子 宝 を 授 け ま す


06/03/02 南方週末 柴会群

 38歳の王洪全と妻の李風英(仮名)は
結婚して以来ずっと子供が出来ない。「家系」を絶やさないために、二人はこれまで多くの人に相談し医院巡りをしてきた。たまたま見たテレビの広告に「長江医院は絶対子宝を授けます」と言うのを見て昨年11月から今年の2月まで、その病院に通い、成果が現れないまま、貯金を全部使ってしまった。
 即ち、基本検査で夫分が1685元、妻の分が1700元、卵管放射線治療で4000元、超高周波治療で2700元、短波治療で2400元、とお金が流水のように消えていった。
この医院に通う前にも二人は南京金陵病院や泰州市中央赤十字病院などで、2万元を使い切っている。
 この長江医院は宣伝では技術が高く診療は極めて親切で、「必ず子宝を授けます」と言っていた。
  
しかし少しずつ不安になってきたのは、会計の支払いが親切であるが、同時に治療・検査に当たっては事前に医者が二人に価格を相談し、二人が「少しでも安い方法で」と頼むと、病院提示と2人の希望額との中間で決められていることだった。

 結果としてはこの3ヶ月で瓦職人の王さんの年収が飛んでしまった。出来るだけその出費を抑えるために二人は検査には近くで一番安い1日30元の旅館を選び、1杯2元の麺を食べていた。
 ついには、妻の母に癌が発見されてお金が続かず、その病院を去る決心をした。その時病院は「惜しいですね。症状は8割方成功に近づいているのに」と言うのだった。

 任小国という人の場合、彼は杭州市から出稼ぎに来ている農民だが、予算を2万元に見てこの医院を訪ねた。1回目に6000元取られた。2回目は2000元取られた。
 それ以上お金が続かないと見て彼は通院を止めた。

 記者は他の患者にも当たってみた。しかしなかなか、使った費用を教えてくれない。
 江西省南昌の万俊昌という人は記者の質問にかなり長く逡巡した後やっと病院の領収書を見せてくれた。なんと2日だけで1万7千元と書かれている。しかしその彼はまだ検査を続けるつもりだという。
 また彼に病院が「最近記者と名乗って病院を困らせようとしている悪い奴が居るので注意してください」と言われたという。

また他の人は自分の名前の部分を消して領収書を見せてくれた。

だが既にこの病院は新華社と中央テレビで取り上げられ問題が指摘されていた。

 05年5月23日、四川省の出稼ぎ農民、浦正平夫婦がこの病院で「先天的不妊症」と診断された。しかし本当は検査の時点で妊娠していた事が後で解ったのだ。

 安徽省籍の出稼ぎ農民、葉浩隗という夫婦もこの病院で「先天性不妊症」と言われたが、11日後他の病院で検査して貰ったところ妊娠していることが解った。葉浩隗夫婦は長江病院の検査で3.5万元取られていた。この金を用立てるため2人は1.6万元を高利貸から借りていた。

 この種の偽医者に詳しい陳という人によると、上記の実際は妊娠している人達も、長江病院でレントゲン検査を受けているので、おそらく子供は死産となるであろうという。

  またこの陳さんに葉浩隗さんの子宮レントゲン写真を見せたところ、「先天性不妊症」では無く、すでに出産の経験があるはずだという。おそらく流産をしていたはずだという。 だが葉浩隗さんはこの話を聞いて飛び上がって否定している。「なんで出産の経験が有れば、3万元ものお金を使う筈がないでしょう」と言って。
 と言うことはこの病院提供の写真は本当は誰か他人のものかも知れない、ということになる。

