考え、どう創って行くか、その可能性を模索するのに、次の書物は役立つのではないか。学生諸兄姉に薦めたい。
1 坂本義和著
『相対化の時代』
(岩波新書、1997年)
世界秩序の4つのディメンション、すなわち国際組織、国家、市場、市民社会の力学を分析し、人間の尊厳と平等権をその正統性の根拠とする市民社会の課題を見事に論じている。
2 古瀬幸広・広瀬克哉著
『インターネットが変える世界』
(岩波新書、1996年)
イワン・イリイチの「コンヴィヴィアルな道具」を実現しようとしてパソコンとインターネットを育ててきた人々の思想と行動に焦点を当て、インターネットがもたらす情報共有や、多元的共生への可能性と政策課題をわかり易く伝えている。
3 Graham H. May.,
"The Future Is Ours
: Foreseeing, Managing and
Creating the Future"
(Westport, Conn. : Praeger, 1996)
21世紀を政策思考の対象としようとするものにとって大変示唆に富んでいる。2、3のポイントを拾ってみると、
歴史は与えられるものでなく、人間がつくるもの。
さまざまなディレンマが増加している現在、未来予測はますます困難であり、だからこそ予測方法の改善は急務。
経験的に云って、皆が願望する未来予測の方が、皆が望まない未来予測より現実になりやすい。
著者は英国Leeds大学で国際経営、都市計画、環境政策の講座を担当し、未来研究会
U. K. Futures Group の主要メンバー。
4
"Foreign Affairs:
75th Anniversary 1922-1997"
(Sept./Oct. 1997)
"The World
Ahead"と題するこの特集号には、政治、経済、コミュニケーション、文化の各分野の論文14本が掲載され、巻末には過去七五年間に出版された「最も傑出した書物」約七〇冊が各分野の著名な学者、専門家により選ばれ書評がなされている。
大きな歴史的変容の時代に近未来を展望する論文の多くのものは、新しい題材を扱いながらも、伝統的な地政学的、国家中心的アプローチを維持しているのが興味深い。一寸不思議な気もする。
(理学科/前教授・現非常勤講師/物理学)
1 轡田隆史著
『「考える力」をつける本』
(三笠書房、1997年)
考える力や物事を見つめる態度を養うことの必要性は言うまでもありません。軽く読みきれるのに見過ごすわけにはいかない本だと思います。
(語学科/助教授/英語教育)
1 Crystal, David.
" The Cambridge
encyclopedia of the English language"
(Cambridge [England] ; New York : Cambridge University
Press, 1995)
言葉っておもしろい、人間っておもしろい、ということを再確認させてくれる。ヨーロッパの辺境だったブリテン島の言語が国際語にのしあがってゆくプロセスもよく分かる。英語学のデパートのような、読んで、眺めて、楽しめる本。
2
"The Oxford English
Dictionary. 2nd ed, CD-ROM"
(Oxford: Oxford University Press, 1994)
一九八九年全面改訂になったOEDの、CD-ROM version。前書きを読むだけで、英語史、英語書誌学の流れ、学問と現代文明との関わりが分かるし、ひとつひとつの単語の歴史、語源、意味、用例を見るのも興味深い。 CD-ROMなので、いろいろな操作で簡単に検索できる。自分が生まれた年に生まれた単語をみつけたり、特定の作家の用例をリストにしたり、日本語からの借用語をリストにしたり、遊ぶのもおもしろい。図書館一階のコンピュータに入っている。
3 Lord, Albert Bates. Mary Louise
Lord. ed.,
"The singer resumes the
tale"
(Ithaca and London: Cornell University Press, 1995)
言葉で遊ぶ、言葉を芸術の高みに昇華させる人間のわざ、またそれが書き言葉なしにも充分可能であり、むしろ文字がない方が人間は言葉の芸術に長けるのかもしれないと思わせる本。またフィールドワークによって言語データを集めることの大切さも知ることができる本。
(社会科学科/教授/日本政治思想史)
1
『宮田光雄集〈聖書の信仰〉』全七巻
(岩波書店、1996年)
40年以上学生と生活を共にして、聖書を学び読書会を続けて来た政治学者の、数多く多方面にわたる著作のエッセンス。
2
『藤田省三著作集』全10巻
