住宅高騰は制御可能か

06/05/25 南方週末 叙眉

今中国では住宅売買について奇怪な現象が起こっている。空き部屋が1.2億平方メートルにも達しているが、それでいて販売価格は上昇に止めなく、既に一般大衆では買い取れない価格になっている。
 北京や深セン市などでは中央政府がその飛躍的価格上昇を抑えようとしているが、今のところその見通しは立っていない。

 5月の連休にコンピュータープログラム技術者の陳さんと医者の王さんが結婚届を済ました後住宅を探したが結局「購入不可能」と言う結論になった。

 昨年3月中央政府は不動産関係の価格暴騰を抑えようとして、全国民的期待を集めたが、現在その効果は現れていない。現実には多くの都市で昨年より10%は高騰している。
 陳さんが探した北京市の場合この1ヶ月で17.3%上昇している。
5月17日中央政府がその健全な価格推移を要求して「新国6条」を発布した。
 それは税金、貸し付け、土地販売、供給方法、市場、その他に制限を設けたものだった。
 
 陳さんは昨年の「国8条」と言う法律が出来たとき少し期待したが、その後の住宅事情に直ぐ裏切られた感じを持った。
 住宅供給が過剰なのに何故価格が上昇し続けるのか、それは誰もが不思議に思う現象である。

購買側の意欲が低下しているのは統計に表れている。最近の2ヶ月の契約高は24.5%も下落しているのである。一方供給側の投資はその2ヶ月で20%増加している。大都市では30%の上昇が見られる。
 深セン市では地元政府が特別法で抑えようとしているが、その効果無く猛烈と言える上昇である。
 「昨年の”国8条”今年の”新6条”等の法律が何故全く効果がないのか。このことは中国経済全体にも何か大きな影響をもたらさないのか」そう、陳さんは語る。

 その原因は何処にあるか

 経済学博士の陶冬さんは言う。「その原因は簡単でしかも複雑です。
 中国は1990年代半ばにGDP増大を政治効果発展の基本に据えました。98年には不動産開発がGDP発展に大きな役割を発揮することが明確になった。例えば04年の有る地方都市の場合、土地開発がGDPを17%押し上げたことが解っている。それは間接的に建築材料や家電産業を3から7%押上げ、総合的には20%押し上げた。”不動産開発”の名前はまるで魔法の力を持っているかのように考えられるようになった。中国では何処の地方政府も不動産開発が”打出の小槌”として期待されている。GDPさえ増えれば良いという発想は誰も疑問に思っていないのが全体の傾向だ」。

 また、上海復旦大学の土地開発研究所センター副主任の華さんは「05年に発布された法律は表向き中央政府の命令として大きく表現されているが、その実、どの地方政府もそれを実行しようとは考えていない」と言っている。
 このことで「SOHO中国会長」の肩書きを持つ潘さんが全国の土地販売について調査している。それによると多くの省と市は昨年に法律化された8条を今年の6月になってやっと公布している。その他の地方政府はまだ公布さえしていない、と言う。
 さらに「もし現在の土地供給過剰を”国8条”で少し抑えることが出来たとしても、住宅供給も停滞するので価格上昇を止められるかどうかは解らない」と言う。

 土地開発業者に流れている資金について政府は流通を抑えようとしているが、それは小企業には有効だが大手には全く効果が無く、大手はこの機会にさらに市場独占を狙うだろうという。

 土地開発は今中国全土に及びつつある。
政府の政策の内、住宅販売に20%の高額税を課すという対策は小企業の短期投資には有効だが大勢には影響が無く土地の上昇は続いている。

 住宅高騰の被害は無限だ

 その最大の問題は金融関係の不安定に及んでいる。
 中央銀行副行長の呉さんの提供する資料によると、05年度の土地関係への貸付けは30兆元を超えている。その内不良貸付けに成る可能性の資金は5250億元に達している。ここには各企業内の不良資産は含まない。
このことを中央政府は認識しており、不動産取引における最も危険な兆候として理解している。
 不動産に手を付けている産業は57部門に及び、中国経済発展の中心部分を握っている。
もしそこでの取引がコストを割るような状態になれば中国経済は決定的な影響を受けるだろう、と見られている。

 北京大学の蔡教授によると、住宅高騰による問題は次の4点に表れるという。
1.一般居住者の消費を抑制する。
2.国民の格差拡大
3.社会資源の浪費
4.農村労働者の急激な都市流入
以上である。

 05年「上海青年調査」の発表によると、上海居住の青年の最大の関心事は住宅問題と指摘している。現在まだ購入できていない青年達にとってこれから購入することは殆ど不可能で、通貨価値の急激な下落に等しいと考えられている。

