スモッグが毎年30万人
の命を奪っている


南方週末 08/04/03 姚憶江

 このまま空気中の酸化物、二酸化炭素、硫黄物質などが増加し続けるなら、2010年には人間は生きていけなくなるだろう。


写真は広州市ビクトリア広場の上空スモッグが街全体を覆っている



2001年から2005年までのスモッグ状態を色別で表示



広州市スモッグの経年変化

 3月中旬、春雨が続く。広州市はしばしの春を楽しんでいた。気象台が今後の予想を発表。”広州市の上空は汚染物質が拡散し、室外活動が正常に可能”だと発表。

 3月のほとんどの日々、広州市は春の日差しを見ることは出来ない。それは他の都市でも似たり寄ったりだ。どんよりと濁った空気は人々の気持ちまで曇らせる。しかし人々は既にそれに慣れきっているように見える。「スモッグ」、この文字が報道されることは毎年頻度を増している。07年の12月、広州市は唯の12日の快晴を得た。その下で住む人々は咳が出、頭痛がし、気持ちが悪くなったりする。医院へ駆け込む人も増加している。

 世界の工場 の代価

  3月10日から11日に掛けて広州市に広範囲のスモッグが見られた。気象庁も警報を発している。近辺を走る高速道路上では白昼に照明無しでは走れないほどの空気の汚れだ。
 街を歩く人もまるで白内障に罹ったように前が見えないで歩く。東莞地方は煙突が林立し正に空気の汚れは壮観と言える。
 幾つもの農民臨時工達の群れが市内へ入ってくる。彼等は市民がこれほど汚れた空気で良くも生きていると信じられない気持ちだろう。彼等は工場に入ると更に汚れた場所で働くことになる、その代価として実に少しの賃金を得る。
 記者はある工芸品工場に入る。そこでは鼻を突く嫌な臭いが立ち込めている。若い女性達が何の空気浄化設備もないまま働いている。
「これは樹脂の匂いです。ペンキを噴射した匂いも残っています」これは工場側の説明だ。記者がそこで働く女性に声を掛けてみた。
「この匂い大丈夫ですか」と。
するとその答「ここに勤めて長いからもう慣れきっているわ」。

 東莞当局が07年に受け取ったスモッグに対する質問は3865通。東莞は広東省での経済発展速度は群れを抜き、佛山を抜いて全省一番だ。
 「中国は既に世界一の工場になった。緑地はほとんど工場か道路に変貌した。都市内では息をする空間が消えた。工場自体が空気の汚れで生産効果を下げつつある」と、これは中国の空気汚染地図を作っている”馬軍”さんの言葉だ。
 広州市周辺の「珠三角」と言われ地帯、車の排気がスモッグの4割を占め、工場の排気ガスはそれに次いでいる。

 07年の広州市内の車の数は180万輌、毎年15万輛が増えている。深セン市の車の台数は120万輛、毎日数十万輛のトラックが市内を通過している。それが空気汚染を拡大している。
 07年のスモッグ警報は231日発生、06年は164日だった。
深セン市は海岸都市だ。それなのに何故スモッグが強度に発生するのか。それは周辺都市とお互いに影響し合っているためだ。
 中国気象局広州熱帯海洋気象研究所の呉悦さんは「工業発展が環境の対応能力を飛び越しています。機械的汚染、化学的汚染等が複雑に共存しています。発達した国家などは空気汚染対策に200年を費やしてきた。中国はまだ30年しか経っていません。しかし既に汚染の如何なる状態も経験しました」と言っている。

 北京の空気汚染は、遠くの幾つもの省からの影響を強く受けているようだ。揚子江沿岸都市も協力して汚染対策をしないと単独では解決できず、後年に大きな被害が生じるだろう、と言われている。揚子江流域、広州市近辺、何処もこの20年間の経済発展が急速であったことを証明している。かっては都市間に広がりがあり、その空間が空気汚染を和らげてきた。しかし現在は相互に影響し合って強め合っている状態になった。
 現在天気予報で「霧が濃い」と発表したが、同じ言葉が現在は「スモッグ」を示すようになった。  
広州市では「霧発生」即ちそれは99.9%はスモッグの意味だ。 霧は本来温度の低く湿度がある地方で発生する。広州市などには生まれない。北京でも夏は30度を超す。従って霧など生まれない。しかし天気予報では「濃霧発生」と予報している。これは笑い話ではない。

 現在中国は世界一の空気汚染国家となった。国連衛生機構では空気中の浮遊微粒子含量を20ミクロン以下と決めているが、中国で40ミクロン以下の空気の都市は1%しかない。58%の都市は100ミクロン以上の都市に住んでいる。例えばニューヨークは20ミクロン以下だ。

 07年国家環境保全総局は空気汚染指数(API)を発表した。全国一の汚染都市は成都でその指数は422。南京の汚染日はこの50年間で数百倍に増えている。20世紀の60年代、スモッグは年間数日だった。91年には100回を数え、94年には158回、05年には106回となった。
 
 中山大学公共衛生学院の主任教授宗宏さんは、人間は呼吸器官や鼻に汚染物質侵入を予防する構造を持っているが、しかし連続して汚染微粒子が入ってくると、それが血液にも混ざり、やがて癌を誘発する、と言う。

