職場で怪我した農民(傷害4級)
     2年経過しても補償無し


07/02/15 南方週末 孟登科

 05年1月19日、湖北省恩施蔡市で農民臨時工の胡錦香は高速道路建設現場で窪地に落ち込んで頭を打った。3ヶ月入院した後5ヶ月の自宅療養。中国鉄道某単位はその医療費6000元を支払った。胡さんは一家の支柱だったが頭脳損壊で小学校程度に悪化し、家族4人は村で最大の苦境に立たされている。
 06年度の収入は茶畑から得た4700元のみで、現在13000元の借金をしている。
 13歳の娘はそのため中学を退学、78歳のお婆さんがやむなく家を仕切っている。

 05年11月、胡さんは市に障害認定の申請をした。06年3月に職業病として「4級」の認定。
 会社(中国鉄道某局)はそれを不服として審理中断を要求。再審理が行われて再び4級を認定。中国の法律では2度の裁定が結論となる。そして企業に対し21万元の支給を命令。
 だが企業は依然として弁償金を支払わない。農民にとって1年半の収入の空白は余りにも「長すぎる」と関係者は言う。
 
 06年12月27日になって企業側が逆に胡さんを起訴。胡さんとの間に労働関係は存在しなかったと言う。この争いは早くて1年以上掛かるだろう。
 胡さんは一日も早く企業側の起訴が泡となることを願っているが、専門家によると、一旦法院が受理すると、それまでの認定は一旦取り消しとなる。法律的には白紙の状態だ。
 中国の労働争議は2審制で、1審で不服なら上訴が出来る。

 と言うことはこれからも法院や市の労働局との間で、やりとりが相当長期間続くと見られる。
 上訴は基本的権利と見られているが、国営企業側がこの権利を乱用するのは珍しい。
 市の担当者も「企業側が法律の小さな逃げ穴を捜しているようだ」と評している。 
 特に農民臨時工の場合、その生活は弱者の先頭を行っているので、一定の弁償をした後に争議を続けるべきだともっぱらの噂だ。 


 関連資料

 近年農民臨時工の傷害事件が急増している。農民臨時工の死亡率は1.5%、傷害率は5%。

 湖北省の事故の内70.2%は農民工。指切断事故は4万件を超える。

中国全体では鉱山業の事故死の内80%は農民工。建設業の事故の内90%が農民工。
 職業中毒事故は5万件で大半が農民工。
農民工の労働現場はほとんど安全設備が設置されていないことがその主因だろう。
 大多数の農民は外地で働くことを望んでいない。農民は中国では最大の弱者だ。その弱者の中の最大の弱者が事故にあった農民工だ。
 中国には約2億の農民工が居る。建設業、電子産業、衣服関係、飲食業等が農民工の主要な職場だ。建設業には3000万人超という大群の働き手が居るがその80%は農民工だ。彼等の労働現場は危険が高い。訓練無しに現場で働く。安全施設がない。
 農民工の傷害に対して賠償の問題は中国全体に蔓延している。
 
04年に「工傷保険条例」が出来、雇用者と労働者の両者が国家の恩恵を受けることが出来るようになった。当然その中に農民工も含まれる。
 だが実際にその保険に入っているのは農民工の1割で、ほとんどの農民工はその存在を知らない。知っていても自分から企業へ保険加入を要求する人は、「言いにくい」のが実情だ。

 従って事故の解決は一旦当局の裁定に持ち込まれても、「私的」に解決されるのが普通だ。
 認定期間が長期に渡ること、その争議費用が農民工には耐えられないこと等で、圧倒的に不利な解決を強いられている。
 法律家の話によると、企業側と地方権力側は自分の利益優先のため、その訴訟費用が増大する方向で事を進めている。そうすると農民工にとって「芋を洗う如し」極貧のため、対応が不可能だ。例え借金を重ねて争議を続けても合理的な勝率は実際は極めて低い。

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 訳者注:
 この記事を読めば、社会主義は弱者を抑圧する国家機構と思われるでしょう。

 中国の経済成長が早いのは、
 ” 環境保護に対する投資及び社会福祉への投資が極端に低いこと、エネルギー源が廉価で手にはいることなどがその原因と見られている。”

 これは前回の翻訳記事の文です。弱者を抑圧し、人権無視して経済成長を押し上げることが何故出来るかと言えば、「人権無視」が容易に出来る、文化的に極めて低い状態にあるからです。
 農民が何故この状態に黙しているか、それが後進国中国の現実です。
 教育や報道が抑えられたため、100年前の文化水準に農民達の生活があります。
 日本でも100年前は恐ろしく文化的に低い状態でした。官僚や特権階級が如何に威張っていても誰も文句を言えず、女性の権利が明確に法律的に差別されていました。

 現在の中国では報道が社会の発展に役立っていません。
 1989年の天安門事件を、数から言えば90%以上の中国人が知らされなかったのです。
 今回の翻訳記事を見て現在の日本人が驚くように、終戦時の日本の非民主的状態を見てアメリカやヨーロッパの人達は驚いたでしょう。
 そして日本の法律は終戦を経て外国の力で大きく民主化されました。
 世界史的に見ても、外国の力で民主主義が発展したのは日本がその極めて珍しい例だそうです。

 しかし私はこの記事を訳してもう一つ痛感したことがあります。
 それはこの記事が国内の問題点を実に正確に正直に記録していることです。
 この新聞は日本のほとんどの企業とメディアが注目しています。
 それを当然南方週末も知っているでしょう。自国の弱点を外国に知られることを承知で正直に認めることは、確実にその社会にとって前進の糧となります。個人でも自分の弱点を知る人が成長します。

 報道の自由のない中国でこのような姿勢を保つことは常に権力の解雇権に怯えているわけで、大変貴重なことです。それだけに現在の中国を発展させる重要な報道をしていると感じました。

 それに対して日本はどうでしょうか。中国のこの建国後の50数年間は暗黒と悲惨の歴史でした。しかし日本に於いて、これまで中国やソ連を賞賛した人達が多数居ました。それなのに現在はその間違いを知っても、黙して語らずの方法を採っています。
 他国の歴史を知って自分の国に生かす謙虚な気持ちが大切です。それには大変な勇気が要るのでしょう。

 最近、安倍総理が「従軍慰安婦」は軍隊に直接の強制責任は無く、軍の要求に基づいて動いた業者が強制したかも知れない、と国会で答弁しました。
 まるでその答弁で日本の国家としての犯罪を隠そうとするような姿勢です。
 これは全く破廉恥な答弁です。そんな理屈が国際的に通用するはずがありません。当然国際的に日本は大きく信用を落としたでしょう。
 彼は河野衆議院議長が謝罪するとき議会から出て行ったそうです。
 つまり自国の弱点や恥を正直に認められない、勇気のない恥ずかしい人間です。
 これからは国際的な視点で国作りをすることが必要です。その時に基本的なものは「公正」です。誰からも何処の国からも信用される方向が必要です。
 日本の現実を見ても、この南方週末がとても勇気があると感じましたが。