 前述の陳さんは04年学校卒業後に上海を離れ北京へ移住している。
「上海の住宅はこの1年で3倍に高騰しました。もう私達若者には希望が持てません」と言っている。
 彼の同僚でやはりソフト関係の仕事をしている李さんの収入は月に8000元ほどある。同時に住宅の借金が毎月5500元あり、それは今後の25年間続くという。
 「その長い年月余裕のない生活を考えただけで生きていると言えるのかどうか解らない」と言っている。 

 有る専門家の意見ではこのような住宅費に一生を縛られる状態は社会投資を不健全な状態にし、経済の一部分だけを肥大化させる。中国経済発展が不動産だけに頼るという奇形状態にした、と言う。
 
 住宅費用が高騰するのを見て、その利益を当て込んで他の多くの産業が不動産に手を出し始めている。
 03年の統計では株式市場上場の25%、数にして300企業が参入している。「ハイアル」や「TCL」のような家電企業もその代表だ。

 「このような製造業が不動産に投資することは本来の部門への投資不足と経営が細くなり、現在土地のコストが膨大化しつつある時には企業の危険性も増すだろう」と指摘している。
金融学の専門家、徐さんによると、03年に庶民が住宅費に投資した内1663億元が何処かの懐に余計な利益として転がり込んでいるはずだという。
 このことは高騰部分での儲けた利益(全てのコストを引いた部分)約1千億元が地方政府や不動産業者に流れ込んでいる筈だと言う。
政府の出す対策法が効果に疑問が持たれ、中央銀行もこれまでの経験では制御できないことをその裏では認識しているようだ。

1998年に発布された住宅法によると、低所得者(住民の約50%)が公的住宅に住めるようにする、と言うものだった。しかし政府は「土地関係取引」を市場化する方向を選んだ。その時は不動産の利益が小さく地方政府の協力が得にくいという判断によるものだった。
 しかし市場化は住宅問題の解決には遠かった。本来は政府は住宅を多くの国民の要求に満足できる内容で対策を建てるべきだった。
これは社会科学院金融所の尹さんの意見だ。 
 中央政府は住宅問題解決として中低層の住民に低利で貸し付ける予定だった。しかしそれは地方政府にとって収入が少なく好まれなかった。そして急速な市場化へと進んでいる。そのことは最低保障の制度が放棄されたことを示している。
 中央政府には昨年農業税の減税で減った部分約600億元が、今年の不動産収入1100億元の増加で充分懐が豊かになっている。
この収入増で生活困窮家庭、都市人口の10分の1に公的住宅を供給することは出来るはずだ。
 さらにまだ余分があり、それで公的建築、長期利払いの住宅を住民にて提供することも出来るはずだ、と専門家は言う。

 この可能性を期待する声は大きい。前述の陳さんは現在4度目の引っ越しをする準備をしている。そして言う「そんなニュースも有りますか。出来れば速く自分の家に住みたいですね。60歳を超えてもまだ引っ越しをするなんて嫌ですから」と。


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 訳者注:
 「社会主義」は本来はこういう問題を根本的に解決できるものして期待されて登場したはずです。
 戦後、在日朝鮮人に対して北朝鮮へ帰国を勧める誘い文句は「北は地上の天国」と言う言葉でした。しかし現地へ行ってみて2,3年もすればそれは”全くの嘘”であることが誰にも判った、これは最近よくテレビに登場する脱北経験者の告白です。
 社会主義の師と言われるマルクスは200年近くも昔の人で、その構想は古典的時代遅れのものであっても仕方ないでしょう。
 (現地球には社会主義国家を名乗ってもマルクス主義以外のものが有るようです)

 特に中国は人権というものを全く無視して国家建設してきたので(マルクス主義の敵階級撲滅で平和が来るという思想を国民全体が信じてしまった結果です)、独裁支配政党が「豊かになれる者から豊かに成ろう」と言う政策変更したときから、このような生活無視の社会に変わりました。

 でもその政策変更は、建国時には考えられなかった”個人”というものの重要視が見えていて中国人は揃って一つの進歩だと捉え歓迎しています。
 今中国でGDP第一で経済急成長を追求しているとき、そこに住民の生活尊重の思想と法律がないので、人間を無視した異常な構造を造っています。 
 その異常な発展が地球規模の大きさなので隣国の日本にとっても大きな影響をもたらしています。経済面と環境破壊面で。

 でも独裁社会ではマスコミや野党がないこと、民主主義が根付いていないことなどで、地方政府もやりたい放題となり、独裁社会も一筋縄では統治できないことが判ります。