飲用水の安全

06/04/20 南方週末 朱紅軍

 06年の4月8日、広西省欽州市で17時間、飲用水が停止した。水源とその処理から各家庭までの道管について今誰もが不安を抱く状態だ。

 そこの飲用水管理所長の翁剣明さんは、毎日自分の水源地から出ていく水の中の塩素をはかるために3分煮沸後飲んでいる。だが最近、煮沸では取れない重金属が見つかり頭が痛いという。

 精華大学水源研究センターの主任、傳濤さんも「2005年の松花江の大規模汚染事故以降、飲用水の安全が大問題となっている」と」説明する。

4月8日欽州では数十万戸の家庭が17時間の飲用水停止の災禍に見舞われた。ハルピンの悪夢再演であった。
 その原因は大雨で水源地から1キロ離れたところにある大型工業地帯のゴミと石灰などが水源へ流れ込んだのだ。

 翁さんによると、1年に1,2度、小規模の飲用水供給停止が起こっているという。いずれも原因は水源地の工業汚染である。管理事務所では連日連夜監視をたて、色と味、においを調べている。
 彼は「この10年、毎年水源地の水は汚れる一方だ」という。
水源地への混入予防用堤防があるが、次第に役に立たなくなっている。それは中国全体でいえる、とのことだ。
 中国全体で118の大・中の都会での水源地管理分析によると、地下水の汚染が全国に浸透している、とのことだ。

 05年に”人民大会”に報告された「汚染防止委員会」の資料によると、中国の7大水系の30%がすでに飲用水として使用不可能な状態である。
 例えば黄河中・下流では全く使用不可能となっている。
 淮河水系の60%が使用不可能、千島湖、太湖もともに近年使用禁止される状態だ。
 中国土木学会の給水委員会副主任の王占生さんも「安全な水は中国ではなかなか見つからない」と嘆いている。

 最近各地政府が水源地確保の法律を作り出したが、だが現実はその対応よりも数段早く悪化している。
 浙江省環境保全局が太湖で行った16カ所の取水地での調査によると、その82%が不合格であることが判明した。

 上海では黄浦江からの取水が放棄され、揚子江上流へ水源を取りに行っている。上海周辺には水源地に適した場所は消えているのだ。

 01年から04年の国家環境保全局の「環境広報」によると、”水源地汚染事故”は3988件で、毎日平均3回起こっている。

一度使用不可能となった水源地は回復不可能と見られている。そして今後の対策を立てるには30年先を見越した対策が必要だと、専門家に言われている。
 現在中国の西部や水源地の上流には農村しかない。そこでの汚染は生活排水程度であるが、もしそこでも工業汚染が始まれば、もう中国には水源地がないと言うことになると指摘されている。

 飲用水処理の技術

 中国の飲用水の90%は沈殿と塩素混入の方法がとられている。それは100年前から採用され、今後もほとんど変わらないと見られている。

 中国疾病予防制御センターの鰐学礼さんは、「工業汚染の増加によって塩素と活性炭の使用量が増えているだけだ。それらの効用は消毒など細菌へは有効だが、伝染病や化学物質、重金属などには効用はない」という。

 先述の王占さんによると、塩素は有機物の30%を殺す。が残りの70%は一般家庭に混入する。工業汚染が含まれていると、水銀、カドミューム、鉛、ヒ素などは防げない、と言う。

中国湖沼環境研究所の劉鸛亮さんによると、世界での飲用水に含まれる有機物質は2000種類を超えて発見されている。そのうちの114種は癌や奇形児を産むものだ。
 現在の中国には100種類が検出されている。
天津や遼寧省で発見されている青ガエルの奇形などは飲用水からの汚染と見られているが、人体への影響はまだ発見されていない。 04年2月発生した陀江汚染の場合は、化学工場の高濃度の硫化アンモニュームを直接陀江に放流したものだった。その結果百万所帯が受難した。

 今年本紙記者がある大都会の水質について調査したとき、ある市は「本市は国家安全標準に適合し全く問題が無い」と突き返された。
 これが意味するのは、「国家安全標準」というものがすでに飲用水の基準としては不適当であることを意味している。

 中国の「国家標準」は1985年に制定された。そのころは何が有害かがまだ充分に理解されていなかったようだ。
例えば松花江の大規模汚染で混入した消化ベンゼンは現在の国家標準には記されていない。
 ある学者が言うには「20年間国家標準を変えないことは、民生について考慮しないことと同じだ」と言っている。

 1995年から2年間、衛生と建設部局で国家標準改訂の会議がもたれた。しかしその結果を上級へ報告されなかった。なにか問題があったようだ。
 2000年にも再度専門家会議が持たれたが、はやり報告は出なかった。
 02年7月衛生部は独自に「衛生規範」を作成、次いで04年に建設部も水質基準を作成している。
 両者の基準では”106”の汚染物質を指定している。

 だがこれらの標準は実際の水源管理所では基準として採用されていない。現在も「85年標準」で運用されている。
 多くの専門家は、直ちに新しい「国家基準」で実際の運用をすべきだと言っている。

 だが、翁剣明氏は「多くの水源地では85年の標準で規制されている項目に35個も汚染物質が検出されている現在、新しい基準を採用すれば合格する水源地があるだろうか」と心配している。 
 傳濤教授は水質管理の実行権限を持った機関を設置しなければ、運用が人情に流されると言っている。

 又別の専門家が言うには、基準の高度化は水源管理の技術投資を意味し、飲用水料金の高騰をもたらすだろう、さらに水源管理とその分配についての利害対立が衝突し、それは中国全体に及び、改革が元の木阿弥になる恐れもある、と指摘している。

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訳者注:
 中国の国家体質を表現した記事と思い訳しました。
 毛沢東在世中の30年間は「社会主義に根本的矛盾はない」として、法律で社会を規制する必要がないとされました。彼の死後、党治でなく法治国家の必要が認識され初め、法律の制定が始まります。
 80年代半ばから計画経済が廃止され経済成長が始まり、同時に工業汚染が目立つようになります。92年登小兵の「豊かになれる者から豊かになろう」という運動から、高度成長万能主義が始まります。

 都会の空気が世界でも最悪の汚れとなり、建国後依然として水道管水の赤黄色の汚れは全く改善されず、街に塩ビの袋が散乱します。
 一歩社会が発達すればそれに伴って起こる変化に対する自覚や対策が伴いません。
 その根本的な原因はやはり全ての人が国家や社会について問題を知り発言する権利を保証されていないからでしょう。(報道の自由や議会の無いこと)。
 全てを「党が指導する」、この制度がある限り、社会の現状改革は後手後手になるでしょう。