唐利梅という人も「妊娠不全症」と診断され多くの検査が必要とされていたが、病院が出している薬を調べたところ、それは”胎児栄養剤”で、病院は妊娠を知っていたのだ。
またこの病院が多くの患者に出している「民間薬」と言う名目の薬が”何か”が上海市の衛生局でも調査の結果解らないという。
 記者が病院に行ったところ院長は新しい人に替わっていて、「民間薬」について知らない、と言う。
 検査治療の方法も問題で、最初に1回900元の検査代を取り、続いて超高周波検査、短波検査と続きそれらは共に800元する。

   訳注:
  出稼ぎ農民の月収入は良くても約800元程度。
  つまり1回の検査で1月分が消えていく。

 3月1日記者は病院の検査機器を見学させて貰った。しかし超高周波機は拒否された。後日説明書を新聞社に送るという約束になったが、まだ来ない。
 今年1月に発行された医学雑誌に長江病院の広告がある。そこに当病院で生まれた赤子達の健康な写真が掲載されている。記者がその赤子を調べて驚いた。誕生日は当病院の設立以前に生まれた子供達だ。
 
 院長は「もし治療費が高くて営業停止になるなら、上海の民間病院は全て営業停止だ」と言う。

 問題が明らかになって、昨年10月2組の夫婦が法廷に訴えた。
市の衛生局が調査に乗りだし、「診断不適当、過度検査、過度治療」となり、罰金8000元、警告処分となった。これは市の処分としては最高だという。
 市の衛生局は法律で裁いており「これが限度だ。治療費の決定は民間病院に任されている」という。
 長江病院の新院長は「確かに公営病院と比べれば診療費は高い。しかしどの程度にすべきか、それは民間に任されている。問題があるというなら市政府が上限を決めるべきではないか」と言う。

 新聞テレビに問題が出て世間の批判が起こり、長江病院の営業停止が囁かれるようになったが、衛生局はそれは出来ないと言う。
 
 市の衛生局宣伝部長の王丹氏は「病院の誤診はどの病院にもあることで、それでいちいち営業停止していたら、市の病院全てが倒産する」と言っている。さらに「大体メディアが騒ぎすぎで、それが病院経営を困らせている」とも言う。

 上海衛生協会主任の徐衛東さんは「病院の失敗を責めすぎてはいけない。今後とも病人を救うのが仕事だ。病院は何処も数万元の施設を何台も購入し、規則正しく営業している」と言う。

 市の衛生局が検査したとき、長江病院は無届けで「麻酔科」を設置していたが、衛生局の指導で届けを出し、当時の院長を解任し、現在は麻酔科で手術もしている。
 
 病院が診療費を自由に決められるという原則でどの病院も経営されているので、これ以上は責任の追及ができないのだろうか。

 現在の長江病院の院長によると各医者の収入はその診療と比例するという。

 そこで記者が調べたところ、当病院の不妊治療担当医は、5万元の収入があり、その他の医者は月に唯の5千元である。
 そして最近当病院は儲けの多い不妊治療科のみ残し、総合病院でありながらその他の科を全て廃止した。

 有る弁護士が氏名を隠す条件で語ってくれたところによると、この長江病院の行為は医療行為ではなく、詐欺行為だと言明している。 
 記者が03年の「上海早朝新聞」を調べたところ、長江病院の提供する医薬について、19種目が偽の薬、またはそれに近いもので、市の衛生課に20万元の罰金を払っている。

 市の衛生局の検査に依れば、利用患者の9割は上海市外から来ている人で、どの人もテレビの広告ではるばるやって来ているようだ。
多くの民営病院は広告で患者を集めてるところは似ている。設立資金が500万元で1回の広告代に数千元という巨大な投資をしているところもある。
 この投資効果は各病院が争って投資しているので次第に効果が減っていると言われている。
 有る病院の計算では300元の広告で患者一人を呼び寄せたが、現在では500元で一人の患者と、効果が下がっているという。
 その広告費が膨れあがり、病院としては仕方なく患者から代金を取り上げる方向になると言う。


