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「比較文学する研究会 ―インターネットにおける研究発表の試み」
毛利美穂(大手前女子大学大学院)
はじめに-----
ネット上で研究発表会、そんなことがはたして可能なのか!?
さまざまな問題を抱えつつ、1999年9月14日、「比較文学する研究会」<http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/3539/>は発足した。文学を専攻している大学生・大学院生をはじめ、研究に携わっている(研究活動を行っている)方を対象に、オンラインでの研究発表会を始めたのである。その活動や目的、発足動機、なぜインターネットを利用したのか、その理由を以下に述べていこう。
1.活動-----
主に、研究論文の発表、それに対する質疑応答。
この他に、大学や研究機関の紀要などの目次紹介や学会情報、学会参加者による学会リポートなども掲載している。
2.目的-----
情報収集で、研究の向上をはかることを目的としている。
特に「研究発表会や学会を設けて発表する」にしてもその機会が少ない方や、より多くの意見、さらにいえば他分野の意見も知りたいという方に、研究成果の発表の場として、また情報収集の手段として役立ててもらう場を提供したいと考えている。
この、多方面の分野での情報収集、すなわち視野の拡大を目的とすることから、本研究会の名称を、「文学」研究ではなく「比較文学」としたわけである。つまりここでいう「比較」とは、外国文学と日本文学の比較といった類のものだけでなく、文学をさまざまな観点から眺めていこうという姿勢を指すのだ。例えば、日本書紀の結髪令についての論が発表されたとする。このテーマに対しては、上代から中古(平安時代等)文学の流れから見た場合、中国文学などの外国文学から見た場合、さらに民俗学や服飾史・絵画から見た場合など、さまざまな視点から考察することが可能であり、質疑応答時にそのような意見が提示されたとしよう。多くの事例を提示されることによって、発表者は視野が広がり、新たな展開の可能性を得るのだ。さまざまな観点から眺めるということは、このような効果が望めるわけである。もちろん、発表者はすべての意見を逐一取り入れる必要はない。なにを得、なにを捨てるかは自由である。
そもそも本研究会は、研究発表会というものが通常与えてくれる機会(自己研究のアピール、情報収集)を提供するものである。その内、特に情報収集に重点を置くため、4で詳しく述べるが、不特定多数の参加者が望めるインターネットを利用した。
研究とは孤独な作業ではない。特に学生にとっての研究は指導教授(教官)等の協力なしには成立しないものであることを考えると、インターネットでの発表が第三者の意見を得る場であり、そこから利益がもたらされることはご理解いただけるだろう。
また、発表者の利点をあげれば、自らの研究分野や方向性の明示によって不明瞭であった考察が明確になり、また文章力の向上にもつながることが挙げられよう。
3.発足動機-----
本研究会の主宰は、大学院生であり、大学院に入学後、有志を募って研究会活動をはじめ、1999年4月に大学院の研究会(有志)として発足、現在はその代表として活動している人間である。そのような研究会の発足・運営の経験を経たことにより、「比較文学する研究会」を作ろうと考えたわけである。しかし、なぜまた新たに(しかも個人で)本研究会を発足させたのか、疑問に思う方もいるだろう。
確かに、能率の点でいえばひとつの研究会に専念した方がいいかもしれない。だが、大学院の研究会が、学内の大学院生の研究サポートが目的であるのに対し、本研究会では情報収集に重点を置き(2を参照)、学外にその活動を求めている。そのために、新たに本研究会を発足したのである。
次にその手段としてインターネットを利用した理由を述べていこう。
4.インターネットの利用について-----
なぜ、インターネットを利用するのか。
通常、しかるべき学会に入会し、その学会で発表することが堅実な方法である。自らの実績として評価を受けるには、現在は学会発表と学術雑誌への投稿が一般的であるし、その方が評価されやすい。
また著作権や優先権の問題も出てこよう。これらについては村瀬澄夫・村瀬さな子「インターネットによる学術発表の著作権と優先権−インターネット学会開催経験からの考察−」(『コンピュータサイエンス』Vol.4,
No.1、1997.06)<http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jacs/JJCS/v4/n1/p33_39/index.html>において詳しい考察があり、参考にした。
以上の諸問題があるにも関わらずインターネットを利用したのは、本会の目的として述べているように、より多くの意見を得るためである。データ盗用が懸念されるとしても、「不特定多数の目にふれる」状況が必要なのであり、だからこそ、本研究会では、現在のところパスワード限定は行っていない。研究向上にとってなにが必要なのかということを第一に考えた場合、著作権やさまざまな点においてリスクと思われた部分は、一概にリスクとは言い切れないのである。
不特定多数の参加者は、発表者に次のような利益をもたらす。
イ.専門分野の方のみが対象ではないことから、より明確で理解しやすい文章が要求される。これは論文作成の基本である。
ロ.自らの研究を世界中にアピールできる。
ハ.他分野の意見が収集できる。
論文は所詮、未完成である。その未完成の論文を完成させる場としてインターネットでの研究発表会をとらえると、必ずしもリスクだけではないということがわかるだろう。
また、インターネット利用によって現在学会その他が抱える「情報伝達範囲の限界」が解決できる。
通常の研究発表会は、当日の参加者のみが情報を得るという地理的時間的な問題がある。解決されない理由として優先権等が挙げられるが、研究向上を目指す上で、それが枷となることは先に述べた通りである。
音声以外の伝達手段として、印刷物すなわち紀要等の冊子形態が主流である。研究者自身の意識からこれらの形態が重要視され、事実、現在のところ効果的な手段であることは承知の上であるが、これもまた伝達速度の低下や発表の場の限定という問題を引き起こすのである。
インターネット利用によってこれらの問題は解決できよう。
5.最後に-----
そもそも、自らの研究向上のためには、きっかけを待っているだけでは何も起こらない。受動的ではなく、能動的になる必要がある。活動した者が得るものの大きさに比べると、参加(傍聴)しているだけの者の得るものはなんと少ないことか。いわんや、不参加の者はなにも得るものはないのである。
そのことに気づきながらも、どのように動けばいいかわからない方もあろう。その方のために本研究会は存在するのであり、おおいに活用していただきたいものである。また、同様の試みが出てくれば、社会もおのずからそれに対応せざるえなくなり、さらに活発な活動が予測できる。
こちらから働きかけなければならないのだ。
研究向上のために必要なものはなにか。それをまず考えなければならない。なにを得、なにを捨てるか、それは本人の自由である。
Copyright (C) MORI Miho
1999- All Rights Reserved.
[筆者の横顔]
毛利美穂(もうり・みほ)。大手前女子大学大学院博士後期課程に所属。研究対象は日本書紀。書紀が好きになったのがミーハーな動機なので、院入試の時に少し恥ずかしい思いをする。一級着付士でもある。
HomePage:<http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/3539/>
E-Mail Address:m4l@geocities.co.jp
[編集部注記]
本稿中で紹介されている村瀬澄夫・村瀬さな子「インターネットによる学術発表の著作権と優先権−インターネット学会開催経験からの考察−」(『コンピュータサイエンス』Vol.4,
No.1、1997.06)<http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jacs/JJCS/v4/n1/p33_39/index.html>については、本誌への再録許可を申請中です。