(みすず書房、1997〜1998年)
このシリーズの『全体主義の時代経験』が出た時、私はそれを「世俗化された終末論」と評した。そこには現代への、他に類を見ない深い批判と、しばしば見逃されるのだが、一種の終末的希望とが語られている。法政大学の成澤光氏は、「長年同じ職場で身近に接した俗物キリスト教徒である評者をしばしば恥入らせた……高貴さが著者の中には確かにある」とのべているが、それは学生時代から著者を知っている私の思いでもある。
3 川田悦子著
『龍平とともに 薬害エイズとたたかう日々』
(岩波書店、1997年)
川田龍平君のお母さんの手記。多事多難な日々の連続の中で、驚くほど多く読み、深く考えていられるのに感動した。私のクラスにお招きしてお話をうかがいたいと考えている。
(理学科/講師/生物学)
1 カール・セーガン、アン・ドルーヤン著/柏原精一他訳
『はるかな記憶 人間に刻まれた進化の歩み』(上・下)
(朝日新聞社〈朝日文庫〉、1997年)
著者は、一昨年急逝した有名な宇宙科学者夫妻。いろいろな観点から、人間というの存在を見つめ直す著書を書いている著者が、この本では、近年の動物行動学、霊長類学等の成果を概説し、人間が如何に動物と異なっていないか、(或いは、異なっているか)を問いかける。
2 シーオ・コルボーン他著/長尾 力訳
『奪われし未来』
(翔泳社、1997年)
豊富な科学文献、データの調査を元に、ごく微量な化学物質が生物の生殖機能に如何に深刻な影響を与えているかを明らかにした著書。1960年代に、それまで使い放題であった農薬の危険性をあきらかにした
・カーソンの世界的な名著『沈黙の春』の再来と言われ、アメリカを初め各国で大きな反響を引き起こしている。排水の汚染規制値より遥かに微量の化学物質によって、人間を初め、多くの生物の繁殖に深刻な影響が既にでていることが明らかにされてゆく。本書の内容ではないが、東京でも、多摩川のコイの多くが繁殖能力を失っており既に手遅れとの調査結果もある。訳文にかなり問題点が指摘できるものの、本書が問いかける内容は他人事ではないだけに深刻である。
3 レイチェル・カーソン著/上遠恵子訳/森本二太郎写真
『センス・オブ・ワンダー』
(新潮社、1996年)
題名の「センス・オブ・ワンダー」は、"自然の不思議さに驚きの目を向けることのできる感性"とでもいえるもの。農薬の危険性を告発した『沈黙の春』の著者が、自然の美しさ、それを感じることの大切さを最後に書き残したメッセージ。特に、現在或いは将来、子供を育ててゆく若い世代の人には是非読んで欲しい1冊である。ICUの卒業生の写真家、森本二太郎氏の美しい写真が随所に挿入されている。
(人文科学科/準教授/宗教学)
1 エルンスト・カッシーラー著/中野好之訳
『啓蒙主義の哲学』〈新装復刻版〉
(紀伊國屋書店、1997年)
原著は1932年、翻訳初版が1962年。今年それが復刻された。「おそらく真の啓蒙主義をもちえなかったこの国の……」という訳者あとがきの一言に、この本を読むことの意義が示されている。哲学や神学は、啓蒙主義がわからないとその近代的な由来が理解できない。特に第4章「宗教の理念」は、こんにちにも及ぶ啓蒙主義的な宗教理解の源泉と特徴をよく解明してくれる。ただし、わたし自身はこの理解に留保がある。
2 金子晴勇編
『人間学 その歴史と射程』
(創文社、1995年)
わたし自身もお世話になった創文社の古参編集者が言うには、最近はもう誰々先生が退職するから記念献呈論文集を出そう、などという時代ではない。出ているのは寄せ集めの作文集ばかりである。しかし、この本くらいに程度が高ければ、やはり出す価値はある、とのこと。中身を読んで納得できる。執筆者にはわが並木浩一先生も入っている。なお、「人間学」という言葉は、金子氏の一連の著作名にかけてあるが、実際には「哲学」の一分野をなるべく現代の若者に読んでもらえそうな題に言い直したもの。
3 Jonathan Edwards,
"The "Miscellanies,"
a-500: The Works of Jonathan
Edwards, vol. 13"
(Yale University Press, 1994)
エドワーズ決定版全集の第13巻で、初期エドワーズの自然哲学的な論考ノートを、ある学者が文字通り生涯をかけて編集したもの。この時代の知的精神は、神学も哲学も科学もみな一緒くたになって新しい世界理解を生み出そうと苦闘していた。エドワーズは、しばしば「ロックとニュートンの上に鋳直されたピューリタン」と言われるが、この本を読むと、ニュートンというよりむしろアインシュタインと同時代人であったことがわかる。
(社会科学科/教授/行政学)
1 R・E・ニュースタット、E・R・メイ著/臼井久和他訳
