松花江の汚染で中国重工業の配置に疑問

05/12/08 南方週末 傳剣鋒

 05/11/13爆発の危害が何故工場内で収まらず、ハルピン市内やさらにはロシアの諸都市にまで影響を与えたのか。 
中国安全生産科学研究所の魏利軍氏は「非合理的工業計画とその工場配置がたびたび事故の影響を工場外部へもたらしている」と言う。
 吉林工業化学という国内最大のベンゼン製造工場が川に沿って配置されている。これまでにも大きな事故が何度も起きている。
 1950年代に建設されて以降、松花江に排水された ”水銀”はすでに150トンに上る。沿岸の住民に水俣病が広範囲に存在する。やっと10年ほど前から水銀清掃の作業が始められた。さらに松花江沿岸には油田やその精錬工場、化学工場が多数配置されている。その汚染は目を覆うばかりだ。
 
 その他の地点でも工場配置が問題になっている。

03年12月23日、重慶で「中国石油川東掘削公司」が特大の爆発事故を起こし、243人が死亡した。爆発現場から100メートルの地点に農家が多数存在した。
 04年2,3月に四川省「ツオ江」(沱江)で大量の窒素化アンモニアが流出した。沿岸の簡陽・資中市の百万の市民が飲料水が使えなくなった。
 このような工場汚染は化学工場だけではない。重工業は何処も相当老旧化した機械を使用しており、危険性が指摘されてきた。
 重慶の「長陵化学」は98年に劇毒の塩化バリウムを揚子江に流した。04年4月16日、天原化学は塩素ガス缶を大爆発させたがそれを消し止める手段を持たなかった。
 これれらの工場は1950年から60年に掛けて建てられたもので、当時は近くに民家が無かった。時代と共に近隣に住宅が増え、その地域が一般居住区になっている。その結果一度大きな爆発が起こり、15万の市民が大移動した事故例が多数存在する。事故後移動した「嘉陵化学」の場合、現在は直ぐ傍の100メートル以内に重慶工商大学と住居群が建てられた。そして住民と学生に何度も塩化水素公害で重大な健康障害を与えている。

  訳注:重慶。揚子江中流の3000年の歴史、人口は3100万人の巨大都市 
 
 嘉陵江上流の「農豊化学」は重慶市の飲料水使用を不可能にしたことがある。
 重慶近辺の化学工場が2004年前後に公害事故を起こした事例は78件に上る。
 
 有る関連工場の技術者が記者に説明してくれたところによると、中国内で都市上流の河川流域に配置されて、飲用水に影響が出る化学工場は2000個有ると言う。
 例えば化学工場「蘭州石油化学」が黄河上流にあり、その存在が憂慮され、国家環境保安局が危険視している。
 
 旧式の重化学工場設備を取り除くことも出来ず、そのまま使用した状態で近年新しい新規投資が大規模に行われている。
 国家環境保護局によれば、現在中国は工業化学への歴史的とも言える大発展の時代に突入している。

 石油化学を例に取れば、04年の成長率は32%を超えており、GDPの18%を占める。そこには安全を無視した配置と生産が大増加していることが見える。
 特に大都市近辺での工場設置が専門家達の憂慮を引き起こしている。
 例として漢江上流に化学企業が乱立している。その水質は既に異常に汚染されており、淮河沿岸にも化学工場が密集し、対策にこの10年間に100億元以上の投資がされてきたがほとんど改善されていない。
   
 国家海洋局が発行した「04年中国海洋環境質量公報」によれば、渤海湾、江蘇近海、長江口、杭州湾、珠江口、等の近海は重大な汚染地域となっている。その周辺には科学関係の企業が密集している。
 中国の統計が示すところを見れば、国土の3分の1が酸性雨に晒され、主要河川の水系の5分の2が劣悪な水質となっている。3億の農民に安全な飲料水が無い。4億の都市住民が重大な呼吸器系の病気に掛かっている。1500万人が気管支炎と呼吸器癌を持っている。その経済損失はすでに計り知れない。
  
今回の松花江の汚染対策について、黒竜江省環境保護科学研究所副院長の櫂平陽氏は、先ず工場の排水口を当面閉鎖し、さらに沿岸の化学工場を他の地方へ移転すべきであるという。ただこの「吉林化学」と言う企業は巨大でその移転には天文学的な費用が必要になると言う。これは当地の政府にとっては当面頭の痛い難題となろう。

