雲南省の武定村で起こった少年による強姦事件

06/11016 文学城  雲南インターネットより

 10月28日(土)に雲南省人民法院で行われた審議の内、銭庚という18歳の子供の裁判に大勢の住民が詰めかけた。
 背は小さく痩せていて、一見したところ12歳程度に見え、本当に今回の大事件を起こしたとは思えない子供に見える。
 しかし彼は9人の少女達を強姦し近隣を恐怖のどん底に落とし込んだ。
 その小さな姿を見た人達の口から「父母が都会へ出稼ぎに行き、子供の世話をせず学校にも行かせない。当然このような事件が起こるだろう。これは親の責任だ」或いは「今は何処の子供も親の養育や監視が無く外でやりたい放題だ。何が起こっても不思議ではない」という感想を述べる人が多かった。

 被疑者とされている少年は近所の人の話では父親が無く、母親は他家へ嫁ぎ、兄が居るがその兄は昆明へ出稼ぎに行っている。従って誰も世話をする人が居ない。

その裁判後、記者は近隣を尋ねた。

何処の家も子供が大きくなっても学校へ行かせない。各種事件が起こるとその犯人の年齢は未成年であることが多いという。だから 親の責任でもあり同時に社会の環境が問題だ、と人々は言う。

 有る中学の先生は「ちょうど中学生になる頃、子供の身心に顕著な変化が現れます。その時親がいないという事はその子供達にとって大きなマイナスとなっています」と語る。

 記者は11月2日銭庚の家を尋ねた。周囲の村は山に囲まれ池には養魚場があり家鴨もいる。近くの木々の下でトランプをしている老人もいる。
 村長に案内されて銭庚の家まで案内して貰った。土壁の家の周囲には草が荒れ放題。入り口は半分崩壊している。傍に柿が実っている。しかし家の中は 乱れていて中には入れなかった。

 村長が説明してくれた。
「銭庚は父親は彼が生まれた直後に亡くなり、母親は都会へ出稼ぎに行っていたがしばらくして隣村へ嫁いでしまった。兄が居るが彼も出稼ぎでここには居ない。銭庚は学校が嫌いで言葉が少なく、こそ泥の癖が付いてしまっている。誰も世話をしたがらない。当然年齢が大きくなれば事件を起こすでしょうな」。

 人民法院で見せて貰った調査によると、05年12月から銭庚は9人の少女を強姦した。少女の年齢の最高は10歳、最低は4歳。 ただ事件の時は18歳未満なので、10年の拘留刑となった。

 銭庚が犯罪を始めた頃村人は皆その事件を知っていたようだ。しかし誰も自分の娘は大丈夫と思って、公安へ届ける人が居なかった。何処の家庭も親が不在だからである。数件の事件後に公安へ届けたのは隣家の70歳のお婆さんである。
 そのお婆さんが洗濯をしているとき4歳の孫娘が机の上の2角のお金を見つけそれを持って外へ走り出した。するとそれを銭庚が追いかけ近くの林で強姦した。翌日偶然母親が都会から戻ってきて娘の事故を知り医者へ連れて行った。そしてお婆さんが公安へ届けたのである。
 両家の家は屋根が同じで並んでいる。その家では両親が都会へ出稼ぎに出かけており、一月に1度位帰宅する程度だ。お婆さんの家には老人が3人と4歳の孫娘が居た。そのお婆さんが隣家の銭庚の面倒も見て大きく育ててきた。
 ただ母親が帰宅したときは銭庚は何処か余所の家に行ってしまって姿を見せなかった。記者がその家を訪問したとき4歳の孫娘が居たが、自分の身に何が起こったのか、そのこと自体理解出来ていないようだ。
 
 村長の話では銭庚が悪さをした時、銭の家には親が居ないので訴えても無駄であること、さらに被害者の家にも親が居ないので直ぐに訴えようがないことなどで事件が重なったという。
 しかしこのような村の状況はここの村だけの話ではない。それは今の中国全体の農村に共通した問題であろう。

この問題の解決は緊急を要している。親が不在で家には老人子供だけなので、空き巣は常時発生している。村に残された子供の養育が放置されている問題はさらに重要だろう。

統計によると現在中国には1億2千万人の農民が都市へ出稼ぎに行っている。残された家庭には約2千万人の子供が留守番をしている。
 留守の子供達はその88%が親と電話で連絡を取っている。その頻度は1週間以上空いている。留守の子供の9%(180万人程)は親との連絡はない。
 留守の子供の半数は都会の親と一緒の生活を望んでいる。残された子供の4分の1は世話を焼く老人とほとんど話もしていない。 

 雲南省は人口の87%が農民で、家に残された子供の数は80万人を超える。その子供達の養育と教育は大きな緊急に解決をされるべき社会問題となっている。
その子供達にとって「母親の愛」「父親の愛」と言う言葉はほとんど死語となっていて、それが農村の青少年犯罪発生に直接結びついている。

 04年中国農業大学人文学院教授の叶敬忠氏が中国西部農村の留守を守る子供達を調査している。
 基本的な結論は、「両親は都会へ出なければ収入がないこと。都会では子供を養えないこと。都会では子供の教育や公的支援がないことが原因」と記されている。

 06年9月14日、全国婦人連絡会が電話討論会を開いた。その議題は「農村留守家族の子供達の心身の健全な成長を如何に守るか」である。その解決には各家庭だけでは困難であり、社会がこの問題を重視すること、社会的に良い環境を作ること、家庭と学校と社会が連絡を取り合い対策を立てること、が結論とされた。

 
 雲南省の婦人連絡会の一会員が「今年の末から実態調査をします。問題が大きくなる前に直ぐにでも対策を立てるべきです」と話してくれた。

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訳者注:
 読んだ後、心の底から悲しくなる記事です。何故これほどまで農民を差別するのでしょうか。これは差別と言うより「棄民」です。
 ただ棄民というのはもっと人数の少ないものですが、中国では1億2千万人の農民が出稼ぎし、2千万人の子供が留守番をしています。 
 「四川省や河南省ほど酷くない」という官僚(党幹部)の言葉も「信じられない」気がします。無責任、官僚主義の典型。
 最近の日本での新聞報道によると、オリンピックの期間北京市内から出稼ぎ農民を追い出す案が決議されたそうですが、外国に報道されて慌てて否定しているそうです。