『ハーバード流歴史活用法 政策決定の成功と失敗』
(三嶺書房、1996年)
大統領研究の権威ニュースタットと外交史家のメイによる、ハーバード大ケネディー・スクールでのアメリカ政治行政外交史の実践的利用に関する講義をまとめたもの。原著は"Thinking
in
Time"と洒落た題だが、やや無粋な日本語タイトルになっている。しかし内容そのものは研究・教育面で多大な刺激に満ちていた。E・H・カーのいう「過去と歴史家との対話」のためのよき手引き書。
2 M・S・ペック著/森英明訳
『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学』
(草思社、1996年)
ベストセラーとなって方々で言及されているので躊躇したが、これまで同様ペックの著作は人間への深い洞察と類稀なる誠実さで貫かれており、挙げずにはいられない。またくり返し読み返さずにはいられない。ただ、日本の読者がどういう読み方をしているのか、周囲の人間を裁くために使われているのではと、気になる。自己との対話のためにこそ味読したい。
3 野本陽代、R・ウィリアムズ著
『ハッブル望遠鏡が見た宇宙 カラー版』
(岩波新書、1997年)
昨夏国立天文台の近くに引っ越し、寝室に天窓があり、ヘール・ボップ彗星騒ぎもあって天文学者の友人もでき、映画「コンタクト」を見たりで、星や月に親しむようになった。一億光年向こうの太古の銀河や星雲のカラー写真も劇的だが、人類の夢だった大気圏外のハッブル望遠鏡が球面収差とやらの初歩的ミスで宇宙の高価な粗大ごみ化しそうになりかけ、しかし3年後スペースシャトルの35時間に及ぶ船外活動で何とか修理が成功し、今鮮明な映像が見られることの方にもドラマがあり、なかなか見飽きない。夜空との対話を誘う。
(教育学科/教授/国際・比較教育)
1 Edgar Faure et al.,
"Learning To
Be: The World of Education Today
and
Tomorrow"
(UNESCO 1972 )/平塚益徳訳『未来の学習』第一法規
2 Jacques Delors et al.,
"Learning:
The Treasure Within"
(UNESCO
1996)/天城勲監訳『学習 秘められた宝』ぎょうせい
上記の2冊の本はユネスコの設置した国際教育開発委員会の報告書である。前書は1970年以降の教育の発展に大きく寄与し、これまでの教育観を「教える」ことから「生涯を通して学ぶ」ことに重点を変えた。一方、後書は21世紀に向けた新しい4つの教育の視点をあげている。両書を一緒に読むことを勧める。
3 Samuel P. Huntington,
"The Clash of
Civilizations and the Remaking of World Order"
(Simon&Schuster 1996)
海外に永く住むと、なぜ日本が独り善がりの孤独な存在かよく分かる。この著書は、そうした問題を文明の衝突という視点から見ており、頷けるところが多い。
(国際関係学科/教授/国際関係論)
1 坂本義和著
『相対化の時代』
(岩波新書、1997年)
ICUの学生は断片的知識はそこそこ持っているが、それらの知識を統合する枠組は弱いように思われる。無意識に流行の枠組に囚われている人もいる。さまざまな思想や枠組を検討した上で1つの選択をするのならよいのだが、そのような検討を経ずに流行の思想を当然のものとして受け容れている人が多いのである(もっともこれはICU生に限らないであろうし、一般教育科目や基礎科目で私が接する機会が多い1、2年生の印象に引きずられているかも知れないが)。
私の考えではこの問題点は、ICU生が歴史や思想について充分学び、考えていないことと関係がある。本書は歴史と思想に深い洞察を持つ国際政治学者が著した、現在の世界の変動の意味を明らかにしようとする試みである。著者の主張のすべてに賛成するかどうかはともかくとして、思考が刺激され、今の時代を考察するヒントが与えられることは請け合いである。
2 山本信人他著
『東南アジア政治学 地域・国家・社会・ヒトの重層的ダイナミズム』
(成文堂、1997年)
東南アジアについてよくできた教科書だと聞いて買ってみたら、なるほどよくできている。叙述は平明であるが、単なる描写にとどまらない鋭い分析が随所に見られ、入門書としては最適ではないか。まだあまり有名でない30代の若手5人の共著であり、有名な出版社でもないので、売れるかどうかが心配。応援の意味も込めて推薦したい。
3 Ted Robert Gurr et al.,
"Minorities at
risk : a global view of