汚染空気に長期間に晒されることは、身体そのものの抵抗力を弱めることになると警告している。早朝でもスモッグ下で体操することは自殺行為になる、とも警告している。スモッグ下で出かけるならマスクが必要でしょうと言う。

 人間は一日15立方メートルの空気を吸う、この空気が汚染されていると身体に入った微粒子の蓄積は放射性物質よりも有害である、と警告している。 
 武漢市の同斉病院で70数才の婦人が肺ガンで寝ている。彼女は夫婦とも煙草を吸わないのに何故肺ガンになったか、不思議だという。
 汚染空気を吸うことは”蛙を煮ることと似ている”と例えられる。自分は何も気付かず死んでいくようなものだ。気付いたときは既に遅いのだ。有る研究では肺ガンの潜伏期間は約8年と、死亡率から計算されている。
 アメリカの研究では交通量の増大で児童の肺機能が発育不良になり、体力の弱った老人は死に至る危険があると発表している。
 青・壮年の場合はその抵抗力に大きな差があり病気との関係が証明しにくいようだ。

最初に掲げた中国大気環境地図で赤色で染められた地方は広州、深セン、西安、成都、太原、審陽、北京、上海等の都市を示す。
 中国の多くの大中都市で住む数億の人達は空気による危険と隣り合わせていることになる。その頻度、範囲、回数、時間数は共に急速に拡大している。2010年までこのまま汚染が続けば人類の生存に大きく脅威を迫るだろう、という。04年には広州で二酸化窒素が増えていることにより、爆発的光化学スモッグが発生すると警告が出ている。

国家環境部計画院の研究によると、04年の北京で大気汚染と北京市内での死亡数との調査から、呼吸器系統と心臓血管関係の病気とが汚染に関係があり、一日41人から59人が汚染により死に至っている、と発表された。その経済損失は2550万元から3692万元の間だろうと推測された。
 04年の中国全体で空気汚染が原因で死亡した数は35.8万人で64万人が同じ原因で入院し、25.6万人が慢性気管支炎の病気になっている。それらの経済損失は1527.4万元に達する。

中国では吸入する空気中の微粒子許容濃度は100ミクロンで、国連の5倍と弱めれている。

ロンドンの二の舞

 ”中国は現在GDPの拡大”を目指し、人間の健康を軽視している。お金が有れば医者に掛かることが出来るが、健康と命は買うことが出来ない”

 かってのロンドンの2の舞を中国が演じようとしている、と中央気象台の王さんは言う。52年12月のロンドンは世界一空気の汚れた街であった。5日間で4700人が呼吸困難で死んだ。そのほとんどは高齢者だった。その後も8000人が死ぬ目にあった。当時のロンドンのスモッグ濃度は1立方メートル中4ミリグラムで、中国の北方都市ではすでに1ミリグラムを計測している。ロンドンの空気中の汚染物質は硫化物質が主であったが、中国の場合はより複雑な混合となっている。
 中国の幾つかの都市では更に深刻な状態になっている所もあるようだ。だがこれに慣れてはいけないと王さんは言う。
 ロンドンでは有害スモッグが最大5日続いた。しかし現在の中国ではそれよりも長いことがある。中国で突発性の有害スモッグがいつ発生しても不思議でない。

 大量の化学産業が出現し経済発展と就職の機会を増やした。安い商品、豊富な利益などが生まれた。そしてその後に環境汚染が残った。GDPが登場し健康が失われた。
 05年初め、中国国家環境保全局は全国の10カ所で計測地点を設置した。だがその計画を多くの省が反対した。生産工場は公害に対してコストを掛けないから海外へ安く商品を売ることが出来る。
 各種規制は2重になっていて、官の検査が甘く、罰則は軽く、目標は低い。有る大型の紡績工場は排水処理設備を完備したと自慢した。しかし実際はその設備を稼働しない。その理由は競争相手に勝つためにはコストを下げるべきだという考えだ。
 
 中国の大気汚染防止法の違反罰則は最高50万元、環境評価無視の工場建設罰金は20万元だ。それは海外諸国の罰金が数億元であるのに比べると極めて安い。海外で活躍する企業の場合、法律を守らない方が安く上がる場合があるのだ。

 企業に対する制約が少ないのは、国民の環境に対する権限が低い、人権が重視されていないこと、具体的な企業内の環境保護対策の情報を得る手段がないこと等がその主要な原因だろう。
 先日の党大会で中央政府環境保安部が改革されることになったことは、その方面に国家も力を入れることを意味しているだろう。

  民間で環境保護活動をする馬軍さんは、5月1日施行される「環境情報公開法」に期待しているという。それが発効されれば各種メディアや国民が企業の情報を得ることが出来る。

 中山大学の楊教授は「政府や科学者団体などが国民の健康について公害との関係を研究し、実際に生じた疾病と公害との関係を明確にするべきだ」と説明している。


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訳者注:中国政府もやっと公害やスモッグに力を入れるようになったと記されています。 それは大変結構なことです。もし30年前までのように国営企業が大半で有れば、内部情報は全く報道されないのでしょうか。