出稼ぎ農民の賃金不払い
   政府が責任を持って解決を


07/01/011 南方週末 姚先国
   浙江省大学公共管理学院院長

 新年も間近に迫ったこの頃、又出稼ぎ農民達の賃金不払いが社会的大問題になっている。労働するものに対する最大の人権侵害は「賃金不払い」であろう。この根本的解決に政府が責任を持つことを求めたい。

 政府労働部門の統計によれば、04年の全国規模の農民達への不払いは1000億元を超えている。
訳注:日本円は約15倍

 近年労使紛争は急速に増加し、その大半が農民達で、それが原因して多くの自殺や飛び降り自殺、等陰惨な事件が目立つ。
 特に目立つのが不払いに怒った農民達の群を為した暴力事件への発展である。
 怒った農民達は解決の先が見えず突っ走る傾向にある。これは正に社会的安定を恐怖に追い込んでいる。財産や生命の危険さえ広範な人に及ぶ。このままでは農民以外でも政府への不満や法律不信になるであろう。
 自分の安全を守るために”黒組織”を造る可能性もある。

勿論これまでも政府は「不払いを無くそう」と言う運動を展開してきた。浙江省も今「春期行動」で不払いの廃止を叫んでいる。だが何度政府が「上前をはねるな」「賃金不払いを無くそう」と声高に叫ぼうとその成果は全く上がったことはない。
 このことを今慎重に反省し根本的解決に向けて対策を出すべきであろう。
 政府の言い分は「不払い廃止に政府は協力する」という言い方だった。
 だが企業側が不払いで逃げた場合、これは実際問題農民達には解決のやり方がない。
 また、法廷での仲裁や裁判に持ち込む解決を提案しているが、農民が司法に訴える方式はその費用と日時の長時間を考えると農民にはほとんど実行不可能だろう。農民達はその日のお金に苦労しているのだ。

地方政府の実態は各部門が逃げ腰で、専門部門が存在せず、良くて最高責任者の度量等に頼ることになる。
 だがどの地方政府もその政治的成績を上げる方式として「企業誘致」が主要目標となっているから、投資環境を良くすることに熱心だが、労働者の権利を守る動きは先ず見られない。
 毎年春節を迎えるこの時期に「不払いを無くそう」と言う標語が街に見られるのは、実は政府の姿勢を現しているのではないか。

 そもそも「不払い問題」が出てくる社会的構造とは、労使関係の協約成立が無いと言うところにある。如何なる労働も雇用される側が立場が弱い。まして”農民”である。そしてその雇用が零細となると圧倒的に被雇用者が不利である。問題が発生したとき、当の農民は暴力に訴えるしか無いのではないか。
 
 さらに大きく考えれば、これは社会経済全体の機構が欠陥を持っていると言える。その欠陥が突出している面であろう。
 企業から請け負って農民達を集めている「請負頭」がビルの屋上から飛び降り自殺をする事件が多いのも、企業と「請負頭」との間に契約が交わされていないことが大半だからだ。労働仲裁部門も、この「契約」が書類として存在しないことで解決不能と宣言する事件が多い。
 これらの事件を高みの見物している政府が時々思いついて「会議」を開き「文書」を流しても、最終的には暴力事件が起こるのは避けられない。
 
  問題の根本的解決は
    政府が責任を持つこと
 
 雇用、被雇用が平等に契約を結ぶことが無いならば「市場経済」は成り立たない。
 協調・安定の社会は生まれない。
もし公民がそのことを法律で守られないなら政府は失格だ。現状のまま言葉上では「春節不払い廃止運動」と叫んでも、常に農民の泣き寝入りなら、政府は「無能」と言える。
 
 この解決には企業と農民との契約を政府が債権基金を建て保証するしかないであろう。先ずその債権基金で農民の「賃金不払い」部分を払い、その後政府が企業に請求する方式だ。
 
 これなら企業側が長期に逃げようとしても政府もそれに対応出来るはずだ。その間その企業は経済活動が出来ない。
   
昨年の中国国家財政は30兆元である。しからばそこから数百億元の基金を出すことは問題がないと思える。1000億元の不払い全てを負担することだって出来るはずだ。
地方政府にとっても上級の政府が負担するようにすべきだ。
 国家予算は最も差し迫った民生問題に回すべきだろう。出稼ぎ農民の不払い賃金を解決することは社会の安定・協調に大きく貢献する。思想としても合理的だ。

 これまで国営企業の財政が支払い不能の場合、国家が立て替えている。それから見ても出稼ぎ農民の不払い問題も中華人民共和国の公民として考えれば同一問題だ。

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訳者注:
 私の昨年5月の翻訳によると、国家公務員の「飲食の消費合計は2000億元」と記されています。
 出稼ぎ農民の賃金不払い”1000億元”(1兆5千億円)の金額も想像を絶した巨大な額ですが、何故このような不正を放置し、多方取り締まる側が飲食に明け暮れると言う構造は、普通の国では想像が付きません。
 出稼ぎ農民と言ってもほとんどは都会に常住しているわけで、敢えて彼等を臨時工としてしか採用しない国家というのも理解に苦しみます。子供の教育も都会子と差別し、交通事故の補償も都会人と違うというのは、暴力が起こって当然でしょう。

 前回の翻訳で、食堂で「拾い飯」をする農民に便宜を図ることが美しいような記事がありましたが、その温情が余りにも小さすぎる気がします。
 国民の大半を占める農民のことを考えるなら、もっと差し迫った救済を国家として実行することが求められている状態でしょう。

 (2年前に農民を時々公安が逮捕してお金を取ったり命を取る行為は、あの記事が全世界に報道されたので現在の政府は禁じているようです。もし中国がWHOに加盟しないで報道が隠れていたら、今でも農民はさらに悲惨な運命です)