ethnopolitical
conflicts"
(Washington, D.C. : United States Institute of Peace Press,
1993)
研究のレベルの高さに圧倒されてしまう本がある。ここに紹介する本もその1冊に数えてよいであろう。この本の場合に圧倒されるのは何よりも膨大な作業量である。それを可能にしたのはチームによる作業であるが、日本の社会科学・人文科学ではこの種の真の意味での共同研究はきわめて少ない。また、数量化しにくい現象をあえて数量化して分析する際の方法論も参考になる。もちろん、具体的な結論も非常に示唆に富む。民族紛争を系統的に分析した研究として、必読であろう。
(語学科/教授/フランス語学・言語学)
1 国広哲弥著
『理想の国語辞典』
(大修館書店、1997年)
何冊かの国語辞典を取り上げて、それらの意味記述を検討し、著者の理想とする辞典記述を提言する。たとえば、「あと」と「うしろ」、「風景」と「光景」はどう意味が異なるのか。日本語の意味の世界に誘ってくれる絶好の書。
2 松原秀一著
『フランスことば事典』
(講談社学術文庫、1996年)
同じ著者の『ことばの背景』(1974年)と『危ない話』(1979年)を1冊にまとめ、加筆・修正したもの。アイウエオ順になって、引きやすくなった。
「パン」、「にわとり」など約90のフランス語の単語を歴史的・文化的に紹介しているが、中には、「蝶」と「蛾」はいずれもフランス語では
papillon に相当し、基本的には区別がない(英語では butterfly / moth
)、というようなことも出ていて興味深い。
3 新約聖書翻訳委員会編集
『新約聖書氈`」』
(岩波書店、1995〜1996年)
文語訳はたしかに格調高いが、もはや古めかしくなってしまった。今回の翻訳はギリシア語原典に忠実で、新鮮かつ具体的なイメージでイエスの生涯を喚起してくれる。ページ下の注も示唆に富む。新約聖書を未読の人にも、従来の版に親しんだ人にも薦めたい。
(理学科/前教授・現客員教授/情報科学)
1 村井 純著
『インターネット』
(岩波新書、1995年)
著者はインターネットの日本での牽引車である。人間活動の新しいインフラストラクチャとしてのインターネットの原理と意味を、自らその構築に携わり、問題の解決にあったったいろいろな角度から論じている。
2 佐伯 胖著
『コンピュータと教育』
(岩波新書、1986年)
3 佐伯 胖著
『新・コンピュータと教育』
(岩波新書、1997年)
"教育とは何か"という問を考える中からコンピュータの持つ意味を見いだそうと試みたもの。「新…」は、更にコンピュータの教育での活用の意味、インターネットの持つ意味について及んでいる。
4 D・C・リンドバーグ他著/渡辺正雄監訳
『神と自然』
(みすず書房、1994年)
ICUの科学史研究センターの事業として出版されたものである。本書の紹介は監訳者である渡辺正雄先生にしていただくのが最も適切であろう。どなたかが本書を推薦なさると思うが、もしもれるといけないので挙げておく。
(語学科/教授/日本語学)
1 吉田智行著
『日本語は世界一むずかしいことば? 日本語と世界の言語』
(アリス館、1997年)
私たち日本人は、自分の名を飛田+良文(姓+名)とするが、英語で書くと、Yoshifumi
Hida(名+姓)とする。いったい世界中の言語で、どちらが多いのか。こうした素朴な疑問から、ことばの本質にせまる言語学の入門書。子ども用であるが、大人も十分楽しめるレベルの高い本。
2 飛田良文編著
『日本語文章表現法』
(白帝社、1997年)
人は何のためにことばを書くのだろうか。第1は必要な情報を忘れないためメモする。第2は遠くの人に伝えるため手紙を書く。第3は自己の存在証明のため、レポート・論文・小説・評論などを書く。後世に伝えるためである。第四は考える手段として書く。自分の考えを客観化し、整理し、分類して、考えを発展させるためである。書けない人の要望に応える、パソコン、ワープロ時代の新文章読本である。
3 吉田 孝著
『日本の誕生』
(岩波新書、1997年)
日本国家の成立を、東アジア世界の中でみつめる興味深い文化史。国号問題・天皇制・家の制度など。「日本」国家が成立して、われわれ日本人、日本語の問題が生ずることを、改めて考えさせられる。
(人文科学科/教授/宗教学・聖書学)
1 小浜逸郎著
『オウムと全共闘』
(草思社、1995年)
オウム真理教事件をどう考えるか、あるいはこの事件が産出した言説をどう考えるかは、現代日本に対する自己の思想的スタンスを決めると言ってよいだろう。吉本隆明氏などの知識人の発言と心情とを批判的に吟味した本書は読者に判断の確立を迫る。
