中国にもかっては
   「私宅非侵犯権」があった


07/0517 南方週末 胡文輝

 「私宅非侵犯権」と言う観念と法律は人権と私有財産の保障の最低限度の指標で、近代になって初めて出来たものではなく、原始時代から存在していた。
 だが近代中国は私有制度の廃止により極端な個人住宅破壊と、住宅の共有化で文革時には「家捜し」が 社会に蔓延した。

 林達という人が「歴史に残る深刻な想い出」と言う書に一つの例を書いている。

 一人の日本人の学生がアメリカに留学したとき、夜間に友達の家を訪問し、その家の主人が近づく人を怪しんで日本人学生を銃殺した事件が起こった。しかもアメリカの地方裁判所は発砲した人に無罪を宣言した。その事件は日本人に衝撃を与え、抗議が巻き起こり、上告が続き、最終的に「軽犯罪」で確定した。
 これがアメリカなど西洋の「私宅非侵入権」である。

これは中国人にとっては国家の違いと一言では片づかない深刻な問題であった。

 以下概略 

 西洋には「私宅非侵入権」成立までの長い歴史がある。
 ”個人の住宅は安全確保の最低限の城だ” ”如何に貧しい人の家でも、個人宅に雨や風は自由に入るが国王は入れない”等の格言となっている。

 中国にも漢の昔から夜間に侵入するものを殺しても良いという法規があった。

現代中国になっての巨大な欠陥

 林達と言う人はある若いアメリカ人女性に聞いている。彼女に中国での文革時の”家捜し”のことを説明し、もし貴女ならどうしますか、と聞くと「そのような侵入者がいれば即射殺します」と言う返事が来たそうだ。
 昔の独裁者でさえ犯すことが出来なかった私宅非侵入権を現代中国は大胆に破壊した。それが”革命”や”改革”で、現在の”強制引っ越し”だ。

ここに突出した思想は「個人財産の権利」に関する考えだ。
 西洋にも中国にも古代から政治的自由は制限された部分があったが、日常の社会的自由は守られてきた。その社会的自由をも近代中国は完全に否定した。


 革命前、1947年頃国民党は「防共」の名で夜間に個人住宅捜査を行い、逮捕者を出した。13名の大学教授が連名でそれに抗議した。それに署名した人の一人、陳寅格教授は、20年後に社会主義になってから高齢で亡くなる寸前、残酷な家捜しを受けた。それは2年間毎日のように続いた。大字報が床の間に張られた。そして正当な令状無く強制的に家を追い払われた。教授は”家”に居ることは「独房にいることと同じ」と表現していた。

 当時は何千万という人達の家は個人の最低の安全を守る小さな城が「独房にいることと同じ」状態であった。 
 ”私宅非侵入権”は完全に消えていたのだ。

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訳者注:

 建国直後、国民全てが「家族や個人の幸せなど小さな事は棄てて理想的な国家を造ろう」と扇動されます。社会全てが、時間的にも空間的にも「国家」と言う言葉、思想で埋まっていました。国家のために”全てをなげうつ”ことが求められました。そのためにそれを邪魔する個人を徹底的に捜索・破壊したのです。
 
 誰もが。
国民党の時代は官憲だけが深夜に急襲したでしょう。でも新中国では誰もが自分から他人の家に入っていったのです。理想国家を作るために。
 こうして人権意識が完全に否定され、生活の権利という考え方もなくなりました。歴史の方向から50年程後退しました。
 文革が始まると学者達が毎日数十人身投げ自殺に追い込まれました。
(翻訳 05/05/12 毛沢東の芸術 訳者注:参照)


 人権侵害は現在も続いています。

次は毎日新聞(07/06/06)

ネット君臨(3)
 胡佳さん(33)は中国を代表するエイズ患者の支援活動家。90年代末から河南省で政府の奨励で採血に応じた貧しい農民達が数万人エイズに感染。これを胡さんがネットで世界に発信。04年以降政府の監視が着いていたが、昨年結婚した2月に公安に連行され生死さえ解らない。それを妻の曹さんがネットに掲載。世界から支援のメールが来て1か月半後に釈放。

 同じように当局に連行され行方不明の家族が現在多数ネットで支援要請を行っている。
現在中国のネット利用者はアメリカに次いで多く1億3700万人。政府は厳しくネットを管理している。

 07年版アメリカの「タイム」は「世界で最も影響のある100人」の一人に妻の曹さんを選んだ。その関係で世界に飛立うとした5月18日から夫婦とも自宅軟禁状態が続く。
 
 毎日新聞 (07/06/17)

ネット君臨(12)
 02年9月、作家の王小寧さん(57)がインターネット上に匿名で政治的主張を載せたが、国家転覆罪で逮捕され10年の刑に。
 逮捕から500日して妻が面会。夫の髪は真っ白に変り、放心状態になっていた。

 裁判記録で、ヤフーが中国政府に協力した証拠を掴んで現在アメリカの裁判所に妻が告発し弁償を要求。

 民主党議員「ヤフーは悪魔の共犯者じゃないか」と追求し。ヤフーやゴーグルは進出先の政府の要求に応えざるを得ないと応対。