テレサ テン

 (三)  九五・七・二五
     (八四・七・二五 台湾年号)  

 つくして 愛して そして泣き濡れて
 そのまま あなたの胸で暮らしたい・・

 今私は「登麗君 (とん れいちん、 テレサ テンのこと。母国は台湾)」のCDを聞いています。このCDは九八元で近くの電気店で買いました。
あまりの安さに英会話の練習になりそうなCDも数枚買ってきました。
どれも外国製品ですが、全てコピーだそうです。
ここ台湾ではコピー出来る商品はびっくりするほど安く手に入ります。有線放送ではNHKの二チャンネルが見られますが、日本人向けの番組案内も日本の番組表をコピーしたものが売られています。これは製本の仕方が雑で、コピーの継ぎ接ぎが丸見えです。
 パソコンの好きな人なら各種CDも百元ほどで買えるので、本当に大喜びでしょう。
 ついでにいえば、パソコンは机上型で約三万五千元で買えます。これはおそらく日本でも最近ではその程度で買えるでしょう。ところが驚きはその中身です。DOSやWINDOWSは勿論ワープロや計算用のソフトなどの有名商品がたっぷり入っています。日本なら八十万円はするCAD(図形ソフト)も入っています。もうこれに勝る安さはどこにもないのではないでしょうか。台湾までの交通費を出してもお釣りが来ると思いますがいかがでしょうか。但し中文か英文版です、勿論。

 私は図面を描くのに会社にパソコンを注文してもらいました。中身を考えると日本では百五十万円ほどするものが、五万五千元です。(最近は円に直すときは三倍します)
 会社の担当者が言っていました。その程度の金額なら三回ほど飲みに行けば消える金額だと。その飲み代は外国人(日本人)向けの高価な場所を意味していますが。

 さて話を登(テレサテン)さんに戻しますが、彼女の母国での人気は大変なものです。葬式の時には、李総統は勿論、政治家がずらっと並んで居ました。今年の暮れに選挙が有るからでしょうか。
 大体台湾の人達は日本のどちらかと言えばやや古い時代の、リズムのゆっくりした曲が好きなようです。日本の曲もほとんど出回っています。コピーで?
 李総統にはテレビで毎日のように出会います。来年の選挙(台湾始まって以来の総統選)も考慮に入れているのでしょうか。大学や、病院の創立記念や、様々のパーティーに顔を出しているところがTVに出てきます。
 極めつけがアメリカ訪問でしょうか。訪米の二週間ほど前から毎日、日程の詳しい内容の紹介が報道されていました。
 そのアメリカでの講演で彼は言いました。「今、台湾では民主主義が花開いている」と。

 私は朝六時には起きています。そしてTVをつけると画面には文字のみが写されています。「三民主議は我党の方針であり、それによって人々の生活は進歩する」と。
これは「国民党」の宣伝では有りません。国民党が議会で決めた「国歌」だそうです。
主要TV三社や新聞は勿論、大企業のほとんどはこの党によって所有されています。

六月二七日午前十一時頃、台北市の北端の高台から黒煙が立ち上がりました。そこには中国を象徴するような形の巨大な建物が建っています。圓山大飯店といって台北を訪れる人が初めに目にする異国情緒のある赤壁の人目を引く建物です。台北へ到着する飛行機からも見えます。
この火事は全世界に報道されたと言っては大げさでしょうか。でもそれほどの存在感のある形と、そして歴史を持っていると言えるでしょう。
 その煙の火元が解ったとき、一人の台湾人が右腕を大きく回して「もっと燃えろ、全部燃えろ!」と叫びました。何人かに感想を聞いてみたところ、例えば1週間前に一緒に食事に行った人も、きわめておとなしい人で、ほとんど政府の批判を口にしなかった人までが、「これは気持ちがいいことです」と言うではありませんか。もう一人の人はその気持ちを説明してくれました。
 「あの建物は蒋介石の奥さんの宗美麗のものです。現在では企業形式の所有になっているが、大陸から逃げてきた人が何故そんなに大きな財産を台湾に残すことが出来たのか、そこが問題でしょ。台湾では誰でも知っているよ」と。
 つまり、国民党は台湾人を搾り取って大儲けをしたと言いたいようです。

 では来年の総統選挙では、その辺の気持ちが投票に表れるのでしょうか。

「いや、野党が政権を執れる時代はまだまだだ。選挙の時になると民進党では社会や経済が混乱するとか、皆の会社に仕事がこなくなるとか言う宣伝がもう毎日聞かされるから、誰も野党には投票できないで居ます。TVでも野党の紹介はあっと言う間に画面が変わるのに、国民党の画面はたっぷりと時間を使っているから、もう日本人が見たら信じられないよ。来年の総統選挙では変化が起きると考えている人は皆無でしょう」