2 正村俊之著
『秘密と恥 日本社会のコミュニケーション構造』
(勁草書房、1995年)
「恥の文化」を社会意識の観点から鋭利に分析し、日本人の心性の特質を提示する。自然と作為の関係の解明などから啓発されることが多い。
3 溝口雄三著
『公私』〈一語の辞典〉
(三省堂、1996年)
中国思想の専門家が、中国と日本における「公」と「私」の概念の差異を長年の研究に基づいて、古代から現代に到るまでの歴史的パースペクティブの中で簡潔的確に論じた好著。
(人文科学科/教授/日本文学)
今回は廉価で軽便な文庫本や新書判を3点挙げる。
1 日本戦没学生記念会編
『新版 きけわだつみのこえ 日本戦没学生の手記』
(岩波文庫、1995年)
どんな本かは解説するまでもないが、今日の平和と繁栄にこうした先人の尊い犠牲のあったことは永久に忘れてほしくない。特に両親、若妻、幼な子など家族に宛てた書状などは、涙なしには読めない。
2 沼野充義著
『屋根の上のバイリンガル』
(白水社〈白水 ブックス〉、1996年)
これは反対に軽く読みとばせる本だが、英語しか外国語を知らない多くのICU生に、この本に指摘されているような異文化コミュニケーションやバイリンガリズムの問題を考えることを期待する。著者はNHKラジオのロシア語講師もしていたが、ポーランド文学専攻のスラヴィスト。
3 阿部悦生著
『ケンブリッジのカレッジ・ライフ 大学町に生きる人々』
(中公新書、1997年)
英国の名門ケンブリッジ大学の教育と研究はどのように行われているか、外部からはわかりにくいカレッジ(学寮)生活のあれこれを、最近の留学経験に基づいて述べた本。ICUとは大分違った大学と大学生活もあることを具体的に知り、考えてほしい。
(教育学科/準教授/教育学)
1 中島恒雄著
『できなかった子をできる子にするのが教育 私の体験的教育論』
(ミネルヴァ書房、1997年)
教育者の「姿勢」が問われる内容である。
2 尾木直樹著
『現在(いま)を生きる中・高生 心の居場所を求めて』
(日本書籍、1996年)
問題をかかえる中高生の姿から教育のあり方を反省し考えさせられる。
3 真野一隆著
『日本における宗教教育の可能性 キリスト教主義学校の明日に向けて』
(キリスト新聞社、1985年)
今日のキリスト教主義学校はキリスト教教育の原点に立ち帰る必要と、時代の変化への対応という大きな課題を抱えている。共に考えてみる必要がある。
(社会科学科/教授/人類学)
1 モーリス・レナード/坂井信三訳
『ド・モカ メラネシア世界の人物と神話』
(せりか書房、1990年)
「パラダイムが違う」ということを、体験させてくれる本。
2 ウルリッヒ・ベック他著/松尾精文他訳
『再帰的近代化 近現代における政治、伝統、美的原理』
(而立書房、1997年)
伝統と近代という二元論を超越するための現代的な手がかりを提供してくれる本。目から鱗が落ちます。
3 Coleman, James S.,
"The Asymmetric
Society"
(Syracuse University Press, 1982)
4 Scheffler, Israel.,
"Science and
Subjectivity"
(Hackett Publishing Company, 2nd ed. in 1985)
(社会科学科/教授/歴史学)
1 村井章介著
『海から見た戦国時代』
(ちくま新書、1997年)
史料を引きながら日本中世の海事史を書いている点でユニーク。日蘭、日清の研究はあるが、「海の日本史」をきちんと書いている。
2 網野善彦著
『日本社会の歴史』
(岩波新書全三冊、1996〜1997年)
3 大木 康著
『明末のはぐれ知識人』
(講談社選書メチエ、1995年)
郷紳の具体像を書いている。肩の凝らない読書。
(社会科学科/準教授/歴史学)
1 マルク・ブロック著/讃井鉄男訳
『歴史のための弁明 歴史家の仕事』
(岩波書店、1956年)
現代の歴史学に革命をおこした雑誌『アナール』創設者のひとりマルク・ブロックの書。ユダヤ人としてレジスタンス運動に身を投じ、ドイツ軍によって銃殺されたこの稀有の歴史家のことばに、是非耳を傾けて欲しい。「パパ、歴史は何の役に立つの?」という少年の問いに、彼はその学識のすべてを傾けて、平易にこたえようとした。学者として、そしてまた人間としての誠実さに心打たれる。私は歴史を学びはじめたとき、この書に出会うことができ、幸いであった。
なお、原著はBloch, Marc Leopold Benjamin., "Apologie pour
l'histoire ou metier d'historien" (Paris: Librairie Armand Cdzn,
