張 ト (映画女優)
       何が恥か


06/11/23 南方週末 張捷

 訳注:次は現在中国のマスコミを賑わしている事件で、女優が身体を提供して役を得ている実態を張トという女優が裁判所に訴えました。監督達との性行為をビデオと録音でインターネットに数度掲載した。南方週末も取り上げています。その概略。

記者:03年12月末、張さんは映画監督の黄健中が強要した性行為をビデオに撮った。これを元に「女役者の弱み」を訴えて裁判に持ち込んだが、北京市の審判は張女史の全面敗訴とした。
 法廷は曰く、「このような暴露方法で世間の人気を集めようとした非道徳的恥知らずの手段である」。

 これは現在娯楽圏を騒がしている問題だが、しかし良く考えてみればこれは厳粛な人権問題であり社会全体の道徳の大問題である。
 その後も張さんは真実を知って欲しいとしてその他の監督達との20以上のビデオ及び録音を数度公開した。
 
張:私が北京の芸術学校を出るとき学校側から心の準備として性の提供を教えられました。それ無しには役を貰えないと。
最初の小さな仕事で役を貰うとき、それを断ったので仕事から干されました。周囲ではカメラ担当者達も娘達を騙し、脅迫して意のままにしていました。
 食事に誘われ、この誘惑を聞けば貴方に大きな役が来る、それが常套の言葉でした。
 どんな女優も誰もが役を得る時全く嫌になる気持ちになったでしょう。
 ビデオの撮影は友達に頼んだり、中には監督が平気で許可したこともあります。そのような監督は大体がごろつきのような人達です。でもそのようなビデオを知ったら、普通は「お前は二度と役が貰えない。女優の人生は終わりだ」と脅迫しました。
 
 ビデオを公開してから「人をペテンに掛ける、卑劣だ、低劣なやり方」等と言われています。
 
記者:張さんはホームページで「全国民に聞く」として、「中国では女性は男性の言うことに従わないと行けないのか。忍従のみが女性の美徳か」等と記しています。

張:封建社会でも浮気男と女は同罪でした。何故現代、私だけがこの様に映画界から締め出されねばならないのでしょうか。
 それだけではありません。現在のメディアは全て監督達を弁護し、法院も私を非難しています。
 今回の法院の言葉に「女優が映画界で働くにはその社会の一切の道徳とマイナスの影響を容認しなければならない」と言っています。
 このような映画界での世間知らずの、社会的廉恥行為を私は大人しく受け入れねばならないのか。それは出来ません。法院の言葉こそ、真の恥知らずではないでしょうか。

記者:今後貴女は何を望みますか。
張:監督達の畜生のような要求が有れば直ぐに道徳的に譴責される監督機関が欲しい。
 
 私が恥ずかしさを押し隠して公開したビデオのやり方を、「女に恥ずかしさが無くなれば良いとこなし」と言う言い方がされています。しかしそこにある「潜在的な恥知らず」の根性こそ物笑いでしょう。

 映画界では女性に対し「ただで美味しい物は買えない」という言い方がされています。
 しかし社会の維持と調和のために必要なのは”誠意”です。誠意のない取引は社会を混乱させるだけです。
 私の主張は時代の進歩によって何時かは認められるでしょう。例え千年万年が経とうとも。

記者:これまで貴女は職場やマスコミなど社会からつまはじきされてきました。しかし貴女はこの社会が貴女を非難する資格がないと考えています。そしてこの社会の道徳水準を上げることに命を賭けていると。だた、そこには一種のやけくそのような気持ちになっていませんか。
張:現在の道徳規則が嫌なら、もう映画界を去れ、と言う声が聞こえています。
 では映画界に女優が必要ないのでしょうか。 
私は女優として、トップに立とうとか考えたことはありません。ただ一つ一つの演技に熱中して、その結果人々が私の演技を評価してくれれば良いと思っています。
記者:貴女の両親は現在の風評を知っていますか。
張:多分知らないでしょう。今世間からもの笑いされていることを知ったら両親は心配するでしょう。田舎の両親達はその田舎の世界にそのままで居て欲しい。

記者:貴女は孤児だったのですか。
張:父が昔芝刈りに行って私を拾いました。だから本当の両親を知りません。多分天から降ってきたのでしょう。(笑い)
7歳まで農村で育ち、その後父が都会へ私と一緒に出てきました。都会では私は周囲の人達に蔑まれ差別されました。中学までは本当に不遇の身でした。当時の気持ちは皆さんには理解出来ないでしょう。

記者:愛情についてなにか。
張:私には愛情についてはあまり信用出来ません。有る男性と理解出来そうになっても何処かでその男性を信用出来ません。
記者:貴女は自己を守るという意識が強いのでは。
張:そうかも知れません。多分私は一生信頼出来る男性と出会えないでしょう。
記者:貴女は男性の全側面が信頼出来ないと心が許せないのでしょうね。
張:世間では私を毒蛇と言っています。毒蛇が美女に変身したと。すると私を取り巻く男達は悪魔です。悪魔と毒蛇が取引している社会でどんな子孫が生まれるのでしょうか。

この数年中国では性の要求を暴露して名を挙げる女優の事件や、性の要求をした事件が暴露されるなどの事件が相次いでいる。
 

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訳者注:
 今インターネットで検索すると張さんの写真が幾つも出てきます。かなり注目を集めているようです。今年の10大題目の1つになっています。

 中国には公的な監督機関(裁判所や行政)が実質上無いので、このような問題が蔓延しても改革することが出来ません。
 北京の裁判所も独立機構ではないので、社会的規範を守るという気概がないのでしょう。権限もない。

 そのためこのように自身の恥さらしを覚悟して訴えることになります。
 しかしこのような映画界にとって反乱に近い行為が出来るのも前回述べた「単位」以外に働く場を得られるようになったからです。
 単位しかなければ張さんは生きていくことができません。食糧の配給がありません。住宅がありません。

今後、社会主義故の反乱や悪政暴露が出てくるでしょう。
 中国やソ連で何故芸術が発展しなかったかの理由の1つでしょう。