政府の行動としても放火執行は野蛮では

07/09/06/ 南方週末  呉鈎

 この数年暴力的に政府が住居を強制撤去する光景はざらになって、道徳的な感覚が誰も麻痺してしまったような感がある昨今だが、8月31日に行われた深セン市宝安区の住民強制撤去の方法は全く心寒くなる思いだ。
200人以上の執行官が80人ほどの住民を追い出し、直ぐに住民達の藁葺きの家に放火した。
 まさに中国歴史上の幾つかの戦争で行われた焼き討ちそのものを思い出させる光景を現代都市で現出した。
 この放火で燃やしつくされた低辺住民の家産は世論の大きな反論を呼び起こしても当然ではないだろうか。 

 深セン市は、住居が違法に豚を飼っていること、水資源確保のために必要な土地であることを理由に執行し、全ての行動は法律基準に適合していると説明している。
 しかしこの「法律基準」とは一体誰が決めたものなのか。中国国家にはまだ強制執行の法律はない。今回の執行の根拠は地方政府が決めたものだが、それは本当に公正に決められたであろうか。
 地方政府の発する基準はしばしば功利主義、その場凌ぎの行為で決められた疑義が強い。しかも執行に当たっては「手段を選ばない」ことが許されるのだろうか。
 法規の名のもとでも、そこに何の相談や寛容性がない凶暴な権力執行は、身に寸鉄も持たない住民にとっては恐怖そのものではないだろうか。
 これまでも強制退去はいつも「法規」の名のもとに粗暴で権力の乱用と見える方式が罷り通っている。
 だが法治国家を目指すとき、この方式は「現代国家」の名に値するだろうか。
住民の土地が違法だとしても、相談無く焼き尽くす方式は「合法」かどうかよりも「野蛮」そのものに見える。

 中国が現在急速に経済発展を続けており、どの街にも新旧の住居が混在して見苦しい場所が多い。旧式の建物には違法建築も多いだろう。それを美しく整理するのは確かに地方政府の責任だろう。
 だがその実現の方法はいろいろあるのではないだろうか。
 深セン市の向かいにある香港市は皇后埠頭の整理に当たって、市民の反対を押し切って執行することになった。そのとき香港政府は大勢の女子警官と専門相談員を配置し、抗議に座り込んだ人達の説得を始めた。最後まで攻撃の武器は持たなかった。周辺には救急車が配置されていた。
 政治とか文明と言う言葉、法治国家、これらの実現に公権力が如何に使われるべきか。それが最も大切なことではないか。
 公権力に押さえつけられて従う国家か、それとも公権力を納得出来る国家か、それが問われているのではないか。
 現在香港市と深セン市には合体の話が出ている。合体は単なる経済上の往来が行われるだけではない。政治や文明等の経験交流が必要だ。香港のやり方を大いに学んで欲しい。


 南方都市報 より

 (概略)




 8月31日9時頃、市政府から派遣された200人ほどの団体が、深せん市宝安区民治街道に設置された農民達数10戸の家屋を違法建築としてガソリンで放火して強制退去を執行した。
 住宅地の面積は1戸当たり100平方米程度、農民達は全体で300頭程の豚を飼っていた。
 前日までにその家屋類は違法建築であり立ち退くように数度の説得が有った模様。しかし公安が昼間尋ねた時は、立ち居振る舞い不可能な障害者ばかりだったようで、交渉に成らなかった。
 執行隊は住民達を強制的に危険範囲から追い出し、ブルドーザーで破壊しガソリンで焼却した。
 住民の農民の中にはそこに15年前から住んでいた人もいる。
 農民達は財産の大半を持ち出せなかったと言っている。

 放火された家屋は数日後もまだ煙を上げている。それに水を掛け家財を捜す人達もいる。

 これを「南方都市報」が新聞報道。それが中国全体にインターネットなどに掲載されて国民の注目するところとなり、翌日地元テレビ局が採訪に来た。

 地元政府の言い分は、当地が地下鉄駅の入口に近く今後発展するところ。
 農民達が飼っている豚の内蔵が散乱し周辺に悪臭を放っている。
 近くに100万人が使用している水道貯水池があり、衛生上好ましくない。
 家屋破壊だけでは衛生上完全ではないので焼却が必要だった。
等々を挙げている。

 テレビ局側が現地再訪に来たとき、政府の言い分を主張したため、農民達は協力しないと突っぱねている。
 
 地元党委員会は新聞記者の採訪を受けて、これほど大きな社会的関心を呼ぶとは想像もしなかったと弁明。

 政府職員が農民達に会い、弁償をするから消失した家財の詳細を書くように説明したが、消失原因の項目に「放火」の文字は入れないことを要求。
 
 数日して地元新聞「晶報」が「南方都市報の報道は過大で事実に反している。政府が焼却したのはゴミ捨て場だった」と反論記事を掲載。
”都市報”が又それに学者の現地採訪などの記事で反論している。

 1年前にはそこの農民の1人の老人が仮居住証不携帯で3人の公安に殴打され入院し、それに抗議に行った老人の息子がやはり殴打されて死亡する事件が起こっている。

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9月16日 「晶報」

 深浅市宝安区公明街道工業地区内の4階建ての違法建築29棟、32200平方米の家屋類を3600人の政府職員が囲んで爆薬170キロを1600カ所に分けて設置し「どん」の音と共に崩壊撤去した。
 これは深せん市で有史以来最大の強制退去執行ではないか。 
9月7日に違法建築であることを通知。9月11日に住民と折衝。

 宝安区はこの1年内に12000棟の違法建築を停止させているが、1夜に公安の目を盗んで家屋を建てる農民もいる。
 当該地区は違法建築の嵐が吹きまくっている。そこには当局と農民達との間に多くの不正な黙認行為があるのではないか。
 区の党委員会はこれからも厳正に対処すると言明している。

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訳者注:
 深せん市(せんは土偏に川)は人口125万人。香港とは川を挟んで向かいに位置する。
 1980年中国で始めての経済特区の指定以降急速に経済が発達した。市場経済実験都市。この爆発的発達を見て中国は「社会主義計画経済」を棄てた。
(これは産業面で。農業面での自由化は農民自身が党に隠れて血判を書いて生産した。そしてこれを受けて1982年、と小平が「豊かになれる者から豊かになろう」と言う標語を深せん市の巨大な看板に書いた)
 上記の人口は政府の公式発表で実際はその2倍強の違法農民が住む特殊の街。
 しかし居住権のない、違法農民が居なければ都市の発達も無かったのは現実。
 「晶報」は地元新聞で、政府の公報担当の役割をしていますが、社会主義では普通のこと。

 私の中国日記に書いていますが、多くの集合住宅を所有している農民もいます。

 中国では強制退去が突然でしかも絶対命令なので、それを悪用して金儲けをする人達の居ることが、現在放送中の衛生4チャンネル(土曜日)に出てきます。

 どちらにせよ、これほどの極端な人権無視の国家はこの地球上他には皆無でしょう。