1949)
(社会科学科/教授/政治思想史)
1 Ernest Gellner.
"Conditions of
liberty : civil society and its
rivals"
(New York: Allen Lane/Penguin Press, 1994)
新しい市民社会論が今、欧米諸国で議論されている。そうした中で本書は、すぐれた洞察と思索をたたえている好著として評価が高い。1950〜60年代のわが国の「市民社会論」(内田義彦氏、高島善哉氏、平田清明氏など)と比較検討してみるのも、興味ぶかい課題。
2 C. Douglas Lummis.
"Radical democracy"
(Ithaca: Cornell University Press, 1996)
C・ダグラス・ラミスでないと書けない「ラディカル・デモクラシー論」。「ベ平連」にみられる60年代、70年代の日本での市民運動への著者のかかわりも、本書の背景にあると考えてよいであろう。今日の世界におけるデモクラシーの理論的および実践的意味に関心のある向きには貴重な著作。
3 加藤 節著
『南原繁 近代日本と知識人』
(岩波新書、1997年)
近代日本の政治哲学者南原繁の個人のintellectual
historyが、近代日本それ自体のintellectual
historyを、一面、独特の仕方で映し出していることに興味をおぼえた。
(語学科/教授/言語学)
1 Ma Bo,
"Blood Red
Sunset: A Memoir of the Chinese
Cultural
Revolution"
(Penguin, 1995)
As I believe reading the literature of a country can help me
understand its vulture and ways of thinking, I read Ma Bo's memoir of
his experience during the cultural revolution. His very honest and
straightforward account was an eye-opening experience.
2 Su Tong,
"Raise the Red Lantern"
(Penguin, 1993)
As I had seen the movie of the same title, I decided to compare it
with the novel and became even more fascinated by the story of life
in a large, wealthy Chinese family of the pre-Maoist rea. In
particular, I learned more about the role of women and wives in such
families.
3 Michael Agar,
"Language
Shock: Understanding the Culture
of
Conversation"
(William Morrow, 1994)
Agar is a well-known American ethnographer, who is
able to make his subject matter accessible to non-experts. While
looking for a textbook to use with ICU students, I found his very
readable, enjoyable, and enlightening.
4 Herbert H. Clark,
"Using Language"
(Cambridge University Press, 1996)
A well-known psycholinguist, Clark's new book is
an argumentation on reasons language use is really joint action of
speaker and listener behaving in coordination with each other. He
brings together cognitive and social processes to explain
interactions. This book represents a decade of his careful,
insightful experimental work and thinking.