消えゆく古跡名所


06/05/11 南方週末 徐鐘







(概略) 今年の4月9日、福建省の和平鎮の「李氏大夫第」という明・清時代から続く建築物の一つが大雨で倒壊した。倒壊面積1200平方メートルに及ぶ。
 02年から観光名所としての開発が始まり、請負業者は最初は大きな計画を持って数百人の住民を立ち退かせていたが、途中で資金が無くなり、開発を放棄した。管理事務所にも人影が無くなると、由緒ある建築物は居残った住民のゴミ捨て場や戸外便所になっていた。

 和平鎮の歴史は古く、4000年の古代建築物も残っている。中国での歴史的由緒ある最高の価値ある所と指摘されていた。

 開発が始まった頃住民達の意見は2つに割れた。ある意見は開発業者の提議する金額は世間より低く売りたく無いというもの。
又反対の意見は開発が成功すれば観光客相手に乳や豚肉を売って儲けたいというものだった。
 現在居残った人たちは開発の続行を求めて不安な気持ちで毎日を過ごしている。

 このような開発は今中国全土で次第に熱を帯びている。
 ある専門家は中国で古跡名所を見つけるには少数民族の住む所しか存在しなくなるだろうと言う。
 上海には「青浦朱家」の開発が217軒の立ち退きと100億元の投資で観光地にする計画がある。
 「南濤」では23億元の投資計画がある。
 これらの土地は上海西部で唯一未開発の所だ。この5年の間に40億元以上の投資があると見られている。

統計によると中国には保護に値する古跡名所は2800カ所ある。そのうち2000カ所が相当程度すでに破壊されている。現在中央政府が最低でも保護すべきと考えているのはそのうち80カ所で、まさに「お涙」程度の対策だ。

アメリカでは歴史遺産の保護を重要視しており、国家として法律で規制している。そこでは20年以上の歴史があれば裁判所の許可なしに改造できない。

 ドイツやフランスでも古代名所を守る法律は厳格で、その意図は時代の変遷にかかわらずその地の住人達が静かな環境を楽しむ権利だとして重要視している。

 中国ではそのような法律がまだ無いので、1000年以上の古代建築でさえ消しゴムで消すように簡単に削除できる。

 文革の時代、お寺や祠や古代文物を政府主導で破壊した。しかしそれは現在から見れば古代建築のほんの一部であろう。端末の破壊ともいえるだろう。しかし1980年代以降の開発による破壊は根本的全面的なものだ。
開発によって失われた純朴な民の風習、節操のない観光業者の乱立、歴史や名所と関係ない”紛れもの”の販売の横行、これらも心ある人たちの悩みとなっている。

 例えば桂林。
1996年に現地へ行った人の話では、観光に通じるどの通路も家々の戸は開いていた。そこへある観光客が行くと老人が出てきて世間話が始まったものだ。話が終わると老人が地元で出来た果物類をお土産にくれたりした。それが夜などの場合全天星空で、周囲には全く音がしないので小さな声でも遠くまで響いて行った。
 だが2004年の桂林はこうだ。
街のどこにも提灯が掲げられ酒場や喫茶店が出来、夜になっても街が明るすぎて星が見えない、周囲の騒音は深夜まで市場のように騒がしい。
 
桂林から4キロメートルの所に「束河古鎮」と言う名所がある。そこを開発した業者の副社長は、投資を取り戻すのに10年掛かると考えていたが現在の観光客の増加から見ると5年で元が取れそうだという。

省単位でもっとも開発が盛んなのは浙江省だろう。寧波から温州までの200キロの国道に沿って見える家々、それらは夜になっても火影が見えるところはなくなっている。

 諸葛亮孔明で有名な諸葛村は古跡名所保存で成功した例である。

訳 注 : 諸葛亮孔明 181年 - 234年


 そこには孔明の子孫が4000人住んでいる。
 ひとたび開発が始まったが、開発業者から土地を買い戻し、村の管理として駐車場を造り、収入を村で管理し村民に分配している。
 利益の一部は水道水の供給や若者の大学進学費用に充てたりしている。
 今年の1月から4月15日までの観光収入は200万元で年間収入は700万元になると予想している。

「 周庄」と言うところでは観光名所の面積は0.4平方キロにすぎないが、一日の観光客は6000人になる。最高の人出は2万人を数えることもある。
 桂林や大理なども有名で観光客で埋まっている。そこでは観光収入に一喜一憂し、他方同時に集まりすぎた人の流れを如何に安全に案配するかに悩んでいる。

江西省の「ム源」と言うところ、そこは中国でもっとも美しい農村と言われていたが、現在観光客は現地の人にとって敵が来た、と見られている。
 04年にそこを訪ねた人の話。
通りかかった現地の人に道を尋ねると、その返事は極めてつっけんどんで「知らないよ」の一声だけだった。いや、続いてもう一声来た、「何しに来た」と。
そこでは肉親同士が宿屋の経営で客を取り合いし、観光客を見ると喧嘩が始まる様で、現在ではどこの家々も門に鍵をかけて人に出会わないようにしているとのことだ。金銭が絡まり人間関係が強いだけに難しいことだ。
 
 雲南最大の土地開発業者、柏聯集団は地元政府に観光通路に面して建っている新しい建物を撤去することと、既存の農地を減らさないよう要求した。そうして原住民達がこれまでの生活方式を維持できるように考えたのだ。
 農民達は早朝早く畑仕事をし、お昼には洗濯をし、その後は井戸端会議となる。清明節には8大宋祠に集まりお祭りをしている。
 
 そのような開発方式は他の古跡では見られない、と業者は自慢している。


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訳者注:
 諸葛亮孔明は今から約1800年前に居た人です。中国には歴史のある名所が大変に多いことが解ります。
 中国では同姓が多く血族結婚をさけるために各家庭が系図を持っています。
 それで1000年を超す子孫が証明されるようです。

 先日鳥取へ行った人の話を聞くと、中国からの黄砂が車に積もるほど降るそうです。
 その黄砂も最初は計画経済による森林乱伐でしたが、現在は開発に大きく関係しています。公害の影響を直接受ける日本です。

 最近の上海や北京のビルが次々に建つ開発を見た人は、おそらくこの記事にある古跡が急速に消えていくことを納得し痛感するでしょう。

 中国の場合、人権や住民権がないので、簡単に開発が可能です。
 現政府はGDP優先ですから、党幹部は開発業者に住民を追い出させ、成績を上げています。1党独裁の国家が開発に血道を上げる場合、そこにはマスコミや議会や労働運動など反対の意見や注文が出ることがほとんどありません。そのようなとき変化は急速ですが巨大な犠牲と破壊と公害を噴出するのは目に見えています。
 日本でも30年前はこれに近い状態でしたが、しかし日本には法律やマスコミや労働組合や野党や少数利益団体や地元団体などが開発の一方的なやり方にある程度阻止の力を出しました。それらの力関係が現在は法律化されて環境保護に役立っています。先日昔公害で有名であった四日市を通り、空が真っ青なのを見て驚きました。
 現在の中国にはそれらが有りません。一方的です。

 唯一の障害は国際的な監視だけでしょう。
環境破壊、古跡の破壊はもっと大きな破壊の前触れを意味しているかもしれません。
 自然環境のアジア的規模の破壊です。