 重慶市は2001年に7個の大企業に19個の移転先を提示したがまだどの企業も腰を上げていない。その理由は移転の費用を出し渋っていること、今動くと国家からこれまでの慣例となっている補助金が出なくなること、工場で働く人達が大都会に住みたい等の理由による。
 だが04年の天原化学工場の大爆発に対し、ついに政府は移転の強制命令を発した。
 だが郊外へ移転しても環境悪化が消えるわけではない。
 

 環境保護の面から指摘されていることは、国家が出している各種産業規制を守っていてはGDP拡大に対する貢献がおろそかになるということだ。国家安全管理局が7つの省と1市の化学工場とその貯蓄倉庫が危険であると指摘している。
 昨年四川省の沱江で爆発した化学工場の場合、環境保護を考えていては移転先は無いということのようだ。

 このため総合的対策を考える上で、環境保護の目安を取り入れながら、なお関係する党や役人の政治成績を考えた「GDP採点票」を作るべきだという意見が学者から出ている。

 今回松花江公害で辞任した国家環境保護局長の解振華氏は辞任直前の公演で「今後の社会は環境と釣り合うものとする必要がある。そして今後の社会は高度消耗、高汚染、低経済成長時代を迎えるだろう。そのとき盲目的に消費をする社会であってはならない。奢侈品を使い捨てる社会ではいけない。社会全体で環境保護に取り組む必要がある。そのことは社会各層に対立をも生むだろう。だがそこに環境保護という面で協調できる関係を作るべきだ」と述べた。
 また「最近の中国は世界からその高成長が注目されている。その中で中国は環境保護にも取り組んできたが、現在その成果は全く楽観出来ない。先進国が100年掛かって環境保護に取り組んできた諸対策がこの20年で要求されている。そして中国が掃きだした公害は巨大な損失を生んでいる」とも述べた。

 現在重化学化へ向けて邁進している中国にとって正に的を得た発言ではないだろうか。 
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訳者注:
 
 このような具体的な記事が新聞に登場するのはとても珍しく、多分新中国始まって以来最初ではないでしょうか。この新聞は事実を独自に調査して記事にすることを目標にしています。他の国では当たり前ですが、このようなことが社会主義でこれからも出来るのでしょうか。

 なお05年末、日本でも報道されましたが「農民暴動の事実を書いた”新京報”の編集長、楊武と2名の副編集長が解雇され、2000名の記者が12月29日からストライキ突入」と言う記事が「文学城」に出ています。
 ”新京報”は南方日報が49%、光明日報が51%の出資で2003年発刊、編集委員長の楊氏は南方日報から送られました。
 彼が解雇され、光明日報が編集長を出すと言うことになったそうです。
 ”新京報”の姿勢は「事実を調査し報道する」となっていて、中国知識人の広い支持が集まったそうです。これは勿論これまでの報道機関の常識を覆しています。
 党中央を激怒させた記事とは05年6月河北省で土地取り上げに反対した農民と公安が衝突、6名の農民が死亡した事件です。
 新京報の1面トップに「補導に責任を持つ」と言う大文字がいつも飾られていましたが、05年11月3日号を最後にその言葉が紙面から消え、今回の中央宣伝部の命令による人事異動が行われたとのこと。
 
 この半年の間に中国では大規模な農民暴動が何度も起こっています。農民が先行して起こしたものは皆無で、常に農民は受け身で、土地取り上げへの抵抗です。
 地方政府の党幹部がGDPを上げて政治成績を上げるため、工業化を急いで投資を呼び込み、農民の土地を取り上げています。
 しかしこれまでは党や政府に反対することなど皆無だった中国でこの動きは何を意味しているのでしょうか。
 でもそのほとんどの事実はまだ中国ではなく日本や外国でしか報道されないわけで、しかし党幹部は政治成績を上げるのが至上命令で、今後が注目されます。
 
  なお以下はその"新京報"の06/01/09の紙面からです。

 黄河が60キロメートルに渡って汚染拡大

 河南省恐義市で1月5日発生した重油6トンが漏洩し黄河に流入した事故で山東省は全域に渡って警戒を強め、63カ所の取水口を閉鎖した。
 黄河の汚染濃度は許可水準を高く超過しており、汚染流域は60キロに及ぶ。
 飲用水には不可能で、その他一般生活に大きな影響を与えるだろう。 

 関係局に依れば13日には全て海に注ぐと観測されている。

 以上です。再見