公的機関が女性を強制入院、合法か

06/11/16 南方週末 孟登科
 
 8月29日、新学期が始まった直後、江西省のある学校の女性職員、黄遠蘋が職場の秩序を乱したとして強制的に精神病院へ入院させられた。病院は職場の要求により、家族や友人の面会を拒否している。

 実はこのような事件が多発している。これは法的に正しいのだろうか。

 9月26日、学校がこの女史を医師に診断させた結果”偏執性精神分裂症”として直ぐに第3人民医院に入院させた。病院側はこの手続きに法的問題はないと言っている。
 鑑定書類には学校の印が押されているが家族の同意書はない。
 校長は「家族の同意を求めたが賛同を得られなかった。職員の健康を維持する責任上、当学校は必要な手を打った」と言っている。
 病院の有る職員は「このようなことは良くあることです。職場の要求とその署名が有れば家族の同意は必要としません」と言っている。

 黄先生の話。
「車で病院へ到着すると私は衣服をはぎ取られ、患者の衣服に替えられました。それから20日間、両手をベッドに縛られ動けないようにさせられ、その後普通の病院へ転移させられました。
 そこでは身体の拘束を解かれましたが、部屋の中だけの移動が自由で、家族との面会は出来ません」

 精神病院へ入院させられたことを知った母親は毎日面会をも求めて病院へ通ったが病院は「職場の同意が必要です」として母親の面会を拒否。

 病院長の説明。
「黄さんは学校の要求で入院しました。、そうすれば学校の許可がなければ面会は出来ません。これは長年の慣例です」

 10月18日、病院の診察鑑定が変更された。「偏執型精神分裂病」から「偏執型精神病」へ。これは病気が軽いことを意味するという。

 母親は病院に泊まり込んで面会を要求していたが、10月12日、鉄扉を経て娘と20分間の会話が許された。
 1ヶ月が経ち母親の顔は連日の涙でしょぼしょぼしている。そして記者に語った。
「どうして母親の私が実の娘に会うことが出来ないのですか」と。
 学校側は01年から黄先生が精神分裂病だと考えていたという。

 何が学校との間で揉めたのか。

 中央政府が発行していた文書(23号)により、04年11月彼女は住宅購入の補助金6万元を支給して欲しいと学校に要求。校長は当学校はまだその準備がないとして拒否。
 学校の書類によると、黄先生はその後20数回学校に支給を要請。それが学校の秩序を乱したとしている。そしてその処罰して彼女の04年度の報奨金から1200元を減額している。

 05年3月、黄先生はその処分を不服として、事務主任と衝突。事務主任は軽傷を負ったとして、黄先生は公安に7日の拘留処分を受けている。

 黄先生は「女性の私がどうして男性に怪我を負わせることが出来るでしょうか」と主張し、その拘留は免罪として訴訟したが、敗訴となっている。
 満足出来ない彼女は省政府へ訴えに通った。しかしその度に「学校で解決しなさい」と言う指示が出ただけだ。

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  精神病者の強制入院

06/11/16 南方週末 孟登科

 06年9月1日、「新京報」によると、重慶市の女性医史が夫により4度も精神病院に強制入院させられていた。司法が彼女は精神病でないことを証明した結果、彼女の夫が2号さんを作り、正妻を精神病院に送ったことが判明した。

 06年10月21日、27歳の深浅市の女性が家族により精神病院へ強制入院させられた。彼女の弁護士が病院で面会を求めたが、病院が拒絶。弁護士が現在提訴中。

このところ家族や”単位”から精神病を理由に強制入院させられる事件が中国全体で多発。
 現在の所、中国にはそれに対する法的制限がないことが問題を蔓延させている。
 北京大学の教授、孫東東氏は「北京へ直訴した争議では、その上京した人の多くが企業や”単位”により精神病院に送られている」と言う。
 
現行民法では入院させる為には法院の許可が居ることになっているが、実際は”異常な病気”と言う理由で病院側は法的証明無しに受け入れている。
 精神病の鑑定を受けるには3ヶ月から半年が掛かる。これでは病気の治療に差し障るからだ。また法的な手続きには3000元以上の費用が掛かり、一般の人は支出が不可能だ。
 
 ”単位”が頻繁に精神病者と命名して被害者を精神病院に入れているのは、根本的には法的な空白があることを利用している。  

病院側は主治医2名が一定期間診断して精神病の判定をすることになっているが、実際は患者を送ってきた側の資料に基づいて受け入れている。
逆に女子の精神病者の不妊治療を命じられた病院が、患者側の利益を考慮して治療しなかった例もある。
 その辺も法律上の盲点となっている。

中国の「精神衛生法」が何時出来るのか。実は1985年にその成立が計画された。だが現在になってもまだ正式な法律とはなっていない。
 上海市はそれに先立ち、強制入院を制限する法律を作っている。

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 訳者注:
まさに社会主義らしい恐ろしい話です。
 中国の職場は「単位」という国営企業が基本です。一つの「単位」は大きくて、職員が10万人以上居ることが普通です。そこでは裁判から公安・病院まで全てを抱えています。
 この記事の学校というのもその「単位」で地域的にも相当大きな構成でしょう。
(この記事では学校名は記されていません)
 その「単位」の権限は絶大です。
 人民病院もその単位に含まれていて、単位からの要求を拒絶することは実際は不可能でしょう。
 10年前までは「単位」から追放されたら広い中国で生きていくことは不可能でした。

 私の翻訳、02/06/06にも、黒竜江省で土地分配に不満を持った主婦が北京へ直訴し、地元政府によって精神病院へ拉致された記事があります。

 毛沢東の死後個人の権限で中国が動かされることを嫌って、1980年代の半ばから中国を法治国家にする必要が叫ばれてきました。法治国家にすると単位の権限が制限を受けます。時には党さえ制限を受けます。党の車も交通ルールを守ろうという動きもあります。
 つまり法治国家にすれば権限を失う階層(単位や党)があり、大きな制約を受けます。
 中国の民主化を妨害しているのが党や単位であることは明白です。

 「計画経済」も人権を認めたら活動出来なかった制度で、民主化阻止の最大の壁でしたが、農民達の反乱で崩壊しました、ただし農民の職業選択と住居の移動の自由はまだ未解決です。

 WHOに加盟して以降、世界の情報が国民の目に入ってきて、これまでの人権抑圧が誰の目にも明白になってきました。この記事の精神病院への拉致もその過程の一事件でしょう。一事件と言うには大きすぎますか?
 20日間ベッドに縛られたら貴方の精神はどうなりますか。