60名の教師が
   解雇を避けるために大量離婚


6/09/15 文学城

 丹東市では今80名程の教師達の挨拶は「ご飯を食べましたか」「忙しいですか」と言う普通の言葉ではなく「もう離婚は済みましたか」と言うものに変わっている。
 その言葉は冗談ではなく真面目なもので、既に60名が離婚届を済ませたという。

 事の始まりは市の教育委員会の指示文書に「新学期を迎えて。 
 再雇用条件として次の項目者を優先する」 ”離婚や相棒を無くした人、及び未成年者は除く”

 と書かれていることによる。

これを知った教師達は9月1日の新学期の前に戦々恐々として離婚の準備を始めた。
その通達は9月1日以前の届けを認める、と書かれていたので、それまでに60名の教師達が再雇用を望んで離婚届を済ませた。

 新学期、生徒達が学校に登校してみると、どの教室にも先生は居ない。たまに姿が見えいても、直ぐに何処かへ走り回っている。
 街全体にこの噂が広まり、子供達も今先生が何をしているか少しずつ知るようになった。9月12日、ある小学校では先生は誰も居ない。どの先生も離婚届に行っているようだ。
 親が後で聞いたところでは子供達は校庭で一日遊んでいたということだ。
 その次の日子供が学校を休むというので、親が理由を聞いてみると「先生が会議で忙しい」と言う。
 親たちが学校へ押し寄せたところ、校長だけが居た。その校長は「君たち親はこの問題に口出しするな。自分の子度だけを心配しなさい」と言う。

 そこで親たちがいろいろ調べて、教師の再雇用を確保するため先生達が安全対策として集団的離婚劇を懸命にやっていることが解った。
 ある親は「早くこの問題を解決して貰わないと。一番損をするのは子供達ですよ」と言う。
 またある親は「先生に離婚させて再雇用を保証するとは何と残酷な話。こんなことがいつまで続くのか」と心配している。
 また「長年生きているが、こんな話初めて聞く」という70歳過ぎの人も居た。
 
 先生の話

 記者が30歳少しの女教師に聞いた。
彼女は涙ながらに「3日前に離婚しました。私の親たちは知識階級で離婚を不吉なことと考えています。それで夫が離婚を強要しましたが一度は拒否しました。しかし現在夫は失業中で、もし私が離婚を拒否するなら彼は家を出ると言います。一晩言い争いをして、夫の言い分を聞くことになりました」と言いながら、彼女は又しくしくと泣き出した。

 ある先生曰く「私は最も遅く昨夕、離婚届をした人間です。もし9人の解雇をするなら私になるかも知れません。私は教師としての能力に自信を持っています。でも解雇が順番に行われるなら私になるかも知れません。とにかく最善を尽くそうと思って離婚届をしました」と言う。 

 体育教師の話

 彼はまだ若い。銀行へ勤める妻が居る。2人の仲は順調だ。現在は両親と同居している。
離婚を決める前に先ず両親に借家を借りて別の家に移した。もし親が離婚するなどと知ったら、話が纏まらないと考えたのだ。
 後から離婚と聞いても精神的に不安になって病院に世話になるかもしれないと言う。  記者が採訪を終えた後も、彼は何度も親に絶対内緒にしてくれという。
 さらに彼は妻の職場の人が知ったときのことも心配だという。というのは今の妻は若くて美しい。もし彼女が離婚したと知ったら、誰かが求婚するかも知れないと言う。
 
 ある夫婦の話

 妻の方は小学校の主任だ。5歳になる子供が居る。離婚したことは近所の誰もが知ることになった。そこで子供までが知るかもしれないと心配していたところ、子供の方から「パパ、ママ、離婚するの」と聞いてきたのだ。 しかし考えてみれば、言葉の意味さえ分からない幼児のことだ。今は「大丈夫だよ、そんなことは無いよ」と答えたが、しかしやがて本当のことを知る年頃になるだろう。
  
 彼女はさらに「何処の地方にも離婚していない先生、または子供の居る先生が大勢居ます。各地方で9人解雇するというのは本当に残酷です。子供がいれば直ぐに離婚届をするわけにはいきません。離婚しなければ最初に解雇されるでしょう。私達は昨年国家の命令で採用されました。今年又国家の命令で解雇されます。こちらは対応の仕方がないので、ただその命令を聞くしか方法がありません」と語る。
 
 問題の発端

 教育委員会としては解雇に当たり、少し人間的な配慮をしようとして解雇除外規定に「離婚」と言う文字を入れたという。それが全市を上げて先生達の離婚劇に発展するとは考えていなかったという。
 記者がその文面を読むと、「9月1日までの離婚のみ採用条件とする」と書かれている。しかし問題が大きくなっているのでこの期限は無視されるようだ。

 離婚届

 記者は結婚・離婚届所に行ってみた。大量の届けを受けて如何にも緊迫した状況を想像していた。しかしそこはいかにも静かだった。
「離婚届に大量の人が来ました。しかし彼等は職業を名乗りません。離婚原因は双方の同意と言います。ならばこちらでは何も言うことはありません。離婚原因に”新しく職業を得るため”と言われればそれは理にかなっています。
 それに”先生”といってもこの市の出身とは限りません。離婚届はそれぞれの出身地へ行きます。そこでここばかりが忙しかったわけではありません」とのことだ。

 9月14日は学校が休みで、校長の任命が出ることになっていた。しかしその会議は中止され教職員の会議が開かれた。記者が構内に入ると同時に救急車が出て行った。それは会議で激論が起こり一人の先生が心臓病で倒れたという。多分命には別状はないだろうとのこと。
 会場に居た教育委員長は「この規則は今年の8月に作りました。離婚者は優先的に再雇用と書いたのは人間的配慮からで、今更この項目を除くことは出来ません。まさか逃げの離婚劇が起こるとは思いもしません。本当に人の心は計りがたいです」と言う。

 その夜8時頃会議が終わって記者が退散する頃、区の責任者が来た。
 「今日はひょっとすると一寝入りも取れないかも知れない。この大問題を解決しなければ。この学校で昨日までに離婚届けをした先生は60人居ます」と言う。
 
 そして今日先生の雇用選出日だが、「不採用」を希望する人は誰も居ないようだ。

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訳者注:
 丹東市:中国遼寧省と北朝鮮との国境の川縁にある市。
 中国人も日本人も朝鮮を見るために大勢の観光客が行きます。河の向こうが北朝鮮です。橋を両国を結ぶ汽車が走っています。

 8月に規則を決めて先生を解雇。
 日本の場合労働者の解雇は最低1ヶ月前に通告が必要です。日本では公務員には団結権があります。しかし中国にはありません。
 (形だけあります)
 建国時、「中国社会には階級対立が無くなり、社会の根本的大きな矛盾は消滅した。党は人民の利益を先頭に立って守る」、と宣言し、国民は団結する必要がないと言う理由で無権利状態になりました。
 そこでこの事件のような、嘘か漫画のような人権を無視した事件が起こります。
 
 
 就職は国家の命令
 90年代半ばまで”国家”の名前で学生は「分配」され、就職が”上から”決められました。現在は学生が自分で選択することが原則になりました。しかし”先生”は今もその形を取っているようです。   
 学生達は一層「分配」を嫌がるでしょう。