 長江医院の投資者は、上海遠聲医薬公司の社長、廬万竜氏と林梅蘭夫婦だ。実際上病院の経営者だがこれまでマスコミに登場したことがなかく、静かにしていた。
これまでも性病関係の医療経営で儲けてきた。
 このやり方を有る関係者の話では、福県省の甫田県出身者の病院経営のやり方だという。医院経営の資格が無く、文化水準が低く、それでいて法的には経営することには何の問題も無いという。

 06年になって長江病院は営業所を変え、上海市の別の土地へ移った。法的にはこれで全く別の病院として新規開業として登録され、以降3年間免税扱いになると言う。
 これも福県省人のやり方だと、前記の人が言っている。
 
長江病院は上海以外にも多くの病院を経営しているようだ。上海は人口が多く営業に利が大きい。事実、開業以来1日の患者は100人程度だが年間収入が5000万元に達している。
 もし今回の問題がメディアに登場しなければその営業成績は「おめでたい」成長を迎えていただろう、と関係者は言う。
 だが今回の暴露で1日の患者数が30人位に激減したと、新院長が言っている。

偽医者探しで有名になった王海という人がいる。彼は8年前仲間と協力して性病関係の病院を調査して回った。その結果解ったことはどの病院も怪しい経営をしていることだった。

 その王氏が言う。
「今回の事件で病院経営者の廬夫婦の損害が大きいように見えるがしかしその傷は浅い。これまでも廬夫婦は怪しい経営で堂々と8年以上存続し、その資力は次第に大きくなっている。各地の市政府から最高投資者としての栄誉も貰っている。それまではラジオの宣伝だったのが今ではテレビの宣伝に変えて大々的に営業を拡大している。」

 昨年告訴された事件は2組の夫婦と和解となって解決を見た。葉雨林夫婦は和解金20万元を貰った。
 告訴した夫婦は「私達はこの問題が再発しないように法廷で争いたいが、しかし弁護士と裁判官達はこれ以上の訴訟にはもう協力できないと断られた」という。

 この夫婦を「不妊症」と診断した医者は半月前に「報道関係者が仕事に邪魔だ」と言って退職したという。

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訳者注:
 現在の中国の産業発達の典型を現していると思い訳しました。

 8年前までは人治国家で、全て党の「権力」で命令できました。
 階級敵を無くし、生産を国家が運営すれば社会の全ての矛盾が無くなり、人々の生活が安定すると言う思想でした。
 現在の中国は法律で社会を安定・発展させようと方針を変えました。

 病院経営も、例えば日本の場合、各診療行為が点数制で評価され計算されますが、中国では保険制度がないこともあって、まだそこまで行われていません。
 法治国家にする為には行政面の大きな努力の積み重ねが必要です。

 計画経済を廃止するときに、日本の通産省を見本に国家機構を変えようとしてきました。
 田中角栄の国交回復以来(1972年)、毎年中国から日本の官庁や病院や企業に大量に研修生が来ています。帰国した彼等が法の整備に努力しています。
 しかしそれを邪魔しているものがあります。党の権力です。
 現在世界で一番中国で炭坑災害が多いのは炭坑とそれを管理する党や市政府が癒着していることを最近の翻訳で紹介しました。
 その社会的悪弊は他の分野でも同じです。勿論この病院問題も例外でなく、しかしこの記事には党の対処が記されていません。
 弁護士と官が「法廷の訴訟を協力しない」と言う辺りでそのことが解るでしょう。
 社会主義という極めて送れた国家制度から近代社会に脱皮することは今後とも大変な国民的犠牲を多出するでしょう。
 
 それにしても2万元という出費が如何に大きなものか、出稼ぎ農民の2年間の収入です。
その出稼ぎ農民、或いは他省の貧しい人を対象に儲けるという道徳が現存することにも驚きです。それを当然視し養護する上海市政府があることも。
 50年間の新中国が人権を全く無視してきた償いが、国民相互が人権を尊重しなかったことが、ここに形を変えて表れていると言えるでしょう。