 と言うわけですが、勿論三八年続いた戒厳令は解除されているし、TVでは毎日のように野党が議場で暴れているところが写されています。この言論の自由は民主主義の基本でしょう。従って十年前の時代をよく知っている李総統にして見れば今「民主主義が花開く」時代だと本心から考えているのかも知れません。

 陳さんという六四歳の人が夕食に外へ連れてくれたことがありました。「私達台湾人は世界で一番苦労してきたんだよ。三八年の戒厳令なんて世界のどこにあるのかね。」とぼやいていました。今だにこの人が居ないと専門的なことが解る若い世代の人が育っていないために、定年を過ぎてもゆっくりと休むこともできません。でもその日は、それからカラオケバーにも行って大いに飲んだのがたたって、明くる日は仕事の打ち合わせ中に、時々一人で突然何度も変なことを口走ってみんなを大笑いさせました。
(後で判ったことですが彼は多分この時点で重い病気にかかっていたと思われます)

少し話が脱線するかも知れませんが、カラオケバーのことをこちらではKTVと言います。二十歳代の若い女性が店のオーナーとして商売を切り回しているところがほとんどだそうで、酔った客や、くそまじめな人でもどんな話題でも、客の話に加わって、少しもひるまず会話を続けさせていく度胸は感心させられます。市の中心部にある所は大体日本語が通じます。このKTVは火事などの災害でも有名で過去十年の大規模災害のほとんどがKTVです。それは逃げ口のない構造や火事の起こりやすい調理場などに原因が有るとのことです。おそらく短期間に借金を返したいための、種々の規則違反を承知の運営が行われているのではないでしょうか。でも、しかし、日本人はそんなことを恐れず繁く通うと言うか利用している人が毎日何百人と居るわけです。
脱線ついでにもう一つ。台湾では、奥さんの勤め先で旅行に行くとすると、別会社の夫も参加します。
 アメリカやオーストラリヤなどの海外旅行に行くことも多いそうですが、(最近は日本は円高のせいであまり選ばれないと言うことです)費用は半分ぐらいを会社が負担するそうです。ここ台湾ではよくあることだそうです。

 会社でボーリングへ行くときも女性達は余所の会社の夫や彼氏を連れてきます。そしてみんなで食事が始まると、度重なる乾杯が続いて、それには勿論女性達もコップごと台湾式の飲み干す乾杯を続けます。中には立ち上がって一人ずつ声の届きにくい人の所へ挨拶に回る人が出てきます。台湾では必ず一人ずつが、一人ずつに挨拶して飲み干す乾杯をして回ります。そこには身分の上下はありません。
 そして、そのときも女性達も回ってきます。女性に名前を呼ばれて、乾杯するのも悪くないなと思っているようなら、あなたの想像力は貧しいことを自覚するべきです。というのは男の人が名前を呼んで乾杯をするときはこちらのコップが半分以上なら大目に見て乾杯してくれますが、女性の場合、こちらの目も見るけれど、コップの方もしっかり見ています。そしてコップに酒が一杯入って居なければ、「めいよう」(入っていないよ)といって継ぎ足すのを待っています。
 まあこんなわけで台湾の女性はしっかりしていると言うわけです。

 で話は堅いところに戻って、国民党のことです。彼等は実際日本が引き上げた後、大陸からやってきて、大虐殺もしましたが、世界一の良いこともしました。それは農地の開放です。
何しろ、実行する側に地主が居ないわけです。余所者です。そして軍隊を持っています。アメリカの教科書に書いて有るままの農地解放をやったと言います。同じ頃大陸でも農地解放が行われていましたが、そこでは農民による地主への襲撃や虐殺も行われていました。しかしこの島では、日本が残した各種工場などを株に変換して、それを地主に与えました。まだ土地が残った地主には、最高三五パーセントの地代に押さえました。これが現在の台湾の爆発的な経済発展の土台になっていると、こちらの雑誌に出ていました。
そして今日の新聞にも、年末に国民党が一つの大きな企業を設立するので設立資金を募集すると書いて有ります。銀行預金の利子が七パーセントに対して、九パーセントを保証すると書いて有ります。
 日本語の「武士の商法」のような、後の見込みのない話にならないのかなと考えがちですが、地元の人達の話では、国民党に出来ないことはないと行っています。