強制引越し
      福建省の場合


07/04/05 南方週末

 07年3月14日の昼、福建省の甫田市に在る政治協商会議文教委員主任の王女史の所に夫から電話が来た。「今私達の家が壊されている!」と。彼女が現地に駆けつけてみるとトラクターが轟々と音を立てて埃を巻き上げて家を倒している。

 同市の強制引越しは06年10月に始まった。総戸数800以上、総面積13万平方米。11月になって条件を受け入れたのは半分以下。
 この件の場合の特色は、対象者のほとんどが党や公務員高級幹部である。各戸の所有面積も広い。前記王さんの家は兄弟と一緒に住んでいると言うこともあって700平方米ある。地元政府は国家基準に基づき補償を考えた、という。
 今政府が出している買い取り条件は毎平方米200元。それは1997年の当時の価格が適用されているという。現状の市場では1200元以上とのこと。
 政府のやり方は開発業者任せで、まるでお殿様が命令するように一方的だ、と引越しを言い渡されている人達は恨みを込めて言う。
 
政府側は全体の対象地域を18区に分けて一組7人で交渉に当たらせている。成果が上がった「組」は役員としての成績も上がる方式だ。
 追い出し役を命じられた「組」の人達は追い出される側とは顔なじみだ。自分の任務を上げるために心を鬼にして任務遂行している。出会っても挨拶などは無くなっている。
 これでは今後の市政にも大きく影響するのではないか。
  
06年11月8日、政府は公報に立退地域の幹部の名前を記載し、「思想改造が必要な幹部」と注釈を着けた。「デマを流している幹部もある」と言う注釈もある。
 市政府は幹部と会合を持ち「土地は個人の物ではないこと」を指摘。それを理解出来ないのは「思想上の問題」で、「政治任務の不履行」と指摘。
 こうして数人の幹部が停職処分を受けた。
 党としても各機関に「早期に引越し完成」の命令を出した。
 これを聞かない者には資格や政治評価を下げることを記載。 
 記者が聞いた3名の幹部は停職処分を受けたが、仕事の交代が見つからず現在復職中、と言う。

引越し命令を受けた家庭では今、家庭内の喧嘩が絶えず起こっているという。
 王さんの場合引越さないと彼女の政治成績に影響することを考えて妥協を申し出た。
 07年の正月(春節)現在、妥協した家庭は全体の10分の1だ。
「党の政治成績」の脅迫文句に動じない人もいる。それは4月に退職する幹部だ。
 既に退職した幹部は38人いる。
 しかし学校の教員をやっていて、授業を外され、仕方なく妥協した家庭もある。

残っている人達は大半が知識分子だ。彼等はひっそりと会合を持ち、交渉条件の打ち合わせをしている。
 3月24日、その中の数人の家を強制執行する政府の内部決定が彼等に伝わった。「執行されても、それからだって交渉し続ける」と彼等は言う。
 政府と開発業者の闇取引の書類を見つけ出して持っている、とも言う。

 現在77歳の元党書記だった幹部は、「息子の一人が検察院の所長で、もう一人が教員で、すでに私のために50日の停職を受けている」として、自分の処遇を苦慮している。
 
「この問題は単なるお金のことだけではない。地元政府は法的な根拠を何も提出していない。中央政府の政策と全く離れている」と言う人が居る。
 反対している先頭分子と言われていて「お金なんかに困っていない。正しい公道を求めるだけだ」と公言していた元幹部が、春節に家を撤去されている。

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 訳,者注:
 この事件も如何にも社会主義らしい様子が良く解ります。
 個人の人権よりも政府優先です。
 個人の人権優先とすると、個人の中に特権を持つ人も居て、その人だけが優遇される悪い面も生まれます。それを改善するのが社会主義の良い点だと言われた時代があるのですが。
 現実の歴史で教えているのは、個人の人権が主で、国家はそれを如何に公平に対策するかのキリギリの選択を常に選び慎重に実行する社会が必要だと言うことになるのでしょうか。
 現在の社会主義は、人権を切り捨てることで大胆に急速に、苦慮することなく、高度な社会に飛躍的に近づくという虚構を夢見たようです。
 この記事に明記されてはいませんが、政府と開発業者の間の闇取引が
 「公道」に反する汚い契約であることを暗示しています。
 日本の新聞なら当然暴露記事を書いているでしょう。
 
 それにしても家族係累にまで脅迫の手段を執る辺り、これで法治国家になれるのでしょうか。