出稼ぎ農民の待遇は如何に

06/09/07 南方週末 肖 耳火

 中国政府が農民に出稼ぎをさせている現状は恐らく人類史上最も有意義な貧困救済策であろう。出稼ぎは農民が貧困から抜け出す最善の方法を提供している。
 出来ることならその農民達に平等と人権などの権利が与えられればもう言うことはない。

 この数日前、北京で「新華文摘」が主催した会議があった。主催者はそこに参加した国内外の企業に出稼ぎ農民の賃金引き上げや就業機会の拡大を訴えた。
 その訴えは参加企業に大きな影響を与えたようだ。
 
 実際何処の企業経営者も内地で出会う農民達の生活を見て同情するところ大である。
 だが、企業間の競争も激しいので、その同情が直ぐに賃金引き上げや就業機会の拡大に結びつくわけではない。
 中国での市場競争は非常に激しく、これまでに従業員の賃金引き上げのために倒産した企業も数多い。企業の倒産によって従業員の就業が失われている。

 出稼ぎ農民の最低賃金向上も企業の倒産しない範囲でのみ可能で、企業を増やし雇用機会を増やすことが絶対必要だ。
 これまで出稼ぎ農民の最低賃金が延びないのはその辺に関係しているだろう。だが最近になって出稼ぎ農民が不足する状況が表れ最低賃金も上昇を示している。

出稼ぎ農民が中国の経済成長に果たして来た役割は絶大だ。もし1.5億人の出稼ぎ農民が辛苦をいとわず昼夜服務することがなければ、現在の中国の成長はあり得なかっただろう。
 出稼ぎ農民は中国のあらゆる地方から登場し、汚れた苦しい労働を受け持ち、しかも常に最低賃金で働いてきた。
そのことで都市住民の安定した生活が生まれているのだ。
 都市の一人っ子達が親と一緒の生活を送れるのも出稼ぎ農民のお陰だろう。
 それに反し農村では子供達は出稼ぎ親とは別居となり老人に世話されている。さらに言うならその両親だって違う都市に出かけていることが多い。
 
 出稼ぎ農民が退職や失業などの時、収入が少ないので都市に止まる方法が無くやむを得ず農村に返っていく。そこには気の塞ぐような小さな田畑が待っているだけだ。
 中国政府はこれまで農民に対し土地の売買を禁じてきた。それは土地がなければ農民が頼るべき生活の手段が無くなるからだ。農民達が土地を失えばそれは正に大きな社会的問題となる。
 出稼ぎ農民の待遇を如何にするかは、中国の貧困問題解決と直結している。もし彼等の収入と生活水準を上昇することが出来れば、農民が都市に留まることも可能となるだろう。
 9億の農民の半分以上が今後の10年で出稼ぎに出る可能性があり、その待遇が如何に改善されるかで、中国の政治・経済・社会の問題が解決される。

 現実を良く監察すれば、農村の生活と出稼ぎの生活とはほぼ同じ水準と言える。
 農村の生活水準が高ければ出稼ぎ農民は農村に引き返すだろう。反対に出稼ぎ農民の生活が農村よりも高ければより多くの農民が都会へ出かけ、賃金水準が下がり、村では田畑が放置され、やがて農村の生活水準が上昇に転じるだろう。こうしてどちらも平均化される筈だ。
 このことは誰よりも農民自身が充分に理解していることであり、政府もこの点を考えて政策を建てているだろう。
 出稼ぎ農民の賃金水準を上げることが難しく、また農村の生活を高めることも難しい。その困難な理由の最大の原因は中国の労働市場に9億という巨大な余剰労働人口を抱えていることだ。
 農民達が如何にもがいても、その選択は常に最低の賃金の職場のみしか存在しないのだ。
 それは正に農民にとっては残酷である。そのことは今後とも当分の間長期に渡って都市住民と比較すれば残酷な状態が維持され続けるだろう。
 
 このことに悲観になっているだけではいけない。例えばアフリカを見よう。中国の農民は”出稼ぎ”という選択肢がある。しかしアフリカの農民にはそれは無い。中国には出稼ぎという選択肢があることでアフリカのような”絶対的な貧困”は無い。中国には絶対的な貧困は既に消滅している。
 つまり出稼ぎ農民と言う手段は人類史上極めて希な優れた、農民に有意義な手段だ。大規模な貧困救済策だ。
 アフリカではこのような手段は存在しない。現在の世界は一つの国家ではない。発達した国家はアフリカから出稼ぎに来ることを許していない。国連も中国政府が取っているような政策を採用出来ないだろう。
 中国東南部の沿海部の住民達は内陸からや西部からの出稼ぎ者を受け入れている。これはとても素晴らしいことだ。
 中国政府は最近都市に住む農民達を差別しないことが重要であることを認識し始めた。さらに農民の子弟と都市の子弟とを平等に扱うこと、住居権、教育権、医療権、など等の基本的人権を認めようとしている。それが実現すれば巨大な歴史的進歩と言える。それは人類史にとっても一つの偉大な業績と後世に言われるだろう。
 
 その実現のために幾つかの提案をしておきたい。
1.中国の剰余労働力と剰余資本が結合しやすくするために金融業の改革と開放が必要だ。

2.就業機会を増加するために労働密集型生産の場を拡大すること。
 例えば中国の飲食業は民営化の先端産業で、そこでは政府による制限を殆ど受けなくなっている。飲食業は中国大陸全体で各種各様の需要を創造し文化を創造している。それは世界的な水準とも言える。

3.都市に来ている農民達に廉価で基本的な公共設備の提供を整えること。
 図書館や衛生教育の場など。これらは農民の子弟が大きくなるときその成長に大きなプラスの影響を与えるだろう。それは将来の生産力増大にも結びつくだろう。現在の都市が用意しているそのような施設は農民にとっては豪華すぎ高価すぎて利用が不可能となっている。 
 
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訳者注:
 この記事は中国での農民が如何に”残酷”であるかを詳細に説明し、人権や都市住民との平等権利が無いことを説明しています。
 ただそれだけだと報道出来ないので、出稼ぎに行けることを”政府の重要な成功”として最大限に持ち上げています。
(まさか本当に農民の出稼ぎを賞賛しているのではないでしょうね)

 今まで出稼ぎ農民を逮捕して罰金を取り、公安の財政補助にしていたのは何処の政府でしょうか。
 これまでの経済成長が農民の昼夜に渡る労働に大きく依存してきたことを認めながら、しかし中国の人口13億の過半数の9億の農民の労働が中国国家においては「剰余」であると記すあたり、中国での農民の扱いが如何に無視されているかがより鮮明になっています。
 中国の農民が絶対的貧困状態から抜け出したのは毛沢東が死んで農民達が「血判状」を作り自主生産や決死の出稼ぎを始めたからです。
 そこに政府は監視を強めただけで、決して農民の味方をしたことは有りません。建国後50数年農民を縛り付けていただけです。
 
 ただ、06/08/17の記事には「出稼ぎ農民の大幅な不足が目立つ」と言う記事があって、20%から40%の人手不足が見られるようになった、と書かれています。
 それは南東の海岸方面から始まって、内陸部にまで及んできており、一つの市で20万人の出稼ぎ不足があるところもあります。
 その原因の一つは70年代までは見られた”子沢山”が”少子化政策”で農民の人口増が止まっており、多方経済成長が9%程度上昇していることで需要が増えていることだそうです。
 これまでの記事にあったように、日本や韓国や台湾のように、農民の自主的な組織が出来れば、人権や平等も解決される好都合な時代条件が表れていますが。社会主義では夢でしょうか。